東北大学 大学院理学研究科・理学部

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約19億年前の地層から未報告の微生物化石を発見
初期原生代の特異な地質環境が原核生物の多様な進化を促した

発表のポイント

● 約19億年前のガンフリント層(カナダ)からこれまでに報告のない5つの新型の微生物化石を発見した。

● 原核生物(注1)が当時の環境変化に応じて多様に進化し、コロニー形成、休眠、栄養獲得や備蓄など、一部は真核生物(注2)にみられるような機能を既に獲得していたことがわかった。

● 初期原生代の特異な海洋環境が生物の多様化に影響を与えた可能性がある。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

「原核生物から真核生物への進化が、いつ、なぜ起こったのか」という生命進化史上最大の疑問の一つに、わずか0.01mmの化石がヒント与えてくれるかもしれません。東北大学大学院理学研究科の笹木晃平大学院生らの研究チームは、約19億年前(=初期原生代)の微生物化石であるガンフリント微化石の調査を行い、従来の報告にはない形状をもつ、コロニー型、楕円型、細胞組織内包型、有尾型、トゲ型の5つの新型の微生物化石を発見しました。これらはそれぞれコロニー形成、栄養備蓄、さらに運動性や栄養確保といった生存に有利な機能を発現させたものです。さらには、詳細な形態観察や微小領域化学分析により、その一部は真核生物特有の形状である可能性が明らかになりました。本研究により、原核生物は、真核生物の化石が地層に確認され始める約18-16億年前より前から機能を様々に多様化させ進化の"準備"を始めていた可能性が新たに示されました。

本研究の成果は、学術誌「Precambrian Research」に2022年8月19日にオンライン掲載されました。



詳細な説明

背景

化石はある地質時代の生命やその生息環境がどんなものだったかを示す最も直接的な証拠です。頑強な骨格を持つ恐竜の標本などが有名ですが、原核生物など肉眼では見えない微生物も微小な有機物の構造体として地層に残されます。カナダのガンフリント層から発見された約19億年前の微生物化石群(通称ガンフリント微化石、図1)は、科学史上初めて認識された原核生物の化石です。この発見以降、原核生物の形態多様性や、原核生物から真核生物への進化の時期の検討など、微生物化石(以下、微化石)の研究が一気に促進され、ガンフリント微化石は常にそうした研究の基準として比較分析されてきました。

一方で、ガンフリント微化石自体の多様性の検討は1970年代以降ほぼ更新されておらず、他地域の同時代の地層に報告されているコロニー型の微化石など環境に対応し機能的に進化した原核生物の痕跡や、18億年前より新しい地層から報告されている真核生物様の微化石はほとんど報告がありませんでした。


成果

東北大学大学院学理学研究科の笹木晃平大学院生(現研究員)、石田章純助教、掛川武教授らは、東京大学大気海洋研究所の佐野有司名誉教授(現高知大学海洋コア総合研究センター長)、高畑直人助教らと研究チームを編成し、ガンフリント微化石の再評価に取り組みました。研究チームはガンフリント層で地質調査を行い、微化石を含むストロマトライト(注3)(図1)を新たに採取しました。採取試料から岩石薄片を作成し、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて微化石の形状記載や3次元構造、サイズ分布の検証等、従来報告されているガンフリント微化石との比較を行いました。その結果、従来型のガンフリント微化石とは形態的に異なる、コロニー型、楕円型、細胞組織内包型、有尾型、トゲ型の5つの有機物微小組織を発見しました(図2)。研究チームはさらに、顕微ラマン分光分析装置(注4)による微小構造中有機物の熟成度の評価や、2次イオン質量分析計(注5)を用いた炭素窒素硫黄のマッピングなど複数の微小領域化学分析を行い(図3)、非生物的な成因に繋がる様々な可能性を排除し、これら5つの微小組織が新型の微化石であることを証明しました。

