東北大学 大学院理学研究科・理学部

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非古典的な核生成が宇宙ダストの形成に重要なことを発見
~観測ロケットによる微小重力実験で、天体現象の理解に重要なダスト形成過程が明らかに~

ポイント

● 国際協力による観測ロケットを用いた微小重力実験を行い、宇宙ダストの形成初期過程を再現。

● 宇宙ダストは、ナノ領域の特異性で理解できる非古典的な経路で形成することを発見。

● 宇宙における物質進化と、関連する多くの天体現象の理解に繋がる成果。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

北海道大学低温科学研究所の木村勇気准教授は、東北大学大学院理学研究科の田中今日子客員研究員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の稲富裕光教授、ドイツのブラウンシュバイク工科大学のユルゲン ブルム教授らと共に、スウェーデン宇宙公社の観測ロケットMASER 14を用いた微小重力実験を行い、宇宙ダストが非古典的な核生成*1によって形成することを解明しました。この実験は、JAXAの小規模計画としてドイツ航空宇宙センターとの国際協力のもとに実施しました。

宇宙には100 nm以下のダストと呼ばれるナノ粒子が多量に存在していますが、そのサイズや構造などの特徴を理論的に説明することはできていませんでした。本研究では、独自の実験装置を観測ロケットに搭載して、微小重力下で宇宙ダストの一種である、中心に炭化チタンのナノ結晶を持った炭素質の粒子の形成過程を再現しました。その過程を本研究のために開発した光干渉装置*2で調べたところ、宇宙ダストの形成には微小な世界でだけ見られるナノ現象の一つである融合成長など、三段階のプロセスから成る非古典的な経路で形成することを明らかにしました。これは、宇宙ダストの特徴を理論的に説明する手法の確立に繋がると共に、隕石中に見つかるプレソーラー粒子*3の形成過程や天体観測で検出されるダストの形成過程に新たな解釈を与える成果です。

なお、本研究成果は、日本時間2023年1月14日(土)午前4時にScience Advances誌に掲載されました。


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射場に向かう直前の観測ロケットMASER 14。



背景

宇宙には100 nm以下のダストと呼ばれるナノ粒子が多量に存在しており、この宇宙ダストは超新星爆発や晩期型巨星などの、終末期の恒星の放出ガスから形成することが天体観測から分かっています。宇宙ダストは形成するとすぐに周囲のガスを加速し、星間空間ではエネルギーのやり取りを担い、分子雲の中でその表面が分子形成に使われることで初期太陽系に多様な分子をもたらし、そして最後には惑星系の材料になります。このように、宇宙ダストは天体進化のあらゆる段階で重要な役割を担っているため、まず終末期の恒星でどのようなダストがどのくらい生成するのか知ることが非常に重要です。隕石中には宇宙ダストの形成過程を理解する手掛かりとなる終末期の恒星で作られた宇宙ダストが見つかっています。雪の形から上層大気の温度や湿度が分かるように、隕石中の宇宙ダストの特徴から形成環境を明らかにできるはずです。しかし、人類はまだ宇宙ダストの形成過程を読み解くための辞書を持っておらず、終末期の恒星の周りでダストが形成する環境を明らかにできていません。

研究グループは以前の観測ロケット実験で、宇宙ダストに対応するナノサイズの物質の物理量を決定すれば、核生成理論を用いることでダストの特徴を予測できる(すなわち、辞書の一つはナノ粒子の物理量である)ことを明らかにしています。今回は、この知見を元に特徴的な炭素質の宇宙ダストである、中心に炭化チタンのナノ結晶を持った炭素質の粒子(コアーマントル粒子)の形成過程を解明すべく、国際協力チームを結成して、生成した実験試料の回収が可能な海外の観測ロケット(図1)を利用した微小重力実験を実施しました。



研究手法

研究グループは、ナノサイズの宇宙ダストの物理量を決定するために、独自の宇宙ダスト再現装置と光干渉計を組み合わせた装置を開発しました。装置は、観測ロケットの限られた容積、電源、打ち上げの振動に耐える堅牢さなどの条件を満たすことが求められます。2017年から装置開発を進め、2019年春に海外に輸送、現地(スウェーデン、ストックホルム)での組み上げ試験、振動試験、通信試験などを経て、2019年6月に打ち上げ(同キルナ、エスレンジ;図2)、同日ヘリコプターにより実験装置と生成試料を予定通り回収しました(図3)。

