東北大学 大学院理学研究科・理学部

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惑星はいつ誕生するのか〜惑星形成の最初期段階を捉える〜

概要

台湾中央研究院の大橋永芳氏を中心とする国際研究グループは、地球の近傍に位置する、星形成開始から1-10万年程度の初期段階にある19の原始星について、アルマ望遠鏡を用いてこれまでにない高い解像度で周囲の円盤を観測し、円盤の詳細な構造を系統的に調べました。その結果、原始星周囲の円盤では、星形成の比較的後期段階にある原始惑星系円盤と比べ、惑星系形成の兆候は見られないか、見られても原始惑星系円盤ほど惑星系形成は進んでいないと推測されました。今回の結果から、惑星系形成は中心の恒星の形成開始10万年後から100万年後ぐらいにかけて急速に進むと考えられ、惑星形成の最初期段階を捉えた本研究は「惑星系がいつ形成されるのか」という問いへの理解を深めるものです。

□ 東北大学ウェブサイト

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原始星周囲の円盤の想像図 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)



詳細な説明

我々の太陽系や太陽系以外の系外惑星系の起源を探ることは、我々自身の起源にも迫る、現代天文学における重要なテーマの一つです。太陽は今から約46億年前に、約1億年の時を経て形成されたと言われています。太陽程度の質量を持った恒星は皆、太陽と同様の過程を経て形成し、その際に、周囲に円盤が形成されます。その円盤の中で、我々の地球のような惑星が形成されると考えられています注1。円盤は星形成開始後、数100万年後ぐらいには消失してしまうため、惑星系形成は星系形成開始から数100万年ぐらいの間に起こると推測されます。しかしながら、その数100万年の「どの段階」で惑星が形成されるのかは、まだはっきりとは分かっていません。

最近のアルマ望遠鏡を用いた高分解能の観測から、星形成開始から100-1000万年程度経過した若い星周囲の原始惑星系円盤には、同心円状の塵のリングの間にギャップ(間隙)が見られることが明らかになり、これは円盤の物質を掃き集めながら惑星が成長しつつある証拠だと考えらえています。その一方で、多くの原始惑星系円盤でそのような兆候がみえることから、原始惑星系円盤では、惑星系形成が既にかなり進行している、あるいは、ほぼ完了していることも示唆されます。「これらのアルマ望遠鏡の結果を踏まえると、『星形成過程のどの段階で惑星系が形成されるのか? 』という問いに答えるためには、星形成のより初期段階を調べる必要があるのです。」と国際研究グループを主催する大橋氏は説明します。

そこで、国際研究グループは、星形成開始から1-10万年程度の初期段階にある原始星周囲の円盤に着目し、アルマ望遠鏡で円盤内の塵(惑星の材料)が出す電波の観測を行うという大型プログラム、Early Plant Formation in Embedded Disks (eDisk)を開始しました。これまでにも、原始星周囲の円盤に着目した観測的研究は行われてはいましたが、限られた数の天体を個々に調べるにとどまっていました。また、0.1秒角を切るような空間分解能の観測もごく一部の原始星周囲の円盤に限られていました。今回の観測では、地球からおよそ650光年以内に位置する、19の原始星周囲の円盤を、0.04秒角という非常に高い空間分解能注2で観測し、円盤の構造を詳細に調べることに成功したのです。このような高い空間分解能で20個近い天体の原始星周囲の円盤の詳細な構造を系統的に調べた研究は、これが初めてです。

その結果、原始星周囲にはより進化の進んだ若い星と同様に円盤が存在することが確認されました。しかしながら、原始星周囲の円盤は、より進化の進んだ原始惑星系円盤とは大きく異なる特徴を示すことが系統的に明らかになりました。惑星系形成の兆候であるリングやギャップは、19天体中、比較的進化の進んだ原始星数天体周囲の円盤でのみ見られました。しかも、その構造は原始惑星系円盤で見られたリングやギャップ構造と比べると非常に淡いものでした。その一方で、多くの円盤では、惑星の材料となる塵が円盤面に沈殿しておらず、円盤面上空に巻き上げられた状態にあることもわかりました。より進化の進んだ原始惑星系円盤は厚みが薄いことがこれまでの観測でわかっており、原始星周囲の円盤よりも塵の沈殿が進んで、惑星形成の準備ができている段階にあると考えられます。大橋氏は、「アルマ望遠鏡の観測から原始星周囲の円盤とより進化の進んだ原始惑星系円盤の間にこのような明確な違いが見られるとは正直予想していませんでした。」と語ります。「今回の我々の結果から、惑星系形成は、星形成開始後10万年から100万年ぐらいにかけて、急速に進むと考えられます。」と、国際研究グループを共同主催する、米国国立電波天文台のジョン・トービン氏は付け加えます。

