東北大学 大学院理学研究科・理学部

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中性子星の合体で合成されたレアアースを初めて特定

発表のポイント

● 宇宙における金やプラチナ、レアアース(希土類元素)(注1)の起源は解明されていない。

● 中性子星(注2)の合体現象で重元素が作られることが分かっていたが、作られた元素の種類や量は明らかになっていなかった。

● 中性子星合体からのシグナルを解読することで、合成されたレアアースを初めて特定した。

● 宇宙における重元素の起源の解明につながる研究成果。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

宇宙における金やプラチナ、レアアースなどの起源は天文学・宇宙物理学の長年の未解決問題です。起源天体としては中性子星の合体現象が有力視されていましたが、そのような現象で実際にどのような元素が合成されたかは明らかになっていませんでした。

東北大学大学院理学研究科の土本菜々恵 大学院生 (日本学術振興会特別研究員)らの研究グループは、中性子星合体からの光のスペクトル(注3)を解読するため、全ての重元素の性質を網羅的に調べ、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ(注4)」を用いてシミュレーションした結果、ランタンとセリウムという一部のレアアースが、中性子星の合体で実際に観測された赤外線スペクトルの特徴を説明できることを明らかにしました。これは個々のレアアースが中性子星の合体で作られた初めての直接的な証拠であり、宇宙における元素の起源の理解を大きく進めるものです。

本研究成果は、2022年10月26日に「The Astrophysical Journal」電子版に掲載されました。



詳細な説明

地球や生物を構成する全ての元素は宇宙のどこかで作られたものです。例えば、炭素や酸素などの元素は星の中で合成されたことが分かっています。しかし、金やプラチナ、レアアースなど、多くの重元素の起源は未だ解明されていません。

宇宙には中性子ばかりでできた中性子星という天体が存在しており、二つの中性子星が組になっていると、重力波(注5)を放って合体することが知られています。このとき中性子星の一部が宇宙空間に吹き飛ばされると、金やプラチナ、レアアースなどの重元素が作られ、可視光から赤外線にかけて輝く現象 「キロノバ」が見られると考えられていました(図1)。2017年8月には連星中性子星合体からの重力波 (GW170817) に伴って「キロノバ」が観測され、中性子星合体で確かに重元素が合成されていることが確認されました。

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図1:中性子星合体と「キロノバ」の想像図。©Tohoku University


しかし、中性子星合体で合成された元素の種類や量は明らかになっていません。一般に、宇宙にある天体に含まれる元素の種類を調べるには、光のスペクトルを用います。個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるため、スペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができます。しかし、中性子星合体では物質が高速で膨張しているため、光のドップラー効果(注6)で波長がずれてしまい、元素の特定は非常に困難です。さらに、中性子星の合体によって作られる元素は鉄よりも重い元素ばかりで、そのような元素がスペクトルにどのような特徴を作るかも分かっていませんでした。中性子星合体GW170817に伴って観測された「キロノバ」では詳細なスペクトルが得られており、可視光域では、これまでにストロンチウム (原子番号38番) の兆候が報告されていますが、赤外線域には解読されていない吸収線の特徴が残されていました。

東北大学大学院理学研究科の土本菜々恵 大学院生(日本学術振興会 特別研究員)を中心とする東北大学、核融合科学研究所、東京大学、マックスプランク研究所の研究者からなる研究グループは、「キロノバ」のスペクトルを解読するため、全ての重元素がどの波長にどのような吸収線を作るかを網羅的に調べました。そして国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて詳細な数値シミュレーションを行い、「キロノバ」のスペクトルを計算しました。その結果、ランタン (原子番号57番) とセリウム (原子番号58番) という一部のレアアースがキロノバの赤外線スペクトルに吸収線を作ること、そして中性子星合体GW170817のスペクトルに見えていた吸収線の特徴がそれらのレアアースによって見事に説明できることが分かりました(図2)。これにより、実際に中性子星合体でランタンとセリウムというレアアースが合成されたことが初めて直接特定されました。

今回の結果は、私たちが宇宙の重元素合成の証拠をキロノバのスペクトルから直接得られることを示しています。今後、重力波の観測が進むことで、より多くの中性子星の合体が観測されることが期待されています。本研究で確立した手法を用いることで、宇宙における重元素の起源の理解が大きく進むことが期待されます。

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図2:GW170817で観測された「キロノバ」のスペクトル (灰色) と本研究で得られたスペクトル (青色) 。左の数字は中性子星合体発生後の日数を表す。破線で吸収線の特徴を、同じ色でそれらの特徴を作る元素名を示した。スペクトルは見やすいように縦軸方向にずらしてある。観測スペクトルの1400ナノメートル付近、1800〜1900ナノメートル付近は地球大気の影響を受けている。©Domoto et al.


本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 (17H06363, 19H00694, 20H00158, 21H04997, 21K13912, 22J22810)、核融合科学研究所共同研究 (NIFS22KIIF005) と、東北大学宇宙創成物理学国際共同大学院の支援を受けて行われました。



用語説明

(注1) レアアース
ランタノイド元素 (原子番号57〜71番) とスカンジウム (原子番号21番)、イットリウム (原子番号39番) の17元素の総称。希土類元素とも言う。工業的に重要で、例えばランタンやセリウムは光学レンズ、ガラス研磨剤、蛍光体などに用いられている。

(注2) 中性子星
質量の大きい恒星が進化した後に残る天体の一種。半径10 km程度の大きさに地球の約50万倍の質量が詰まっており、非常に密度が高い。

(注3) スペクトル
光の波長ごとの強度分布。元素が特定の波長の光を吸収すると、その波長での光の強度が弱まり、吸収線として観測される。

(注4) アテルイⅡ
国立天文台が運用する、シミュレーション天文学専用のスーパーコンピュータ。岩手県奥州市の国立天文台水沢キャンパスに設置され、2018年6月より稼働を続ける。理論演算性能3.087ペタフロップス(1秒間に約3000兆回の計算を行う能力)は、天文学専用としては世界最速をほこる。今回の研究では、アテルイⅡの約400コアを用いて、「キロノバ」のスペクトルの細かい特徴を高速にシミュレーションした。

(注5) 重力波
一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空 (時間と空間) が歪んでいる。そのような天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。

(注6) ドップラー効果
光を放つ天体が観測者に近づくように動いていると、光の波長が短く変化して観測される。天体の運動速度が速いほど波長の変化 (ずれ) が大きくなる。



論文情報

雑誌名: The Astrophysical Journal
論文タイトル:Lanthanide Features in Near-infrared Spectra of Kilonovae
著者:Nanae Domoto, Masaomi Tanaka, Daiji Kato, Kyohei Kawaguchi, Kenta Hotokezaka, Shinya Wanajo
DOI番号:10.3847/1538-4357/ac8c36



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web
大学院生 土本 菜々恵(どもと ななえ)
電話:022-795-6521
E-mail:n.domoto[at]astr.tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科天文学専攻
准教授 田中 雅臣(たなか まさおみ)
電話:022-795-6500
E-mail:masaomi.tanaka[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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