東北大学 大学院理学研究科・理学部

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巨大地震後の地盤変動を解析する新手法を開発
GNSS観測データから東北地方太平洋沖地震後10年後の地盤変動を従来技術の約10分の1の高精度で予測

発表のポイント

● 全地球測位衛星システム(以下GNSS)注1による観測データを解析し、地震後の地盤変動を予測する新手法を開発しました。

● 本手法により、東北地方太平洋沖地震の10年後における現在の地盤変動を実測値にほぼ近い高精度で予測できました。

● 巨大地震後の地盤変動対策やハザードマップの更新など、地震・津波防災にも応用できると期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

2011年の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)から10年が経過した現在も、東北地方では活発な地殻変動が続いており、沿岸部の漁港などで実際に生活への影響が出ていることが問題となっています。地殻変動はGNSSにより記録されていますが、従来の解析手法は計算コストが高く、地盤の高さを予測すると実測値と10センチメートル(年平均1センチメートル)程度異なるという不確実さがありました。

東北大学大学院理学研究科のダル サムブッダ特任助教と武藤潤教授は、2011年東北沖地震後の複雑な地盤変動を解析する革新的手法を開発しました。従来の複雑な力学モデルに代わり、GNSS観測の時系列データを関数モデルで調整することで、地震発生から10年後の地盤変動についても観測と予測との誤差を1センチメートル(年平均1ミリメートル)以下に抑えた精度で予測することができます。

最低2年間の連続GNSS時系列データを用いて、最小限の計算リソースで地震後の地盤の動きが予測でき、それを引き起こす上部マントルの流動とプレート境界断層の「ゆっくりすべり」を検出できます。

今後、GNSS連続記録が得られる他地域にも適用可能で、巨大地震後の地盤変動解析や津波防災に大きく貢献することが期待されています。

本研究成果は、5月3日に科学誌Geophysical Research Lettersに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

2011年の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)から12年が経過した現在も、東北地方では活発な地殻変動が続いています。複雑な地殻変動はGNSSにより記録されており、特に余効変動(地震後の変形)注2が沿岸部の漁港などで生活への影響を及ぼしていることが知られています。

余効変動は、主にプレート境界面でのゆっくりすべりである余効すべり注3と周辺のマントルの流動による粘弾性緩和注4が原因とされています(図1)。これまでの研究では、沈み込み帯の形状や実験室で提唱される岩石の変形特性を含む力学モデルが用いられていましたが、計算コストが高く、解析結果の不確実性が高くなっていました。

さらに時系列解析はGNSSの時系列データに様々な減衰関数を当てはめることで行われます。これまでの研究では、指数関数や対数関数が用いられていましたが、これらの関数モデルは実際のマントルの流動やプレート境界でのすべりという物理的なメカニズムについての根拠や説得力に欠けることが多いことも問題となっていました。


今回の取り組み

本研究グループは、東北地震後のGNSS時系列データをより正確に予測する新たな手法を発見しました。本手法では、岩石の物性を数学的なモデルに組み込むことで、地震後の地盤変動をより正確に予測できるモデルを提案しました。

特に2年以上の時系列データセットがあれば、東北地方のGNSS観測によって地震後10年間の地殻変動を、水平成分だけでなく、これまでうまく説明されてこなかった上下成分についても正確に予測できます。さらに本モデルは、実験室での岩石の物性に基づいていることから、観測されたGNSS時系列データからマントルでの流動やプレート境界でのゆっくりすべりの様子を知ることも可能です(図2)。



今後の展開

今回の研究成果は、地震後の地盤変動の理解や予測に役立つことが期待されます。地震後の少なくとも2年間のGNSS時系列データがあれば、精度の高い関数モデルが構築できることから、他の沈み込み帯における余効すべりと粘弾性緩和の複雑な相互作用や将来の地震の余効変動を明らかにできる可能性があります。例えば、1999年の台湾集集地震、2007年のベンクル地震(スマトラ島南西部沖)、2010年のマウレ地震(チリ)、2012年のスマトラ島沖地震の余効変動に対しても、この手法が適用できます。この方法により、正確な地震後の地盤変動の予測を通して、ハザードマップの更新など地震・津波防災にも役立つでしょう。

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図1:余効変動(大地震後の地殻変動)のメカニズムを説明した図
大地震後には、プレート境界面でのゆっくりすべりである余効すべりと周辺のマントルの流動による粘弾性緩和が起こる。


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図2:今回提案したモデルの成果
岩石の物性に基づくモデルは、東北沖地震後のGNSS時系列を正確に予測できるだけでなく、地下で起こる粘弾性緩和と余効すべりの様子を知ることができます。



謝辞

本研究は、文部科学省による研究費補助金(JP23H01262, JP22K18283, JP15K21755)および「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けました.による支援を受けて実施されました。



用語説明

注1. 全地球測位衛星システム(GNSS):人工衛星を使って地球上のあらゆる場所の位置を正確に知ることのできるシステム

注2. 余効変動:大地震後に、ゆっくりと地面が動き続ける現象

注3. 余効すべり:巨大地震で大きく動いたプレート境界の周辺が、地震後もゆっくりとすべる現象

注4. 粘弾性緩和:地震よって起こされたプレート境界のズレがゆっくりと周辺に伝わり、地下にあるマントルが水飴のようにゆっくりと流動する現象



論文情報

タイトル:Function Model Based on Nonlinear Transient Rheology of Rocks: An Analysis of Decadal GNSS Time Series After the 2011 Tohoku-oki Earthquake
著者:Sambuddha Dhar* and Jun Muto
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 特任助教 ダル サムブッダ
掲載誌:Geophysical Research Letters
DOI:10.1029/2023GL103259



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web
教授 武藤 潤(むとう じゅん)
TEL: 022-795-6627
E-mail: muto[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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