東北大学 大学院理学研究科・理学部

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RNAの材料分子が非生物反応で選択的に生成
-ホウ酸が化学進化を促進か?-

発表のポイント

● RNAの材料となるリボース5'-リン酸(注1)が、ホウ酸の働きによって、リボース(注2)とリン酸から非生物反応(注3)で選択的に生成することを初めて明らかにしました。

● リボースの異性体に比べてリボースのリン酸化が優先的に起こることが明らかになり、ホウ酸(注4)が豊富な環境ではRNAの材料として、リボースが選択され得ることが明らかになりました。

● 生命誕生前のヌクレオチド(注5)生成が、これまでの研究とは異なり、現在の生体反応と似た経路で行われていた可能性を示しています。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

20220719_10.png最初期の生命では、RNA(図1:RNAのモデル図)が生命の根幹をなす働きをしていたとするRNAワールド仮説が支持を得ています。しかし、生命のいなかった太古の地球でRNAがどのように組みたったのかは大きな謎となっています。

東北大学大学院理学研究科の博士課程学生・平川祐太、古川善博准教授、掛川武教授の研究グループは、ホウ酸の存在によってリボースとリン酸の結合が5'-水酸基に選択的に起こり、ヌクレオチドの材料であるリボース5'-リン酸が選択的に生成することを明らかにしました。また、ホウ酸が存在する場合にはリボースの異性体である複数の糖の中で、リボースのリン酸化が最も卓越することを明らかにしました。

この結果は、RNAの材料であるヌクレオチドの生成が、これまでの研究とは異なり、現在の生体反応と似た経路で起こっていたことを示すと共に、生命誕生前の地球でRNAの材料としてリボースが選択され得る環境を示唆するものとなります。本研究成果は、2022年7月19日発行の総合学術誌『Scientific Reports』で公開されました。



発表内容

現在の生命では、DNAが遺伝情報を記録し、その情報に基づいてRNAを介して作られるタンパク質が様々な生体反応を駆動しています。その一方で、最初期の生命では、RNAがDNAとタンパク質の両方の役割を果たしていたと考えるRNAワールド仮説が支持を得ています。しかし、生命のいなかった太古の地球で複雑な高分子であるRNAとその材料分子であるヌクレオチドがどのように組みたったのかは大きな謎となっています。

リボヌクレオチドは、リボースの特定の位置にとリン酸と核酸塩基が結合した分子で、この分子が連なってRNAが作られます。これまでの研究では、リボースが核酸塩基と結合した後にリン酸と結合する反応が専ら研究されてきました。その一方で、リボースがリン酸と結合した後に核酸塩基と結合する反応はリボースとリン酸の結合がうまくいかないために、長年見過ごされてきていました。

東北大学大学院理学研究科の博士課程学生・平川祐太、古川善博准教授、掛川武教授の研究グループは、ホウ酸の存在によってリボースとリン酸の結合がリボースの5'-水酸基に選択的に起こり、リボース5'-リン酸が選択的に生成することを明らかにしました(図2)。リボースとリン酸の5'-位置での結合はRNAだけでなく、生体内でエネルギーとして働くATPなどにも存在する重要な結合です。

現在の生命は、リボース5'-リン酸を生成し、そこに核酸塩基を結合させてヌクレオチドを生成しています。しかし、これまでに考えられていた生命誕生前のヌクレオチド生成はこの過程とは逆でした。今回の研究成果は生命誕生前の地球でリボース5'-リン酸の生成が可能であることを示すことで、生命誕生前のヌクレオチド生成が生体反応に似た経路で起こっていた可能性を示しました。

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図2.ホウ酸の働きによってリボースからリボースリン酸が生成する反応の概念図


また、リボースの異性体であるアラビノース、キシロース、リキソースに対するリン酸化の程度を比較したところ、ホウ酸の存在する環境では、リボースのリン酸化が最も卓越することが明らかなりました。「生命のRNAを構成する唯一の糖分子が、なぜリボースなのか?」という問いは生命の神秘的な分子選択を象徴する謎の一つと考えられています。この研究成果はホウ酸がその選択に大きな役割を果たし得るということを明らかにしたものです。以上の成果は、今週、Nature Publishing Groupが発行する総合学術誌『Scientific Reports』に出版されます。



謝辞

本研究は東北大学変動地球共生学卓越大学院プログラムと日本学術振興会科研費補助金(21J22596; 15H02144; 18H03729; 22H00165)、東北大学学際科学フロンティア研究所の支援を受けて行いました。



語句説明

20220719_30.png (注1)リボース5'-リン酸
リボースの5位にリン酸が結合した分子.RNAにもこの位置にリン酸が結合している。


20220719_40.png (注2)リボース
糖の一種でRNAに含まれる唯一の糖だが、安定性が低く、なぜRNAに使われているのかが謎となっている。


(注3)非生物反応
生物や生体触媒である酵素などが関与しない反応。生命誕生前の地球では、非生物反応のみが起こっていた。


(注4)ホウ酸
ホウ素の酸化物で温泉水などに多く含まれる.リボースと複合体を形成しやすく、リボースの安定性を上昇させる効果が知られている.身近な例ではガラスの材料などに使われている。


20220719_50.png(注5)ヌクレオチド(リボヌクレオチド)
リン酸とリボースと核酸塩基が結合した分子で、RNAはリボヌクレオチドが連なった高分子。



論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Borate-guided ribose phosphorylation for prebiotic nucleotide synthesis
著者:Yuta Hirakawa, Takeshi Kakegawa, Yoshihiro Furukawa
DOI番号:10.1038/s41598-022-15753-y



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web
大学院生 平川 祐太(ひらかわ ゆうた)
准教授  古川 善博(ふるかわ よしひろ)
電話:022-795-3453
E-mail:yuta.hirakawa.s2[at]dc.tohoku.ac.jp
    furukawa[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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