東北大学 大学院理学研究科・理学部

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多くの受容体の内の1つだけに結合する分子を開発
立体異性体で植物の病原菌耐性を活性化する

発表のポイント

● 植物のほとんどの生理機能を制御する植物ホルモンは、植物体内で10数種から100種以上の受容体と結合して多くの応答を一度に活性化します。

● 植物ホルモンの多くの受容体の内、1つだけに選択的に結合する分子を世界で初めて開発しました。

● この分子には、植物の病原菌耐性を活性化する作用があることを示しました。

● 植物の病原菌感染を防ぐ新しい方法につながると期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

植物を活用するグリーン科学の発展が期待を集める中、植物ホルモンを活用した植物の機能制御が望まれています。しかし植物体内において、1種類の植物ホルモンは10数種から100種以上の受容体と結合するため、その制御は困難とされていました。東北大学の上田 実 教授、林 謙吾 研究員らは、スペイン国立生物工学研究所、理化学研究所などとの国際共同研究により、植物ホルモンと同じ作用を持つ天然物の立体異性体(注1)に着目し、植物ホルモンJA-Ileの受容体の1つだけに結合する分子を開発しました。この分子は、植物の病原菌感染を抑え、植物の病原菌感染を防ぐ新しい方法につながる可能性があります。

本研究成果は、2023年3月25日にオンライン学術誌Communications Biologyに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

植物を活用するグリーン科学の発展が期待を集める中、植物ホルモンの作用機構に基づく植物の機能制御が望まれています。

植物ホルモンは、植物のほとんどの生理機能を制御する生物活性天然物です。植物個体には、1種類の植物ホルモンに対して10数種から100種以上の受容体サブタイプ(注2)が存在するため、植物ホルモンは多様な生物応答を制御できます。植物ホルモンジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile、図1)は、COI1とJAZという2種類のタンパク質間の相互作用(PPI)を誘導する分子接着剤として働きます。モデル植物シロイヌナズナには、1種のCOI1タンパク質と13種のJAZタンパク質(JAZ1-13)が存在し、これらの組み合わせで13種のPPI型COI1-JAZ共受容体サブタイプが生じます(図1左)。各共受容体サブタイプが、外敵(害虫、病原菌)防御、二次代謝産物(薬用資源天然物等)生産など、多くの興味深い生物応答を分担して制御しています。一方、共受容体サブタイプの中には、植物の成長抑制などの厄介な「副作用」を担うものもあります。このような冗長性を持つPPI型受容体の機能制御は、現代の科学をもってしても難問です。



今回の取り組み

東北大学大学院の上田 実 教授(大学院理学研究科・生命科学研究科兼務)、林 謙吾 研究員(大学院理学研究科)らは、スペイン国立生物工学研究所、理化学研究所などとの国際共同研究によって、ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)の数多くの受容体サブタイプの内のひとつだけに結合する分子を作り出す新しい方法論を開発しました。上田教授らは、植物ホルモンと同じ作用を持つ天然物コロナチン(図1、COR)が多くの立体異性体を持つことに着目し、その安定な16種類の立体異性体を全て化学合成し、立体異性体ライブラリーを構築しました。このライブラリーを用いたスクリーニングから、モデル植物シロイヌナズナの13種のCOI1-JAZ共受容体サブタイプのうちの一つだけに選択的に結合する分子を世界で初めて開発しました。この分子は植物の病原菌感染を抑える作用を示しますが、成長抑制などの副作用を示しませんでした。またジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)は多くの受容体に結合することで、一度に多くのシグナル伝達を活性化するため、その詳細な作用機構の解明は困難でした。上田らは、今回開発した分子を用いることで、カオスなシグナル伝達の中から、病原菌防御に関係する一部分だけを抜き出すことに成功し、その詳細な作用機構の解析に初めて成功しました(図2)。



今後の展開

これらの成果は、植物の病原菌感染防御を増強するための新しい方法の開発につながります。



参考図

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図1:立体異性体は植物ホルモン受容体に対してサブタイプ選択的に結合した。


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図2:立体異性体を用いることで、一つの受容体サブタイプに制御されるシグナル群だけを分離することができる。



謝辞

本研究はJSPS KAKENHI Grant NumberJP22KK0076, 21K19037, 20H00402, JPJSBP120229905, JPJSBP120239903および長瀬科学技術振興財団の支援によって実施したものです。



用語説明

注1. 立体異性体:有機化合物には、右手と左手のように、同じ平面構造を持つが、立体的な構造が異なり、互いに重ね合わせることのできない異性体が存在し、これらを立体異性体と呼ぶ。例えばアミノ酸には、右手型と左手型の2つの立体異性体が存在する。

注2. 受容体サブタイプ:生体内でホルモンなどが結合するタンパク質を受容体と呼ぶ。ホルモンが受容体に結合することで、その後のシグナル伝達が起こり、各種の応答を引き起こす。受容体の中には、よく似た機能と構造を持つ一群のファミリータンパク質から構成されるものがあり、ファミリーに属するタンパク質による各々の受容体を受容体サブタイプと呼ぶ。



論文情報

タイトル:Subtype-selective agonists of plant hormone co-receptor COI1-JAZs identified from the stereoisomers of coronatine
著者:Kengo Hayashi, Nobuki Kato, Khurram Bashir, Haruna Nomoto, Misuzu Nakayama, Andrea Chini, Satoshi Takahashi, Hiroaki Saito,Raku Watanabe, Yousuke Takaoka, Maho Tanaka, Atsushi J. Nagano, Motoaki Seki, Roberto Solano, Minoru Ueda*
*責任著者:東北大学大学院 理学研究科・生命科学研究科 教授 上田 実
掲載誌Communications Biology
DOI10.1038/s42003-023-04709-1



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院 理学研究科化学専攻 生命科学研究科 兼担[web]
教授 上田 実(うえだ みのる)
電話:022-795-6553
E-mail:minoru.ueda.d2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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