新たに発見されたコロニー型微化石は、複数の細胞が塊状に共存する仕組みがすでに成立していたことを示します。コロニーの形成は個々の細胞が独立して存在する従来型の微化石と明確に異なり、"共生"という次の進化に向けた変化の始まりと見ることができます。楕円型微化石はその形態的特徴からakineteと呼ばれる現代のシアノバクテリア(注6)が作る休眠細胞に類するものと判断されました。シアノバクテリアは温度や日光、栄養不足など環境ストレスにさらされた時に特定の細胞に栄養を集中させ休眠状態に入ります。つまりAkinete様微化石の発見は当時の原核生物がすでに現代の生物と同様の生存戦略をとっていたことを示します。栄養を細胞内部に溜め込む仕組みは、細胞組織内包型微化石としても同様に現れており、これらの発見は急激な環境の変動が予想されている当時の海洋において原核生物が環境に対応、進化した痕跡と見ることができます。一方で有尾型、トゲ型の微化石に見られる突起構造は、運動性や栄養獲得範囲の拡大、他の個体との栄養授受に有利に働くと考えられ、高度に形態を進化させた真核生物の特徴に当てはまります。サイズや細胞膜の特徴が現在の真核生物の定義に当てはまらないためこれらを「真核生物の微化石」とは断定できませんが、原核生物がこの時代までにすでに機能面で真核生物に類する進化を遂げていたことが初めて明らかになりました。

なぜこうした多様な進化がこの時代に起こったのでしょうか。ガンフリント層堆積当時は全球的に火成活動が活発化した時期であり、地殻変動により頻繁な海水準の変動が起こっていたとされています。同時に、地球表層の酸素濃度が急増した後の時期(注7)でもあり、風化による大陸から海洋へ栄養塩の供給量が高まっていました。さらに、過去の研究からこの時代の海水温は45度を超えていたと見積もられており、ストロマトライトが形成されるような浅瀬では蒸発により海水溶存成分の濃度が高まっていたと予想されます。研究チームではこうした環境的な特異性が当時の生命の進化を促したと推測しています。その中で発見された多様な形態の微化石は、こうした環境背景の中、原核生物が形態を多様化させ、真核生物への進化の準備をこの時代に始めていた痕跡と考えられます。本研究の発見は生命進化史上重要な、原核生物から真核生物への進化の時期や要因を示すヒントとなる初めての直接的な証拠であり、地学的意義のみならず生命科学や進化生物学など関連分野研究へも波及的に新たな知見をもたらすと期待されます。



用語説明

(注1)原核生物
細胞内に核を持たない単細胞生物。バクテリア(細菌)とアーキア(古細菌)の2つのドメインを含んでいる。

(注2)真核生物
細胞中に核をはじめとした細胞小器官をもつ。原核生物に比べて形態的に多様で、大型なのが特徴である。

(注3)ストロマトライト
シアノバクテリア(注6)などの微生物と、砂などの砕屑物が幾重もの層構造を作って形成されたドーム状の岩石。浅瀬など有光層で形成される。

(注4)顕微ラマン分光分析装置
試料にレーザー光を照射し、分子振動に起因して発生するラマン散乱光を測定する装置。有機物中の炭素のグラフェン量に起因するビークと、格子欠陥に由来するピークの比を取ることで有機物の熱変成度の指標になる。

(注5)2次イオン質量分析計
1次イオンを試料表面に照射し発生した2次イオンを測定する装置。1ミクロンの空間分解能で希ガス以外ほぼ全ての元素を対象にイメージングが可能。

(注6)シアノバクテリア
酸素発生型光合成細菌。ガンフリント層で発見されている球状やフィラメント状の微化石はシアノバクテリアの近縁種と考えられている。

(注7)酸素濃度の急増
約23.5億年前、大気中の酸素濃度が急増した大酸化事件が起こったことが様々な地質記録から報告されている。


本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(18H03729,18K13645,20J14697),日本興業振興会助成金(J210001065) の支援を受けました。また、東京大学大気海洋研究所共同利用研究(受付番号106(R3),106(R2),109(R1))として行われました。



論文情報

雑誌名:Precambrian Research
論文タイトル:Evolutionary Diversification of Paleoproterozoic Prokaryotes: New Microfossil Records in 1.88 Ga Gunflint Formation
著者:Kohei Sasaki, Akizumi Ishida, Naoto Takahata, Yuji Sano, Takeshi Kakegawa
DOI番号:10.1016/j.precamres.2022.106798
URL:https://doi.org/10.1016/j.precamres.2022.106798



参考図

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図1:ガンフリント層のストロマトライトと従来型のガンフリント微化石

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図2:本研究で発見した新型のガンフリント微化石

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図3:2次イオン質量分析計による微化石微小領域分析の例
微化石に残された微生物由来の炭素、窒素、硫黄がイオン化され、微化石の形状に沿ってイメージが見えている。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 地学専攻 資源・環境地球化学分野[web
助教 石田章純(いしだ あきずみ)
研究支援員 笹木晃平(ささき こうへい)
電話:022-795-5789
E-mail:ishidaz[at]tohoku.ac.jp
E-mail:kohei.sasaki.b2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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