東北大学 大学院理学研究科・理学部

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磁場が地球に降り込む宇宙放射線を跳ね返す
〜高エネルギー電子から大気を護る地磁気の役割を解明〜

発表のポイント

● 地球極域(注1)に降り込む高エネルギーの電子と大気との衝突過程を精密に計算しました。

● 地球への入射エネルギーが高くかつ入射角度が大きい電子は、低高度になるほど強まる地磁気(注2)の存在によって跳ね返される割合が、従来の研究報告よりも大きいことを明らかにしました。

● 地球に降り込んでくるキラー電子(注3)が地磁気によって跳ね返されることで、衝突頻度の高い領域が80 km以下の低高度と130 kmの高高度との2ヶ所に分かれることを発見しました。オゾンの消失過程に影響を与えるとされるキラー電子の量を正確に理解することに繋がります。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地球の極域には宇宙空間からエネルギーの高い電子が降り込み、大気と衝突することによりオーロラや電離圏電子密度の変動などを引き起こしています。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の加藤雄人教授、ドイツ・ハイデルベルク大学のパウル・ローゼンダール大学院生(2019年短期留学プログラムJYPE(注4)学生)、国立極地研究所の小川泰信教授、千葉経済大学の田所裕康准教授らによる研究グループは、降り込み電子(注5)と大気との衝突に対して、低高度になるほど強まる地磁気の効果に着目した精密な数値シミュレーションを行いました。その結果、地磁気により電子が跳ね返される効果が予想以上に大きいことを明らかにしました。この効果は電子のエネルギーが高いほど顕著であり、電子の降り込みによるオゾンの消失過程への影響や電離圏電子密度変動を正確に理解する上で重要な知見となります。

本研究成果は、2023年8月2日付で地球物理学分野の専門誌Earth, Planets and Spaceに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

地球の極域で輝くオーロラは、磁力線に沿って宇宙空間から降り込んできたエネルギーの高い電子が大気と衝突することで生じています。電子と大気との衝突は、酸素や窒素などの原子や分子を電離させ、電離圏電子密度の変動を引き起こしています。近年は、脈動オーロラと呼ばれる数秒周期で明滅するオーロラが発生する時に、数十万電子ボルト(注6)を超える相対論的電子(注7)(宇宙放射線)も同時に降り込んできていることも分かりました。エネルギーの高い電子は地球大気の中間圏高度(50-80 km)にまで達することが知られており、オゾンの消失過程にも影響を与えると考えられています。


今回の取り組み

地球極域の大気に降り込む電子と大気との衝突過程については、半世紀以上に及ぶ研究の歴史があります。今回、国際宇宙ステーションが飛行する高度400km以下の超高層大気での電子と大気との衝突過程について、地球に近づくほど強まる地磁気が電子の運動に及ぼす影響を精密に取り入れて、大気と衝突しながら降り込んでくる電子の運動を解き進めました。どの高度でどの程度の頻度の衝突が起きるかを詳細に計算した結果、降り込んできた電子を地磁気が跳ね返す効果が従来の予想以上に顕著であることを明らかにしました(図1,2)。この跳ね返りの効果は、大気に入射する角度が大きな電子ほど強くなり、また、電子のエネルギーが数十万電子ボルトを超えると特に顕著になることも分かりました。跳ね返りの効果の結果として、大気が濃くなっていく高度100 km以下では衝突率が1桁以上低下することを示し、衝突頻度の高い領域が80 km以下の低高度と130 kmの高高度の2ヶ所に分かれることも初めて明らかにしました。

今後の展開

宇宙放射線の中でも相対論的なエネルギーを持つ電子は「キラー電子」とも呼ばれ、宇宙空間では衛星の障害を引き起こし、宇宙飛行士の被曝の要因ともなることが知られています。太陽で発生するフレアの影響により、キラー電子の量が増減することが明らかとなっています。キラー電子の消失過程としては、磁力線に沿って地球の極域に降り込み大気と衝突することによる消失が主要因とされています。本研究で明らかにした地磁気の役割を考慮することにより、キラー電子の降り込みによる電離圏の電子密度変動の正確な理解が一層進むことが期待されます。


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図1. 地磁気による跳ね返りの効果を精密に取り入れた計算で得られた、極域大気に降り込んできた電子と大気との衝突率の高度分布(太い実線)。磁力線に平行に降り込んできた場合(点線)や、跳ね返りの効果を含めずに70度の角度で降り込んできた場合(細い実線)を比較すると100 km以下に到達する十万電子ボルト以上の電子による衝突率が1〜2桁低下することを示している。

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図2. 大気と衝突しながら降り込んでくる電子の軌跡。地磁気による跳ね返りの効果を考えない場合(a)に比べて、跳ね返りの効果を考慮した場合(b)には電子の軌跡が総じて上向きに変化していくことを示している。



謝辞

本研究はJSPS科研費(JP20K04052, JP21H04520, JP18H03727, JP20H01959, JP15H05747)の助成を受けて行われました。



用語説明

注1. 極域:南極と北極を「極地」と呼ぶのに対し、少し範囲を広げる際に「極域」と呼ぶ。南極の極域は周辺の海、北極の極域はグリーンランド全域と周辺の海を含めることが多い。
注2. 地磁気:地球が持つ固有の磁場。地球からの距離に応じて強度が変化する。極域において高度400 kmでの磁場強度は、おおよそ地表の8割程度である。
注3. キラー電子:宇宙空間にあるエネルギーが高い電子。地球を取り巻くように分布する放射線帯に多く存在する。人工衛星の故障を引き起こす要因となる。
注4. JYPE(Junior Year Program in English):東北大学が開講する交換留学生のための研究トレーニングプログラム。1年間または半年間のプログラムで、研究室に配属されサポートを受けながら、自分たちの分野の中のカレントトピックについて研究を進める(http://www.jlpk.ihe.tohoku.ac.jp/ja/exchange/)。
注5. 降り込み電子:宇宙空間から大気に降り込んでくるエネルギーの高い電子。主に極域で生じており、オーロラの発光を引き起こしたり、電離圏の電子密度を変動させたりすることが知られている。
注6. 電子ボルト:エネルギーの単位であり「eV」と記される。1ボルトの電位差を通過した電子が得るエネルギーが1 eVであり、温度にして約1万度に相当する。
注7. 相対論的電子:真空中の光速に迫る高速で動くため、相対論的効果が無視できない電子。電子以外の荷電粒子を含めると「相対論的粒子」と呼ぶ。相対論的な荷電粒子はシンクロトロン放射、逆コンプトン散乱による放射、チェレンコフ光の放射を行う。



論文情報

タイトル:Effect of the mirror force on the collision rate due to energetic electron precipitation: Monte Carlo simulations
著者:加藤雄人*1、パウル・ローゼンダール1,2、小川泰信3、平木康隆4、田所裕康5
1. 東北大学 大学院理学研究科
2. ハイデルベルグ大学
3. 国立極地研究所
4. (株)アドバンスドナレッジ研究所
5. 千葉経済大学
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 教授 加藤雄人
掲載誌Earth, Planets, and Space
DOI10.1186/s40623-023-01871-y



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 加藤雄人(かとう ゆうと)
TEL: 022-795-6516
Email: yuto.katoh[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL: 022-795-6708
Email: sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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