東北大学 大学院理学研究科・理学部

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地球生命史史上最大の大量絶滅の原因は火災か?

発表のポイント

● 約2.5億年前の大量絶滅を記録した地層の超高解像度(0.1 mm)分析

● 通常の分析解像度では見えない数百年規模の火災記録の発見

● 火災→陸上土壌流出→海洋無酸素化の流れが明らかに

□ 山口大学ウェブサイト



概要

5大大量絶滅の3回目にあたる約2億5千万年前のペルム紀末の大量絶滅は地球生命史史上最大の絶滅で、90%以上の種が絶滅しました。ペルム紀末大量絶滅の原因は、超大陸パンゲアの北東、現在のシベリアで発生した大規模火山活動であると考えられています。しかしながら、この火山活動は90万年以上にわたって続いたものの、ペルム紀末の大量絶滅はわずか6万年ほどの期間内に発生しました。この原因と結果の間にある著しい時間的なギャップは、ペルム紀末大量絶滅の謎の一つとなっています。この時間的ギャップの原因を明らかにするために、地層記録の高解像度分析が求められていましたが、技術的な制約により、その解明は未だ達成されていませんでした。

山口大学大学院創成科学研究科の齊藤諒介助教らの研究グループは、この謎を解くために、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR-MS)を用いて、これまでの100倍以上の超高解像度(0.1 mm)でペルム系最上部の地層記録の分析を行うことに成功しました。その結果、火山活動に起因する陸上火災→陸上土壌の海洋への流出→海洋の無酸素化という一連の環境悪化が数百年という時間スケールで繰り返し発生していることが明らかになりました。このことは、陸上環境と海洋環境の荒廃が密接に関連し、しかも地質学的には短時間の時間スケールで発生していることを示しています。

本研究の成果は、国際誌「Nature Communications」に掲載されるのに先立ち、4月14日午前10時(ロンドン時間)に電子版へ掲載されました。



詳細な説明

ペルム紀末大量絶滅は、地球生命史上最大の大量絶滅事件であり、約2億5千万年前に起こりました。地球上の多くの生物種が急激に消滅し、海洋・陸上ともに生態系が崩壊しました。この絶滅イベントの原因には、多くの仮説が提唱されていますが、最近の研究で注目されているのは、シベリアにおける大規模火山活動です。しかしながら、この火山活動は90万年以上続いたものの、ペルム紀末の大量絶滅はわずか6万年ほどの期間内に発生しました。この原因と結果の間にある著しい時間的なギャップを埋めるための仮説として、火山活動には強弱があり、90万年以上という活動期間の中で壊滅的な活動が約2億5千万年前に瞬間的に発生することで、大量絶滅が引き起こされたというものがあります。この壊滅的かつ瞬間的な火山活動を地層記録から捉えるためには、地層記録から火山活動の痕跡を超高解像度で捉える必要がありますが、これまで技術的制約から行われていませんでした。

山口大学大学院創成科学研究科の齊藤諒介助教らの研究グループ(ブレーメン大学、マサチューセッツ工科大学、中国地質大学、東京大学、東北大学、名古屋大学などの研究者を含む)は、ペルム系最上部の堆積岩を中国の地層から採取し、地層中に含まれる多環式芳香族炭化水素(PAHs)等の超高解像度分析(0.1 mm間隔)をFT-ICR-MSにより行い、火山活動に起因する火災について調査を行いました。FT-ICR-MSは2014年に初めてドイツのブレーメン大学で地層記録の超高解像度分析に活用され、現在も発展中の分析技術です。

今回ターゲットとしたPAHsは、地質年代を通じて十億年以上保存される非常に安定的な有機分子です。現代においてPAHsは、石油、石炭、木材などの有機物質の燃焼や熱分解によって生成されます。PAHsは、地球上に普遍的に存在し、自動車や工場の排気ガス、野外のバーベキューなどでも生成され、大気汚染物質中にも含まれています。地球環境中のPAHsの起源は、このように有機物の燃焼現象と密接に関連があるため、地質学的には、太古の火災を調べるために活用されています。地層中のPAHsの特徴や量を調べることで、地球の過去の気候変動や環境変化の解明につながります。

今回、ペルム系最上部の堆積岩から検出されたPAHsの分布を調べたところ、当時の火山活動に起因する火災が数百年規模で頻発していることがわかりました。さらに、火災によって土壌を安定化させている植生が消滅した結果、陸上土壌の海洋への流出が起こり、土壌に含まれる栄養塩が海洋一次生産性の増大を招き、結果として海洋無酸素化が発生していることがわかりました。

このような一連の環境悪化については先行研究でも報告がありましたが、この研究では初めて、この一連の環境悪化が地質学的に非常に短い時間(数百年規模)で発生していることを明らかにしました。このことは、超高解像度地層記録の分析が、地質時代の地球生命史事件について、どの程度の時間スケールの環境悪化に起因するものなのか、明らかにするための強力なツールとなりうることを示しています。地球生命史における大量絶滅事件が地質学的に一瞬なのか、それとも徐々に発生していたのか、それぞれの大量絶滅事件について議論がありますが、地層の超高解像度分析の今後の活躍が期待されます。



参考図

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本研究で分析した約2億5千万年前の火災記録。黒線と赤線はそれぞれFT-ICR-MSおよび従来の分析手法による結果。ペルム紀末の大量絶滅の際に数100年スケールで火災および土壌の海洋への流出が繰り返し発生し、同時期に海洋が無酸素化した。



発表論文

掲載誌Nature Communications
論文タイトル:Centennial scale sequences of environmental deterioration preceded the end-Permian mass extinction
著者:Ryosuke Saito1,2,3,4*, Lars Wörmer1, Heidi Taubner1, Kunio Kaiho5, Satoshi Takahashi6, Li Tian7, Masayuki Ikeda8, Roger E. Summons2, Kai-Uwe Hinrichs1
*筆頭著者:, 1ブレーメン大学, 2マサチューセッツ工科大学, 3山口大学, 4JSTさきがけ,5東北大学, 6名古屋大学, 7中国地質大学, 8東京大学
DOI10.1038/s41467-023-37717-0



問い合わせ先

<研究に関すること>
山口大学大学院創成科学研究科理学系学域
助教 齊藤 諒介(さいとう りょうすけ)
E-mail: saitor[at]yamaguchi-u.ac.jp

東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
山口大学総務企画部総務課広報室
電話: 083-933-5007
E-mail: sh011[at]yamaguchi-u.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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