観測ロケットにより得られる約7分間の微小重力環境下で、チタンと炭素の高温の蒸気を発生させます。そのガスが冷える過程で核生成を経てナノメートルサイズの微粒子が形成します。この時のガスの温度や濃度を光干渉計でその場観察します。回収した試料(模擬宇宙ダスト)は透過型電子顕微鏡を用いて詳細に分析しました(図4)。その後、核生成理論を用いてコアーマントル粒子が終末期の恒星の一つである超新星が放出するガス中で生成する条件を調べました。



研究成果

本研究では、核生成理論に基づく粒子形成モデルを用いて、宇宙ダストの形成過程の理論予測に必須のナノメートルサイズの模擬宇宙ダストの2つの物理量、付着確率(わずか1〜2%)と表面張力(バルクの値より大きい)を決定しました。これらの物理量は、これまで多くの天文学者が想定していた値(それぞれ約100%とバルクの値)とは異なっていました。この想定していた値は、観測された宇宙ダストの量を説明するのに都合が良かったため、当該分野では幅広く受け入れられてきました。さらに、模擬宇宙ダストの形成は、従来の原子や分子が最終的な生成物になることを想定している古典的な過程では説明できないことが分かりました。すなわち、コアーマントル粒子は(1)超高過飽和から炭素粒子が核生成し、(2)その上に炭化チタンが不均質核生成を始め、(3)その粒子が数千個も融合成長して一つの粒子となる、三段階のプロセスを経る非古典的な核生成で形成することが分かりました(図5)。非古典的な核生成による物質形成は、近年様々な分野で報告が相次いでいる新しい知見です。今回、宇宙ダストの形成も非古典的な核生成の概念を考慮することで、説明できることを示した成果です。本成果は、宇宙ダストの特徴から生成環境を推定するための辞書の一項目を新たに与えるもので、宇宙ダストと関連する現象の見方に大きな影響を与えるでしょう。



今後への期待

核生成経路やナノ粒子の物理量に関する知識は、惑星状星雲、超新星、惑星大気など様々な天体で生成される粒子の量だけでなく、ドライプロセスにおけるナノ粒子の生成の理解にも不可欠です。本研究は天文学に焦点を当てたものですが、材料科学に関わる幅広い研究分野にも影響を与えるもので、原子や分子から物質を形成するボトムアップの材料合成の設計が可能になることが期待されます。



論文情報

論文名:Nucleation experiments on a titanium-carbon system imply nonclassical formation of presolar grain(チタンー炭素系の核生成実験はプレソーラー粒子の非古典的な形成過程を示唆)
著者名 木村勇気1、田中今日子2、稲富裕光3、Coskun Aktas、 Jürgen Blum1北海道大学低温科学研究所、2東北大学大学院理学研究科、3宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、4ブラウンシュバイク工科大学)
雑誌名:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.add8295



参考図

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図1.スウェーデン、キルナのエスレンジで打ち上げ準備中のスウェーデン宇宙公社の観測ロケットMASER 14。実験装置はMとAの文字の位置に搭載されている。

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図2.打ち上げ直後の観測ロケットMASER 14。

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図3.打ち上げ後に回収した実験装置と研究代表者の木村。左に見える青色の円筒が観測ロケットの外筒。右側机上が外筒から取り出した実験装置。

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図4.微小重力環境下で合成した模擬宇宙ダスト。スケールバーは10 nm。

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図5.コアーマントル粒子の生成過程を示す模式図。まず超高過飽和状態で多数の炭素粒子が核生成する。炭素粒子が成長する過程で炭化チタン(TiC)の不均質核生成も同時に起こる。粒子同士が融合することで、粒子サイズは大きくなり数は減る。分子が拡散することで、炭化チタンのコアが形成する。ナノ粒子内では拡散が早くなるために、宇宙ダストの形成に要する典型的な時間(数年)で起こり得る。



用語解説

*1 核生成
気体から固体や液体がつくられるとき、過飽和や過冷却状態にある原子や分子が集まって、粒子が安定なサイズを超えて大きくなること。

*2 光干渉装置
光の位相差を用いて極微小な屈折率の変化を捉えられる装置。本実験では、赤色と緑色の二つのレーザーを用いたマッハツェンダー型の干渉計を用いた。

*3 プレソーラー粒子
46億年より昔に形成して太陽系が形作られる際に材料となった粒子。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
客員研究員 田中今日子(たなかきょうこ)[web
電話:022-795-6501
E-mail:kktanaka[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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