今回の観測は、アルマ望遠鏡の0.04秒角という非常に高い空間分解能に加え、アルマ望遠鏡が『大型プログラム』という、長い観測時間をかけて数多くの天体観測が実行できる制度を導入したことにより、初めて可能となりました。「1つの円盤を観測しただけでは、たまたまその系天体の惑星形成が早かったり遅かったりするかもしれません。今回のプログラムでは、約100時間の観測時間をかけて、多数の原始星周囲の円盤を統計的に観測しました。」と語る国際研究グループのもう一人の共同主催者である、デンマーク、ニールス・ボーア研究所のイエス・ヨルゲンセン氏はさらに、このような大型プログラムを立案、実行するための、国際協力の重要性も述べています。「本研究を推進した国際研究グループには15の研究機関から37名の研究者が参加しています。さらに、その約半数は、大学院生や博士号を取得して間もない若手研究者です。本研究は、そのような多くの若手研究者の力で推進されていると同時に、将来の研究の育成に大きな役割を果たしているとも言えます。」



補足

※1:1960年代に京都大学の林忠四郎を中心とする研究グループが、「林モデル」と言われる惑星系形成のモデルを構築しました。そのモデルでは、星形成開始から100-1000万年程度経過した若い星周囲の円盤内で惑星系形成が進行する、と考えていました。これらの円盤は惑星系形成の現場と考えられることから、「原始惑星系円盤」と呼ばれますが、その当時は、若い星周囲に実際に原始惑星円盤が存在することは観測的には確かめられていませんでした。その後、観測技術が飛躍的に向上し、若い星の周囲には実際に原始惑星系円盤が存在することが確かめられました。

※2:この角分解能は、100キロメートル先にあるコインを見分けることのできる能力に相当します。


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図:本研究で観測された連星系4天体を含む、原始星19天体周囲の円盤のイメージ。連星系4天体のうち、1天体は主星と伴星周囲の円盤を別々に表示している(二段目一番右と三段目一番左)。左上の円盤ほど若く、右下ほど進化が進んでいる。一番右下の最も進化した二つの円盤で淡いリング―ギャップの構図が見られる。それぞれのイメージに対して、20au(1auは太陽と地球の距離の1億5千万キロに相当)のスケールが灰色の実線で示されている。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Ohashi et al.



謝辞

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

本研究は、JSPS科研費(JP16H05998, JP18H05440, JP21H04487, JP21H00048, JP18H05222, JP20H05844, JP20H05847, JP21H04495)、NAOJ ALMA Scientific Research grant(2019-13B、 2022-20A)他、国際的な支援を受けて行われたものです。



論文情報

本研究の初期成果は、18編のシリーズ論文として出版予定ですが、そのうちの概要を解説した論文Ohashi et al.他5編が米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に受理され、その内最初の4編は2023年6月28日付で掲載されました。また、5編のプレプリントはarXivに2023年6月27日付で公開されました。これらの論文に加え、今後は、より詳細なデータ解析を行い、その結果をより統計的に解釈する論文も出版する予定です。

Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk) I:
Citation: Ohashi, N., et al. 2023, ApJ, 951
DOI: 10.3847/1538-4357/acd384

Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk) II:
Citation: Lin, Z.-Y., et al. 2023, ApJ, 951
DOI: 10.3847/1538-4357/acd5c9

Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk) III:
Citation: van 't Hoff, M. L. R., et al. 2023, ApJ, 951
DOI: 10.3847/1538-4357/accf87

Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk) IV:
Citation: Yamato, Y., et al. 2023, ApJ, 951
DOI: 10.3847/1538-4357/accd71

Miyu Kido et al. "Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). VII. Keplerian Disk, Disk Substructure, and Accretion Streamers in the Class 0 Protostar IRAS 16544-1604 in CB 68"
URL: https://arxiv.org/abs/2306.15443



発表機関

国立天文台
台湾中央研究院天文及び天体物理研究所
米国国立電波天文台
ニールス・ボーア研究所
鹿児島大学
東京大学
ヴァージニア大学
イリノイ大学
ハワイ大学マノア校
韓国天文宇宙科学研究院
ソウル大学校
東北大学
欧州南天天文台
合同アルマ観測所
台湾国立清華大学
ミシガン大学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web
准教授 富田 賢吾(とみだ けんご)
TEL: 022-795-6507
E-mail:kengo.tomida.b7[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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