東北大学 大学院理学研究科・理学部

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火星大気でホルムアルデヒド生成
-太古の火星で生命材料分子が蓄積-

発表のポイント

● 大気モデルを用いて、アミノ酸や糖などの生命材料分子の原料となるホルムアルデヒド(化学式: H2CO)が約38-36億年前の火星大気中で継続的に生成されていたことを示しました。

● 生命材料分子である糖が、太古の火星の海の中で継続的に生成されていた可能性を示唆しています。

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概要

ホルムアルデヒドはアミノ酸や糖などの生命材料分子の原料となる重要な分子です。約38-36億年前の火星は、今の地球のように温暖で海が存在していた時代があったと考えられています。しかし、そのような環境でホルムアルデヒドがどの程度生成されるかは分かっていませんでした。

東北大学理学研究科地球物理学専攻の小山俊吾 大学院生と寺田直樹教授らの研究グループ、地学専攻の古川善博准教授は、大気の光化学モデル(注1)を用いて太古の火星大気中におけるホルムアルデヒドの生成量を推定し、ホルムアルデヒドが太古の火星の温暖な時代に継続的に生成されていたことを示しました。

本研究の成果によって、リボ核酸(RNA)を構成する要素の一つであるリボース(注2)に代表される生命の材料分子である糖が、太古の火星の温暖な時代に継続的に生成されていた可能性が示唆されました(図1)。

本研究成果は、2024年2月9日に科学誌Scientific Reportsに掲載されます。



詳細な説明

研究の背景

現在の火星は、平均温度約-70 ℃で寒冷な環境です。しかし、火星の地表面に残っている水が流れた跡と考えられるバレーネットワークという地形の存在や鉱物中の地球化学的な証拠から、約38-36億年前の火星には液体の水や海が存在し得る温暖な時代があったと考えられています。このような太古の火星では、液体の水の存在から生命の存在可能性が注目されてきました。

生命の誕生には、液体の水に加えて、生命の材料分子も必須であると考えられています。そのため、火星における生命の可能性を解明するためには、生命の材料分子の存在可能性も明らかにする必要があります。

そこで鍵を握るのが、ホルムアルデヒドという分子です。ホルムアルデヒドは、生命の材料分子である糖やアミノ酸の原料となる重要な分子です。しかし、太古の火星でホルムアルデヒドがどのくらい生成し得るかは分かっていませんでした。


今回の取り組み

東北大学理学研究科地球物理学専攻の小山俊吾 大学院生と寺田直樹教授の研究グループ、地学専攻 古川善博准教授は、大気の化学モデルを用いて、太古の火星大気を模擬した条件下で、ホルムアルデヒドの生成量を計算しました。結果として、火山から噴出される水素が一定以上存在すれば、約40億年前から30億年前の広い時代で、多くのホルムアルデヒドが大気中の化学反応によって生成されていたことが分かりました。特に、約38-36億年前の温暖な時期に、ホルムアルデヒドが最も効率的に生成されることが示されました。

生命の起源に重要な役割を果たしたと考えられているリボ核酸(RNA)の構成要素でリボースという糖があります。今回計算したホルムアルデヒドの生成量を元に、古川善博准教授の研究グループがこれまで行ってきたホルモース反応(注3)の実験データを組み合わせ、太古の火星の海の中におけるリボースの生成量も推定しました。この結果によって、太古の火星の温暖な時期に限ってリボースに代表される生命の材料分子である糖が継続的に生成されていた可能性が示されました。


今後の展開

現在、火星ではNASAの探査機が地質調査をしています。そこで得られるデータから、私たちが推定した時代の有機物の特徴もわかりつつあります。今後の研究では、今回生成することが推定できたホルムアルデヒドの同位体などの特徴から当時の地層に堆積した有機物の特徴を推定し、探査機で得られているデータと比較することによって、当時の火星でどのように有機物生成が進んだかをより詳細に明らかにしたいと考えています。その一環として、火星表面の地形や推定した当時の気候情報と組み合わせ、火星のどこで生命材料分子ができやすかったのかを明らかにすることに挑みたいと思います。

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図1. 太古の温暖な火星でホルムアルデヒド(H2CO)が大気中で生成され、海の中で生命の材料分子に変換されるプロセスの概念図(©Shungo Koyama)



謝辞

本研究は環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)と日本学術振興会科研費補助金(JSPS KAKENHI Grant Number: JP22KJ0314, JP23K13166, JP19H00707, JP20H00192, JP22H00164, JP22KJ0280)、NINS Astrobiology Center satellite researchの支援を受けて行われました。



用語説明

注1. 大気の光化学モデル:大気中の化学物質の反応と変化を計算するモデル。
注2. リボース:リボ核酸(RNA)の構成要素で五炭糖(5つの炭素原子を持つ単糖)の一つ。
注3. ホルモース反応:ホルムアルデヒドから糖を合成する化学反応。



論文情報

タイトル:Atmospheric formaldehyde production on early Mars leading to a potential formation of bio-important molecules
著者:Shungo Koyama*, Arihiro Kamada, Yoshihiro Furukawa, Naoki Terada, Yuki Nakamura, Tatsuya Yoshida, Takeshi Kuroda, and Ann Carine Vandaele
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 博士課程 小山俊吾
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-024-52718-9
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-52718-9



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻[web
大学院生 小山 俊吾(こやま しゅんご)
TEL:022-795- 6537
Email:koyama.shungo.q5[at]dc.tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻[web
教授 寺田 直樹(てらだ なおき)
TEL:022-795- 6734
Email:teradan[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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