東北大学 大学院理学研究科・理学部

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環境悪化抑制の成功と核戦争回避で動物種の絶滅が10-15%に
2100年頃がピーク・失敗で20-50%に

発表のポイント

● 環境悪化(気候変動・環境汚染・森林崩壊・太陽光減少)が動物の主要大量絶滅の原因と考えられる。

● 現在進行中の環境・生物危機の原因も同じで、太陽光減少は核戦争で起きる。

● 40-60年での環境悪化抑制の成功と核戦争回避でも10-15%の動物種の絶滅が起きる。

● 環境悪化抑制の失敗で20-30%、核戦争で20-40%、両方で40-50%の動物種の絶滅が起きる。

● これらの大量絶滅を防ぐには、人為起源の環境悪化(温室効果ガス放出・環境汚染・森林崩壊)を20-30年で止め、核戦争を起こさないことが必要。



概要

現在の動物の基本系統(節足動物・軟体動物・脊椎動物など)が出揃ってから現在までの約5億年間に5大大量絶滅(主要大量絶滅)が起きています。白亜紀―古第三紀境界の巨大隕石衝突による鳥以外の恐竜の絶滅もその一つで5度目の主要大量絶滅です。最近、6度目の主要大量絶滅が、人類活動により起きるかもしれないと言われています。その絶滅規模を量的に求めた研究はありませんでしたが、東北大学の海保邦夫名誉教授は、具体的な絶滅規模を求めました。その結果は、進行中の気候変動・環境汚染・森林崩壊の制御が成功し核戦争が起きない場合は10-15%の動物種の絶滅ですが、それらの環境制御に失敗し核戦争が起きた場合は30-50%の動物種の絶滅, 環境制御失敗のみの場合は20-30%、核戦争のみの場合は20-40%の動物種の絶滅が起きるというものでした(図1)。この大量絶滅は2100年頃に始まり、核戦争が起きない場合はその頃がピークになります。本研究の成果は2022年11月23日(水)10:00(英国時間)付けで、ネイチャー系列の電子オープンアクセス誌「Scientific Reports(サイエンテッフィク レポーツ)」に掲載されました。



詳細な説明

動物の主要大量絶滅の原因は、気候変動・環境汚染・森林崩壊・太陽光減少であるとまとめられます。現在進行中の環境・生物危機の原因も気候変動・環境汚染・森林崩壊は同じで, 太陽光減少は核戦争で起きえます。東北大学の海保邦夫名誉教授は、7月掲載の論文(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220701-12164.html)で、現在進行中の絶滅規模は60%以上の動物種絶滅の主要大量絶滅規模には達しないとしていましたが、今回、上記の具体的な絶滅率(海の絶滅率と陸の絶滅率の単純平均)と下記の対策の概要を発表しました。絶滅率の推定のために、1700-2500年の間の

1)地質試料の化学分析で測定された過去の大量絶滅時の低緯度海水表面温度から計算して求めた全球表面気温変異とIPCCの将来気温予測値でモニターした将来の絶滅率

2)地質試料の水銀濃度を指標とした環境汚染増加率とCO2放出量予測値から求めた将来の環境汚染強度によりモニターした将来の絶滅率

3)大量絶滅時と現代の森林崩壊率および人口予測値から求めた将来の森林崩壊率(高い値を使用)によりモニターした将来の絶滅率

4)白亜紀―古第三紀境界の大量絶滅時に地球規模で太陽光減少(地球寒冷化)を起こした成層圏スス量と核戦争で発生する成層圏スス量から求めた将来の成層圏スス量によりモニターした将来の絶滅率

の平均値(海と陸の絶滅率への各貢献度を考慮)を将来の絶滅率としました。温暖化と絶滅率が比例する場合(大量絶滅時)と暁新世―始新世境界のように温暖化が大量絶滅を起こさない場合に分けて絶滅率を求めましたが、その差は、大きくはありませんでした(図1)。これらは、主要大量絶滅ではなく、小規模大量絶滅に相当するものです。この規模の大量絶滅は中期ペルム紀末やジュラ紀―白亜紀境界で起きています。これらの規模の大量絶滅は、陸上動物の絶滅規模が海の動物の絶滅規模よりかなり大きいという特徴があります(図1)。この研究成果にもとづき、海保名誉教授は、「将来の大量絶滅を防ぐには、人為起源温室効果ガス放出の停止だけでなく、森林崩壊と環境汚染を止め、核戦争を起こさないことが必要であり、それらの対策は、動物の多様性減少を抑制するだけでなく、人類にも利点がある」と主張しています。



本研究の意義と今後の展望

人類が地球環境を顕著に変えている時代を人新世と呼びます。1950年ぐらいから人為環境変化は顕著です。地球温暖化、森林崩壊、大気・水・土壌の汚染が進行しています。それに加えて、核戦争の開始の危機が再燃しています。本論文では、それらを踏まえ、過去の研究成果を使用して未来を予測しました。過去の理解を深めることが未来の予測精度の向上に繋がることがわかりました。今後は、過去の理解を深め、さらに精度を上げた将来予測の研究を推進します。同時に、より具体的な大量絶滅防止策を立案します。



論文情報

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル:Extinction magnitude of animals in the near future
著者:Kunio Kaiho
論文URL:https://doi.org/10.1038/s41598-022-23369-5(公表後閲覧可、無料)



論文情報

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図1:人新世(現代―未来)を含めた各時代の動物の絶滅率(予想値、最悪値)。1-5は5大大量絶滅。動物のシルエットは当時の代表的動物。未来の棒グラフの青と赤はの高さは予想ケースの気温変異・環境汚染率・森林崩壊率における予想絶滅率。空白部を加えた高さは最悪ケースにおける絶滅率。世界気温変異は事件前からの変異を示す。end-O:オルドビス紀末。F-F:フラスニアンーファメニアン境界。End-G: ペルム紀末。end-P: ペルム紀末。end-T: 三畳紀末。J-K: ジュラ紀―白亜紀境界。 K-Pg: 白亜紀―古第三紀境界。原因:大規模火山活動:end-O?, F-F, end-G, end-P, end-T; 巨大隕石衝突:J-K, K-Pg; 人類活動:人新世.(©海保邦夫)



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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