東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

生物環境危機が21世紀後半に起こる可能性を示唆

発表のポイント

● 2300年までの気候・環境変化予測を行い、それらのありうる16通りのケースについて、動物の絶滅率を求めた。

● 核戦争が起きない場合、進行中の動物種の絶滅は2060-2080年にピークに達する(4-10%:個体数激減―生物環境危機)と考えられる。この主要原因は今世紀中に環境汚染-森林崩壊から森林崩壊-温暖化に移行する。

● 大規模な核戦争が起きた場合は、数年間の地球寒冷化(最大6.5℃)が起き、動物種の絶滅は最大50%まで増加する。



概要

人類活動による環境-動物危機が現在進行中で増大中です。将来の動物の絶滅危機の規模と時期は特定されていません。東北大学の海保邦夫名誉教授は、考えられる16通りのケースでモデル計算を実施し、絶滅のピークの時期を求めました。その結果は、「核戦争が起きない場合は陸と海の平均で4-10%の動物種の絶滅が2060-2080年をピークとして起き、主要原因は環境汚染-森林崩壊から森林崩壊-温暖化に今世紀中に移行して行く(図1)、核戦争が起きた場合は陸と海の平均で最大50%の動物種の絶滅が起きる」というものでした(図2)。絶滅防止対策を提案しています。本研究の成果は2023年4月11日に、学際的オープンアクセス国際誌「Heliyon」(Cell Press)に掲載されました。



詳細な説明

動物の主要大量絶滅の原因は、気候変動・環境汚染・森林崩壊・太陽光減少であると考えられます。現在進行中の環境・生物危機の原因も気候変動・環境汚染・森林崩壊は同じで, 太陽光減少は核戦争で起こり得ます。

東北大学の海保邦夫名誉教授は、過去の6つの大量絶滅の規模と気候変動を使用して、主要大量絶滅規模(60%以上の動物種絶滅)には達しないと、昨年7月掲載の論文で発表しました。さらに、過去と現代の環境変動のデータも加えて使用し、環境悪化抑制の成功と核戦争回避で10-15%の動物種の絶滅、環境悪化抑制の失敗で20-30%、核戦争で20-40%、両方で40-50%の動物種の絶滅が2100年頃をピークとして起きると、11月掲載の論文 で発表しました。

今回は、より詳細な時間間隔で、起こりうる原因の寄与率に限定して、4(気温)x 4(環境)通りのケースでの、より起こりうる規模と発生時期を求め(図1)、その気候・環境悪化時の核戦争による絶滅率も推定しました(図2)。地球化学―古生物学情報により予測した陸上動物の絶滅率は、核戦争なし、1850-2100年の地球平均気温3℃ 上昇ケースで、8-13%でした。これは、先行研究の動物の絶滅危惧率や絶滅率のみからの予測値(哺乳類・鳥類・爬虫類で10%)と整合性があります。

核戦争が起きると、多くの都市で都市火災が発生し、火災で発生するススが火災により発生する上昇気流に乗って成層圏に入り太陽光を遮断し、数年間(都市火災発生後1-2年目に極小)の地球寒冷化が起きるために(核の冬仮説)、絶滅率が上昇します(都市火災の際に発生したCO2などの温室効果ガスにより、その短期寒冷化後、温暖化がさらに進行)。そうすると、過去の大量絶滅を起こした4つの原因が出揃います。核の冬以外の3つの原因による環境は、過去の大量絶滅時の環境とは大分違います。この違いが、核戦争なしの場合の低い絶滅規模に現れていると考えます。動物の絶滅を環境面から防止するには、核戦争回避、森林崩壊防止、汚染防止、温暖化防止の順に重要です。

ススは太陽光を吸収するので対流圏にススがあると地上は温まりますが、成層圏にススがある場合、成層圏は温まりますが地上に届く太陽光量が減少するので、地上気温は低下します。これが、核の冬のしくみを理解する上で重要なポイントです。2国の核兵器がすべて都市に落ちた場合の先行研究の成層圏スス量を使用したので、気温変化と絶滅率は最大見積もりです。

