東北大学 大学院理学研究科・理学部

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下部マントルで最も安定かつ大量に水を保有することが判明
~アルミナ含有シリカによる新しいマントル内水大循環モデルの提唱~

発表のポイント

● 下部マントル上部のルチル型(※1)シリカ(SiO2)は、水とアルミナ(Al2O3)を含むことで、下部マントル最上部で、塩化カルシウム(CaCl2)型相に形を変え、他の下部マントル鉱物に比べて、10倍以上の水を保有することが判りました。

● アルミナを含有するシリカは、水の保有量が温度と共に増加するという他の鉱物とは正反対の性質を持ち、マントル内の高温領域である上昇するプリューム中でも、多量の水を保有できることが判りました。

● 下部マントルにおける水の起源とマントル内の水の大循環が、このアルミナ含有シリカの振る舞いによって説明できることが判りました。



概要

プレートによって地球深部へ運ばれている水は、鉱物・岩石の性質を変化させる為、地球内部の物質循環や地球形成からの環境進化に大きな影響を与えていると考えられています。この研究では、下部マントルの水の運び手として、アルミナ含有シリカが主要な役割を果たすことを明らかにしました。中国北京高圧科学研究センターの石井貴之・Ho-kwang Mao研究員と東北大学理学研究科地学専攻の大谷栄治名誉教授、ドイツ・バイロイト大学バイエルン地球科学研究所のGiacomo Criniti博士課程学生と桂智男教授らの国際共同研究グループは、沈み込むプレート上部の玄武岩質海洋地殻を構成する重要な鉱物であるシリカ鉱物を高温高圧実験により合成し、アルミナと水の含有量を決定しました。

その結果、下部マントルの上部の海洋地殻に広く存在するルチル型シリカは、水とアルミナを含むことで、CaCl2型の結晶構造に相転移し、非常に高温の下部マントルでも、他の鉱物に比べ10倍以上の水を保有できることが明らかになりました。この成果は、下部マントルにおける水の存在様式とマントル内の大規模な水循環の解明に繋がるものです。

本研究成果は、日本時間2022年10月25日午前5時(米国東部時間:2022年10月24日午後3時)公開の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。



詳細な説明

地球内部は、深さ約30 kmまでの地殻、深さ2900 kmまでのマントル、深さ6400 kmまでの核で構成されています。マントルは深さ410 kmまでの上部マントル、410 kmから660 kmまでの遷移層、660 km以深の下部マントルに区分されます(図1)。

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図1:マントル構造と新しいマントル水循環モデル。©2022石井貴之


水は地球誕生以来、私たちの住む地球表層や地球内部を巡り、地震や火山活動の引き金となり、また、地球環境の進化にも大きな影響を与えてきました。地球内部に貯蔵できる水は海水の数倍とも見積もられています。水(海水)は海洋プレートによって地球深部へと運ばれます。プレートを構成する鉱物は、その結晶構造中に水を取り込んで(※2)、プレートから漏れないように、水を効果的に深部に運んでいます。プレートを作る鉱物は、その沈み込みによってマントル最下部にまで運ばれ、上昇するプリュームによって再度地表へ運ばれるという大循環をしていると考えられています(図1)。地球内部の水が、どこまで運ばれるのか、またどうやって地球表層へ戻ってくるのかは、未だ良くわかっていません。これを解明するためには、マントル鉱物がどの程度水を含むことができ、またどの程度の高温まで安定に水を保持できるかを知ることが重要です。

下部マントルに発生源があると考えられているホットスポットなどの海洋島火山(※3)で発見される玄武岩中には、他の玄武岩に比べ多くの水が含まれていることが判っています。これは、下部マントルが水の主要な貯蔵庫の役割を果たしていることを示唆しています。しかし、これまでの高温高圧実験(※4)から、沈み込むプレートの主要な岩石であるかんらん岩を構成する下部マントル鉱物は、ほとんど水を保有できないことが判っています。その為、下部マントルに沈み込んだ水の行方は未解明なままでした。本研究では、玄武岩に多く含まれるシリカ(SiO2)鉱物に注目しました。この鉱物は、これまで多量の水を含む可能性が提案されてきましたが、実際に含まれる水の量とその安定条件は、詳しく調べられてきませんでした。更に玄武岩は、アルミナ(SiO2に加えAl2O3)にも富んでいる為、アルミナを含むシリカ鉱物中の含水量を調べることが重要です。

中国北京高圧科学研究センターの石井貴之・Ho-kwang Mao研究員と東北大学理学研究科地学専攻の大谷栄治名誉教授、ドイツバイロイト大学バイエルン地球科学研究所のGiacomo Criniti博士課程学生・桂智男教授らの国際共同研究グループは、特別に改良をした高温高圧実験によって、下部マントル上部の条件で、良質なアルミナ含有シリカ単結晶を合成し、赤外分光法により精密な含水量を決定しました。その結果、シリカ中のアルミナ量は温度と共に上昇し、マントルの平均温度である1600-1700℃以上では、下部マントル上部で安定なルチル型シリカは、CaCl2型の結晶構造をもつ高圧鉱物に相転移(※5)することが判りました(図2a)。

