東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

プローブの凝集・解離機構を利用し、標的エクソソームを高感度に検出
~強い結合力と高い蛍光応答機能を発現~

発表のポイント

● 長い炭素鎖(炭素数12個)を導入したシアニン色素(TRC12)をエクソソーム脂質膜結合性ペプチド(ApoC)に連結した、高感度エクソソーム(注1)検出蛍光プローブ(ApoC-TRC12)を開発しました。

● プローブが自己会合(注2)し凝集体を形成し、標的エクソソームとの結合に伴い凝集体が解消される機構により、強い結合力と高い蛍光応答機能を発現しました。

● 簡便、迅速かつ高感度なエクソソーム解析への応用が期待できます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

エクソソームはほぼ全ての細胞が放出する細胞外小胞(直径50-150nm程度)で、細胞の恒常性維持やガンなどの疾患発症など多様な生命現象に深く関与しています。エクソソームの機能理解や医療応用に向けて、エクソソームの検出技術開発が必要不可欠です。

東北大学大学院理学研究科佐藤雄介准教授らの研究グループは、自己会合・解消機構に基づく新たなエクソソーム検出用蛍光プローブ(ApoC-TRC12)を開発することに成功しました。ApoC-TRC12単独では自己会合による凝集体形成により、その蛍光が著しく抑制されていますが、エクソソーム添加により凝集体が解消され、プローブがエクソソーム表面の脂質膜に強くかつ選択的に結合することで、明瞭な発蛍光応答を示します。ApoC-TRC12は標的エクソソームと混ぜて蛍光測定するだけという簡便な操作で迅速に高感度検出(検出限界~103個/µL)が可能です。抗体を用いた既存のエクソソーム検出法では、検出原理上、解析対象は抗体が結合するマーカータンパク質が発現している種類のエクソソームに限定されますが、これに対して本プローブはエクソソーム脂質膜を結合場とするため、表面のタンパク質発現プロファイルに影響を受けず、様々な細胞由来のエクソソームの解析に適用できます。今後、本研究成果はエクソソーム研究の基礎と応用を推進する基盤技術の開拓に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、2023年1月25日(米国東部時間)にアメリカ化学会(ACS)が出版する「ACS Sensors」誌に掲載されます。



詳細な説明

エクソソームはほぼ全ての細胞が放出する細胞外小胞で、細胞の機能発現や疾患との関連性が報告されているなど、新たな細胞間コミュニケーションの手段として注目されています。エクソソームが絡む生命現象の本質を理解し、これに基づいた医薬応用を進めていく上で、エクソソーム解析技術が必要不可欠です。特に簡便かつ迅速にエクソソームを検出・定量しうる技術の開発は重要な課題です。

これまで、研究グループでは高い曲率を有する脂質二重膜の表面に現れる脂質パッキング欠損(図1)を認識しうる両親媒性a-helixペプチド(注4)をベースとしたエクソソーム解析用分子プローブの開発を進めてきました。

Apolipoprotein A-I のC末端領域(ApoC)にある両親媒性a-helixペプチド配列を用いて、そのN末端に疎水場感受性蛍光色素Nile Red(NR)を連結した蛍光プローブ(ApoC-NR)を設計し、これがエクソソームの蛍光検出・定量に有用であることを実証しました(RSC Adv., 2020, 10, 38323.)。ApoC-NRはエクソソームと混ぜるだけで発蛍光応答を示すため、1ステップで数分以内に検出が可能であり、固定化や洗浄など多段階のステップが必要な既存の抗体法(イムノアッセイ)と比べて簡便かつ迅速にエクソソームを解析することができます。さらに、イムノアッセイでは検出原理上、その解析対象は抗体が結合するマーカータンパク質が発現している種類のエクソソームに限定されますが、ApoC-NRは脂質膜を結合反応場とするため、タンパク質発現プロファイルの影響を受けずに、様々な細胞由来のエクソソーム解析に適用できる汎用性を有しています。一方、ApoC-NRを用いた検出法の検出限界は105個/µL程度であり、実用的なエクソソーム解析に適用するためには、検出感度の向上が必要でした。