大量絶滅には、5大大量絶滅の主要大量絶滅(動物種で60%以上の絶滅率)と、より小規模な大量絶滅(動物種で10%以上の絶滅率:通常の絶滅よりも顕著な絶滅事件)があります。将来人為的に6回目の大量絶滅が起きるかもしれないと言われていますが、 最大見積もりで7回目の大量絶滅ですし、小規模な大量絶滅です。4-10%の動物種の絶滅でも、個体数は激減しますので、顕著な生物環境危機です(図3)。

人為大量絶滅を防ぐには, 核戦争を起こさないことが不可欠です。動物絶滅率にとって2番目に重要な森林崩壊は、現在は主に熱帯雨林で進行しています。ここには8-9割の種の動植物が生きていますので、熱帯雨林の森林を守ることが将来の絶滅率を下げることになります。これに対しては、早急に対策を行う必要があります。汚染と温暖化も、今世紀の絶滅ピークの高さを左右しますので改善が望まれます。



本研究の意義と今後の展望

発生が危ぶまれている人為環境危機による動物の絶滅危機は、意外に早く訪れることがわかりました。来世紀には地球環境は回復傾向に入ると思われますが、回復に至る時間は、人類活動により大きく変わるでしょう。動物の多様性の回復には100万年ぐらいかかるでしょう。絶滅規模の程度により、将来の動物種の構成が変わります。核戦争は、人類に悲劇を与えることはよく知られていますが、それは核兵器が落とされた周囲に限った被害として一般には認識されていて、地球規模の地球寒冷化が起きることが共有されていません。本研究は以上の地球規模の危機を社会に知らせる意義があります。今後は、1) 絶滅率予測の基盤である過去の大量絶滅の情報をより充実させる研究に取り組み、2) 核戦争・森林崩壊・汚染・地球温暖化による環境生物変動の研究を進め、3) 人類社会の発展と大量絶滅防止を両立させるための方策を考えます。



論文情報

掲載誌Heliyon
論文タイトル:An animal crisis caused by pollution, deforestation, and warming in the late 21st century and the exacerbation by nuclear war
著者:Kunio Kaiho
DOI10.1016/j.heliyon.2023.e15221(無料閲覧可)



参考図

20230411_100.png

図1:1700〜2300年間の動物絶滅率変化と主要因(絶滅ピーク値が絶滅率)
絶滅率への高い寄与率:汚染[0.2]と森林崩壊の [陸上: 0.8、海: 0.4)のケース。汚染[0.1]と森林崩壊 [陸上: 0.4、海: 0.2]でも計算しているので4通りのデータがある]。青線:海の動物。赤線:陸の動物。それぞれの4本の線は4通りの気温変異のケース。4-10%などの値の幅は、これら4 x 4のケースによる幅である。絶滅ピーク後の絶滅率は温暖化による絶滅が少し加わる程度、汚染と森林崩壊のピークは過ぎているから。(©海保邦夫)


20230411_200.png

図2:動物種の絶滅率変化予測図と時代別主要因(絶滅ピーク値が絶滅率)
a: 核戦争が2060年に起きた場合. b: 核戦争が2300年に起きた場合。核戦争の高い方のピークは米露間の最大値、低い方のピークはインドーパキスタン間の最大値。青色線プロット:海の動物. 赤色線プロット:陸の動物. それぞれ4本のグラフは気温の4ケース。汚染・森林崩壊の4ケースのうち最もあり得そうな1ケース(汚染・森林崩壊の絶滅に対する貢献度が共に高い方のケース)を示した(いずれのケースも同じ傾向)。(©海保邦夫)


20230411_300.png

図3:過去の大量絶滅と将来の絶滅規模の比較
青棒:海の動物。赤棒:陸の動物。1-5は5大大量絶滅。動物のシルエットは当時の代表的動物。空白部は絶滅率の予測範囲を示す(16通りのケースの差異)。end-O:オルドビス紀末。F-F:フラスニアン期ーファメニアン期境界。End-G: ペルム紀末。end-P: ペルム紀末。end-T: 三畳紀末。J-K: ジュラ紀―白亜紀境界。 K-Pg: 白亜紀―古第三紀境界。原因:大規模火山活動(火山マーク):end-O?, F-F, end-G, end-P, end-T; 巨大隕石衝突(星マーク):J-K, K-Pg; 人類活動:人新世. (©海保邦夫)



問い合わせ先

東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
電話:022-394-3931
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る