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図2:(a)シリカ鉱物中のアルミナ量と温度の関係と(b)シリカ鉱物中のアルミナ量と含水量の関係。©2022石井貴之


また、このアルミナ含有CaCl2型シリカは、マントルの平均的な温度以上でも、ルチル型シリカに比べ多量(1重量パーセント以上)の水を含むことが判りました(図2b)。これは、他の下部マントル鉱物が保有できる含水量の10倍以上にも相当します。アルミナ含有量は、温度の上昇と共に増加し、含水量はアルミナ含有量と共に増加するので、含水量も温度の上昇とともに増加すると考えられます。

これまでに報告されているマントル鉱物では、鉱物中の含水量は温度の上昇とともに減少し、水を放出するのが一般的でした。地球内部は深さと共に温度が上昇するので、この性質は、深さと共に鉱物の水保有能力が低下することを意味しています。水は鉱物から放出されると、熱水流体や含水マグマとしてプレートから分離し、地上へと移動するため、鉱物が水を放出する深度が水の運搬深度の上限であると考えられています。その為、高温の下部マントルでは、鉱物は水を保持できず、より深部へは運搬できないと考えられてきました。本研究で合成したアルミナ含有CaCl2型シリカは、このようなこれまでの常識とは逆に温度と共に含水量が上昇し、マントルで最も高温のプリューム条件でも多量の水を保持できることが判りました。また、他の鉱物から放出された水は、プレートから分離するのではなく、プレート上部の玄武岩質海洋地殻中のアルミナ含有CaCl2型シリカによって捕獲されるので、水を効果的に下部マントル深部へ運ぶことができます。更に、このアルミナ含有CaCl2型シリカは下部マントルからプリュームによって水を上部マントルへ運ぶこともでき、下部マントルにおける最も有力な水の運び手であると考えられます。マントル遷移層や上部マントルでは、アルミナ含有CaCl2型シリカからルチル型シリカへの逆方向の相転移が起こり、水が放出されると考えられます。このアルミナ含有CaCl2型シリカの働きによって、遷移層-下部マントル境界直下の地震波低速度層やその境界でのプリュームの滞留、含水遷移層の存在など、これまでに発見されてきたマントル深部の特徴を上手く説明できます。このように、本研究で見出したアルミナ含有シリカは、マントル深部の特徴やマントル全体におよぶ水の大循環を解明する上で非常に重要な鉱物であることが判りました。



謝辞

この研究は、日独教育研究協力の一環として行われたものです。日本学術振興会(JP15H05748 and JP20H00187)、ドイツ科学財団、フンボルト財団に感謝します。



用語解説

※1. ルチル型
ルチルは、二酸化チタン(TiO2)の結晶の一種で、正方晶系の鉱物です。他の化学組成(AX2、A:陽イオン、X:陰イオン)でも、このルチルと同じ構造を持つ物質が現れることがあり、その場合、ルチル型AX2と表現します。ルチル型シリカは、約10万気圧以上で出現します。

※2. 結晶構造中への水の取り込み
結晶中の原子は、規則正しく周期的に配列しています。結晶内では、水は主にH2O分子としてではなくH+やOHとして、取り込まれています。これにより、水流体として存在するよりも高温まで安定に水を保持することができます。

※3. 海洋島火山とホットスポット
地球上で発見されている3種類の火山(その他2つは、中央海嶺火山と島弧火山)の一つ。その他火山は沈み込んだプレートの生成やプレートの沈み込みと密接に関係していますが、海洋島火山はプレートの動きとは無関係に存在しています。そのため、このような海洋島火山をホットスポットと呼ぶこともあります。地震波から得られるマントルの断面図から、海洋島火山は、下部マントル深部からの上昇流である高温のプリュームの位置と密接に関係しており、海洋島火山のマグマには下部マントルの情報が含まれていると考えられています。

※4. 高温高圧実験
地球内部の高温高圧条件を再現できる装置を用いて、地球内部に存在する鉱物を合成し、その性質を決定する実験です。代表的な実験装置として、マルチアンビルプレスとダイヤモンドアンビルセル(DAC)があり、この研究では前者を用いて実験を行いました。この装置は、DACに比べ発生圧力は劣るものの、地球内部の条件をより精密に再現することが可能です。

※5. 相転移
結晶を構成する原子は規則正しく配列していますが、圧力・温度が変化すると、全く違った配列に変化することがあります。これを相転移と言います。地球を構成する鉱物は、地球深部で様々な相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になります。



論文情報

雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences
論文タイトル:Superhydrous aluminous silica phases as major water hosts in high-temperature lower mantle
著者:Takayuki Ishii, Giacomo Criniti, Eiji Ohtani, Narangoo Purevjav, Hongzhan Fei, Tomoo Katsura, Ho-kwang Mao
DOI番号:10.1073/pnas.2211243119



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web
名誉教授 大谷 栄治(おおたに えいじ)
E-mail:eohtani[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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