20230124_10.png

図1: 曲率の大きい膜(左)は曲率の小さい膜(右)と比べて脂質パッキング欠損(赤)が多く現れる。


本研究では、研究グループは長い炭素鎖 (C12)を導入したシアニン色素Thiazole Red (TR)を蛍光応答部位として活用する蛍光プローブ(ApoC-TRC12)を新たに設計・合成しました(図2)。ApoC-TRC12は自己会合を介して凝集体を形成することでTR単体由来の蛍光が著しく抑制されることが分かりました。ここに、エクソソームモデルとして合成した小胞(直径130 nm)を添加するとプローブがエクソソーム脂質膜に結合するために、形成した凝集体は解消されプローブ結合に伴いTR部位の蛍光強度が増大します。長い炭素鎖を持たないコントロールプローブ(ApoC-TR)との比較から、TR部位に導入した炭素鎖が自己会合機能を促進することで自己会合・凝集機構に基づく優れた蛍光応答能の発現につながることが分かりました。また長い炭素鎖の導入はそれ自身が疎水性相互作用を介して脂質膜に挿入されることで、プローブの結合力を強化させる役割を持つことも分かりました。ApoC-TRC12はエクソソームサイズの小胞に対して、世界最強の結合力(解離定数Kd = 0.37 µM)を示すことを明らかにしました(既存プローブ:Kd = 5-100 µM)。

20230124_20.png

図2:ApoC-TRC12(緑:ペプチド、青:シアニン色素、黒:長い炭素鎖(C12))の自己会合・凝集に基づくエクソソーム蛍光検出。


ApoC-TRC12を用いて白血病細胞株(K562)由来エクソソーム検出に適用したところ、結合に伴い優れた蛍光応答を示し、検出限界は3.5×103個/µLとなり、先行研究で開発したApoC-NRと比べて2桁も高い検出感度を実現しました。さらに、ApoC-TRC12は異なる細胞(肺がん細胞株;A549)由来のエクソソームに対しても2.1×103個/µLと高い検出感度を示すことから、様々な種類のエクソソームに対して高感度解析が可能です。またApoC-TRC12は市販されているエクソソーム膜結合性蛍光試薬(MemGlow640)と比較しても高い検出感度を有することが分かりました。

本研究で得られた成果は、自己会合・凝集機構に基づく分子設計がエクソソーム脂質膜結合性蛍光プローブに有用であることを示すとともに、エクソソーム研究の基礎と応用に向けた基盤技術の開発に貢献すると期待されます。



謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「蛍光プローブの結合反応に基づくエクソソーム性質解析」(JPMJPR19H4)(研究代表者:佐藤雄介)の支援を受けて行われました。



用語説明

(注1)エクソソーム
細胞から放出される小胞(直径50-150nm)。表面は膜タンパク質を含む脂質二重膜構造を取っており、核酸やタンパク質など生理活性物質を内包している。

(注2)自己会合
分子同士が疎水性相互作用や水素結合などの分子間相互作用を介して自発的に会合し凝集体を形成する。

(注3)蛍光プローブ
特定の分子や構造と反応すると、蛍光の強度や色調が変化する機能性分子の総称。

(注4)両親媒性a-helixペプチド
a-helix構造を取った際に、疎水面と親水面が生じるペプチド配列。両親媒性a-helixペプチドの中には、その疎水面が高い曲率を持つ脂質二重膜の表面に現れる脂質パッキング欠損構造に挿入(疎水性挿入)される性質を持つものがある。



論文情報

雑誌名: ACS Sensors
論文タイトル:Self-assembly and disassembly of membrane curvature-sensing peptide-based deep-red fluorescent probe for highly sensitive sensing of exosomes
著者:Kaito Ohira, Yusuke Sato, Seiichi Nishizawa
DOI番号:10.1021/acssensors.2c02498



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻[web
准教授 佐藤 雄介(さとう ゆうすけ)
電話:022-795-6551
E-mail:yusuke.sato.a7[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る