● 過去5億年間に起きた生物危機について、世界平均気温の変化が大きいほど動物の絶滅規模が大きくなることを陸と海の両方で示した。
● 絶滅時の7-9℃の地球温暖化、または7℃の地球寒冷化が60%以上の動物種の絶滅に相当する。
● 世界平均気温の変化と環境変化が同調する場合は、現在進行中の動物の絶滅規模は、将来、5大大量絶滅(*)の規模には達しない。
5億2千万年前のカンブリア紀に現在の動物の基本系統(節足動物・軟体動物・脊椎動物など)が出揃い、その後、短い時間に大多数の動物の種(しゅ)が絶滅する事件が繰り返し起きています。これらを大量絶滅*と呼びます。主要な大量絶滅の原因は、大規模火山噴火と小天体衝突に絞られてきました。それらと同時の気温の変化も、化石の酸素同位体比や堆積岩中の古細菌由来の有機分子比により測定されていて、寒冷化・温暖化それぞれが大量絶滅の原因の場合があります。しかし、陸の動物の絶滅規模(%)と気候変動の関係は今まで明らかにされていませんでした。
東北大学の海保邦夫名誉教授は、過去の大規模な動物の絶滅と現代の動物の絶滅の論文に報告されたデータを解析し、世界平均気温の変化が大きいほど陸でも海でも動物の絶滅規模が大きくなることを示しました。その関係は、7-9℃の地球温暖化または7℃の地球寒冷化が5大大量絶滅最小規模(60%の動物種の絶滅)に相当することを示しました。絶滅原因の気温変化と環境変化の規模が同調していたために、気温変化と動物の絶滅規模が比例関係になったと考えられます。それが現在にも適用できる場合、現在進行中の動物の絶滅規模は、将来、5大大量絶滅の規模には達しないことがわかりました。
本研究の成果は2022年7月22日(金)14:00(中央ヨーロッパ夏時間)付けで、ヨーロッパ地球科学連合のオープンアクセス誌「Biogeosciences (バイオジオサイエンシーズ)」に電子版として掲載されました。
地球上に各種の多細胞動物が出現して以来の過去5億2千万年間で、5回の主要大量絶滅が記録されています。それらの絶滅規模は、真核動物の種について60%以上で、その際に地球環境は当時の動植物にとって悪化しました。オゾン層崩壊、酸性雨、大気・海洋・土壌汚染・海洋無酸素化などです。その環境激変と絶滅原因の研究が世界中で活発に行なわれています。海保名誉教授が示した気温水温変異と大量絶滅の関係図(図1)は、それらの比例的関係を示しています。気温変化と絶滅規模の相関は0.92-0.95(1が直線関係、0が関係性がない状態)で非常に高いです。これは、絶滅の原因となる気温変化と環境変化が同調していたためと考えられます。その同調性は現代の地球でも見られますが、それが将来にわたり継続するならば、現在進行中の動物の絶滅は、5大大量絶滅の規模には達しないと言えます。昨年の他の研究グループ (Song et al. 2021,Nature Communications)の論文では、過去の海の動物の絶滅規模と海水温変化の間に良い相関(0.62)を見出し、将来、海の動物の絶滅が5大大量絶滅の規模に達する可能性を指摘しましたが、これは、海水温の変化と世界平均気温の変化を同じに扱っているための誤解釈と考えられます。今回の論文では、世界平均気温の変化は海水温変化の1.4倍であることを示し、地層から測定された低緯度表面海水温の変化から世界平均気温の変化を求めて、既存の将来の世界平均気温の変化の予測と合わせて、新たに結論を導きました。Songらの解析には、絶滅と気温変化の同時性が不明の事件が多数含まれています。海保名誉教授は、絶滅と気温変化の同時性が確かめられている7事件のみを解析しましたので、より高い相関が得られたと考えられます。
今回明らかにした絶滅規模と気温水温変異(図1)の関係の中には、2つの関係が見えます。ひとつは、同じ地球温暖化事件では陸の脊椎動物の方が海の動物より温暖化に弱いこと(寒冷化の場合は同じくらい)、もうひとつは、それぞれの生息域における同じ温度変異(陸または海における全球平均変異)に対しては、海の動物の方が弱いことです(付録)。両方の特徴は現在進行中の動物の絶滅についても当てはまります。
図1:気温水温変異と絶滅規模の関係。青丸は海(表面海水温全球平均変異―海の動物種の絶滅%)、赤四角は陸(陸上表面気温全球平均変異―陸の脊椎動物種の絶滅%)、中空の印は寒冷化、他は温暖化を示す。水色部分は5大大量絶滅。動物のシルエットは当時の代表的動物。F-F:フラスニアンーファメニアン境界。気温水温変異は事件前からの変異を表す。(海保名誉教授提供; 付録図fを改訂)
* 大量絶滅
生物の大量絶滅は、化石が残りやすくなってから記録されるので、実質的には、多細胞動物の種(しゅ)の多くが絶滅し地球上からいなくなることです。多細胞動物が現れて多様化してからの5億年間に大規模な大量絶滅は5回起きています(主要大量絶滅、図2)。種(しゅ)より高次の分類単位の属と科のレベルでも顕著な減少が現れるのが特徴です。5大大量絶滅では、種(しゅ)で60%程度以上、属で35%程度以上、科で15%程度以上が地球上からいなくなっています。より小規模の大量絶滅も確認されています。
雑誌名: Biogeosciences
論文タイトル:Relationship between extinction magnitude and climate change during major marine and terrestrial animal crises
著者:Kunio Kaiho
論文URL:https://doi.org/10.5194/bg-19-3369-2022
東北大学名誉教授(元 理学研究科地学専攻)[web]
海保 邦夫(かいほ くにお)
電話: 022-394-3931
E-mail: kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
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