東北大学 大学院理学研究科・理学部

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小惑星リュウグウを作った原材料物質と太陽系外縁部の天体を構成する始原的な塵との分光学的関連性

発表のポイント

● リュウグウを作った原材料物質の情報を残す岩片(以降,極小変質岩片)対して赤外分光分析(注1)を行い、小惑星のスペクトルや彗星や彗星由来の塵のスペクトル(注2)と比較した。

● リュウグウの極小変質岩片の赤外スペクトルは、小惑星帯の中心から外側に分布するD型小惑星や太陽系外縁部に存在する彗星、および彗星起源の惑星間塵のスペクトルと類似していた。

● この結果はリュウグウの母天体(注3)が、彗星などの形成領域に近い太陽系外縁部において形成された可能性を示唆する。



概要

リュウグウは、太陽系初期に形成された母天体がその後破壊され、その破片が再集積してできたC型(炭素質) 小惑星です。2020年、小惑星探査機「はやぶさ2」は地球に5.4 gのリュウグウ試料を持ち帰りました。リュウグウ試料の初期分析の結果、リュウグウ試料の大部分は、リュウグウの母天体を最初に構成していた始原的な無水物質と、液体の水が化学反応し形成された含水鉱物でできていることがわかりました。一方、いくつかの試料には、ほとんど水と反応をしていない岩片(極小変質岩片)があることも分かりました (Nakamura T. et al, 2022)。

東北大学大学院理学研究科地学専攻 福田佳乃さん(修士1年)、中村智樹教授らのチームは、仏Paris-Saclay大学宇宙天体物理学研究所のRosario Brunetto博士らのチームと共同で、極小変質岩片を含むミリメートルサイズのリュウグウ試料に対して赤外分光分析を行い、得られたスペクトルを小惑星、隕石、彗星、惑間塵のスペクトルと比較することで、リュウグウの母天体と太陽系外縁天体との関係性を指摘しました。このことは、小惑星リュウグウの母天体形成が太陽から離れた極低温領域であったことを示唆した初期分析の結果を補強する重要な成果です.

本研究成果は、2023年7月10日、米国アメリカン・アストロノミカル・ソサイエティ―発行の学術雑誌The Astrophysical Journal Lettersにオープンアクセス論文として掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

小惑星は太陽系における化石のような天体で、太陽系の初期進化やその後の多様な進化状態の情報を保持しています。小惑星の構成物質の不均一性は、小惑星が形成された原始太陽系星雲の領域の環境が反映された結果であり、小惑星の多様なスペクトルの原因となっています。したがって、小惑星の構成物質を知ることは、原始太陽系星雲や小惑星の母天体で進行した様々な化学進化のプロセスを理解するための重要な情報になります。

小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウ試料の大部分は、水質変成を受けてできた含水鉱物が支配的ですが、水質変成の影響が最も少ない岩片には、始原的な無水物質であるカンラン石や輝石、非晶質ケイ酸が残っていることが分かっています。この岩片は、リュウグウの母天体の構成要素を作り上げたダストの組成を明らかにするうえで、非常に重要です。


今回の研究成果

走査型電子顕微鏡や元素分析の結果から、今回分析したリュウグウ試料はいくつかの異なる成分の岩片でできていることがわかりました。本研究では、その中でも非晶質ケイ酸塩に富む極小変質岩片に着目して、リュウグウ試料の局所赤外分光分析(近赤外~中間赤外波長領域)を行いました。

リュウグウ試料に対して、東北大学の顕微FTIR(注4)を用いて、約100 µmの測定領域でポイントごとの赤外分析を行いました (図1左の赤枠)。また、フランスチームは放射光施設SOLEILの3つのFTIR顕微鏡を用いて、赤外ハイパースペクトルイメージングによる測定も行いました (図1左の青枠)。


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図1. 左:SOLEILで測定された赤外ハイパースペクトルの測定領域(青枠)と、東北大学で測定されたポイントごとのマイクロ赤外スペクトルの測定領域(赤枠)。
右:SOLEILで測定されたスペクトルによる赤外マップ(ピクセルサイズは3.3 µm)。1120 cm-1をR、910 cm-1をG、880 cm--1をBとして表している。主要な岩相(層状ケイ酸塩に富む)は緑色、無水物質を含む岩相は水色(カンラン石に富む)やピンク色(輝石に富む)として表れている。(©Brunetto et al., 2023 より改変)


分析の結果、リュウグウ試料に含まれる、カンラン石や輝石、非晶質ケイ酸塩に富むいくつかの岩片の赤外スペクトルは、D型小惑星や彗星、彗星起源といわれている無水惑星間塵のスペクトルと類似していました。この結果は、リュウグウの母天体を形成した原材料物質が、原始太陽系星雲の外側領域で形成された彗星やD型小惑星を構成物質と近い物質であることを示しています。リュウグウの母天体は太陽から離れた領域で形成され,その後水質変成や力学的進化の影響を受けた結果、現在の軌道で含水鉱物に富むスペクトルが観測されるようになったと考えられます。このシナリオは、リュウグウ試料の初期分析から得られている知見とも整合的です。



用語説明

注1. 赤外分光分析:測定対象表面で反射した赤外光を分光し、波長ごとの強度を測定する分析。
注2. スペクトル:分光分析の結果得られる、波長ごとの光の強度分布をグラフにしたもの。
注3. リュウグウの母天体:現在のリュウグウのもととなった天体。この母天体が破壊され、その破片が再集積して現在のリュウグウになった (Nakamura et al. 2022)。
注4. FTIR:フーリエ変換赤外分光光度計。分光分析のための装置で、干渉計を使用し、非分散で全波長を同時に検出できる。



論文情報

タイトル:Ryugu's Anhydrous Ingredients and Their Spectral Link to Primitive Dust from the Outer Solar System
著者:R. Brunetto (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), C. Lantz (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), Y. Fukuda (東北大学), A. Aléon-Toppani (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), T. Nakamura (東北大学), Z. Dionnet (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), D. Baklouti (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), F. Borondics (SMIS-SOLEIL), Z. Djouadi (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), S. Rubino (IAS, Université Paris-Saclay, CNRS), K. Amano (東北大学), M. Matsumoto (東北大学), Y. Fujioka (東北大学), T. Morita (東北大学), M. Kikuiri (東北大学), E. Kagawa (東北大学), M. Matsuoka (産業技術総合研究所), R. Milliken (ブラウン大学), H. Yurimoto (北海道大学), T. Noguchi (京都大学), R. Okazaki (九州大学), H. Yabuta(広島大学) , H. Naraoka (九州大学), K. Sakamoto (ISAS/JAXA), S. Tachibana (ISAS/JAXA, 東京大学), T. Yada (ISAS/JAXA), M. Nishimura (ISAS/JAXA), A. Nakato (ISAS/JAXA), A. Miyazaki (ISAS/JAXA), K. Yogata (ISAS/JAXA), M. Abe (ISAS/JAXA), T. Okada (ISAS/JAXA), T. Usui (ISAS/JAXA), M. Yoshikawa (ISAS/JAXA), T. Saiki (ISAS/JAXA), S. Tanaka (ISAS/JAXA), F. Terui (神奈川工科大学), S. Nakazawa (ISAS/JAXA), S. Watanabe (名古屋大学), and Y. Tsuda (ISAS/JAXA)
掲載誌The Astrophysical Journal Letters
DOI10.3847/2041-8213/acdf5c



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web
教授 中村智樹(なかむらともき)
TEL: 022-795-6651
E-mail: tomoki.nakamura.a8[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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