東北大学 大学院理学研究科・理学部

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小鳥はさえずりの内容を目的に応じて柔軟に変えられる
さえずり中の音をテキスト化するプログラム開発によって判明

発表のポイント

● ジュウシマツのさえずり中の音素を迅速にテキスト化するプログラムを開発し、ジュウシマツがさえずり中に発する音素の並びを、意図的に変えられるのかを調べました。

● その結果、ジュウシマツがさえずり中の特定の部分を意図的に変えられる能力をもっていることが判明しました。

● 小鳥はさえずりの内容を、目的に応じて柔軟に変えられることを示唆する成果です。

● 今後、ジュウシマツが柔軟に音声を使い分ける際の脳内機構の詳細を明らかにすることで、ヒトの言語の生成・認識能力の脳内機構の解明に貢献することが期待されます。

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詳細な説明

鳴禽類(スズメ亜目)は、さえずりや歌と呼ばれる音声を用いてコミュニケーションをとりますが、彼らがさえずり中の音の並びを意図的に変えられるのかどうかは分かっていませんでした。

東北大学大学院生命科学研究科の河路琢図(かわじ たくと)博士後期課程学生(研究当時)、藤林瑞季(ふじばやし みずき)博士前期課程学生、安部健太郎(あべ けんたろう)教授(高等研究機構・言語AI研究センター兼任)は、さえずりの内容を迅速に識別するコンピュータープログラムを作成しました。そしてこのプログラムを用いてジュウシマツが発する自然なさえずりを解析し、さえずり中の繰り返し音が設定した数を超過した場合にのみ、他の個体の様子を記録した動画を液晶モニター画面からフィードバックとして提示する実験を行いました。その結果、鳴禽類はさえずり中の音の並びを意図的に変えられることを明らかにしました。本研究は鳴禽類の音声コミュニケーションの特性を明らかにする重要な成果です。

本研究成果は4月24日にNature Communications 誌(電子版)に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

ミソサザエやコガラなど、鳴禽類(スズメ亜目)に分類されるいくつかの鳥類は、さえずりと呼ばれる複雑な音素のシーケンスを通じてコミュニケーションを行うことが広く知られています。例えば、カロライナコガラは、警戒すべき相手に応じて警戒シグナルとして発する音声中の音の並びを変えることが観察されていました(Templeton, Science 2005)。しかし、この音声の並びを変化する行動が、仲間の鳥に具体的な警告を伝えるための意図的なものなのか、それとも恐怖などの情動の程度の違いによって結果的に変わっていたのかは明らかになっていませんでした。ジュウシマツは多彩な音素シーケンスからなるさえずりを使ってコミュニケーションをとる鳴禽類の一種です。安部健太郎教授らの研究グループは、ジュウシマツは音の並びの違いを敏感に聞き分けることができることを以前、示していました(Abe Nat. Neurosci 2011)。


 

今回の取り組み

今回、東北大学大学院生命科学研究科の河路琢図博士後期課程学生(研究当時)、藤林瑞季博士前期課程学生、安部健太郎教授(高等研究機構・言語AI研究センター兼任)らのグループは、小鳥のさえずり中の音素を迅速にテキスト化するコンピュータープログラム(simultaneous automatic interpreter for birdsongs :SAIBS)を開発し、それを用いて、ジュウシマツがさえずり中に発する音素の並びを、意図的に変えられるのかを調べました。

今回新たに開発されたSAIBSプログラムは、「あいうえお」といった人間の言葉を構成する音に相当するさえずり中の音素を、高精度で識別し、テキストに変換することが可能です。この変換は発声後数ミリ秒以内という速度で実行することができます。この技術を活用し、ジュウシマツの発声を検知後に迅速に発声内容の解析を行い、内容に応じたフィードバック情報を返せるようになりました。これにより、いわゆるクローズドフィードバック実験(注1)が可能になりました。

今回、このSAIBSを使用し、ジュウシマツが発する自然なさえずりを解析し、さえずり中の繰り返し音が設定した数を超過した場合にのみ、他の個体の様子を記録した動画を液晶モニター画面からフィードバックとして提示するという実験を行いました(図1)。このような実験方法は、動物が特定の行動をした際にのみ報酬を与える、オペラント条件づけ(注2)と呼ばれます。1-2週間の条件づけの後、ジュウシマツは条件づけ前に比べてさえずり中の繰り返し音を増加させること、またさえずりの変化は条件づけの標的とした部分のみでおこることがわかりました。また、このようなさえずり内容の変更は、内容に応じたフィードバックを提示しない日や、さえずりを変化させなくともフィードバックが提示される日にはおきないことから、ジュウシマツは動画報酬を得るという目的依存的にさえずりの内容を変化させる能力があることを明らかにしました。また、ジュウシマツ脳内の特定の神経回路がこのような状況依存的な柔軟な音声の使い分けに関わることを明らかにしました。


 

今後の展開

本研究ではジュウシマツがさえずり中の特定の部分を意図的に変えられる能力をもっていることが判明しました。一般的に、動物の鳴き声は生まれつき定まったパターンのみを繰り返すものとされていますが、ジュウシマツが人間の言葉のように、柔軟に音声を使い分ける能力があることの発見は、動物の音声コミュニケーションがこれまで考えられていた以上に、ヒトの言語コミュニケーションに近い可能性があることを示しています。今後、ジュウシマツが柔軟に音声を使い分ける際の脳内機構の詳細を明らかにすることで、ヒトの言語の生成・認識能力の脳内機構の解明に貢献することが期待されます。

なお、本研究によりジュウシマツは意図的にさえずりの内容を変化させる能力があることがわかりましたが、さえずりをコミュニケーションにどのように使用しているのか、異なるさえずりにどのような役割や意味の違いがあるのかは未だ明らかになっていません。本研究グループは引き続き、動物のコミュニケーションの脳内機構を明らかにする研究に取り組んでいます。


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図1. フィードバック実験のイメージ図
本研究ではジュウシマツが発する音声の内容を迅速に解読し、内容に応じて他の個体の動画を液晶モニターに提示するという実験を行いました。


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図2. フィードバック実験の詳細
本研究では、さえずり内容を迅速にテキスト化するプログラム(SAIBS)を使用し、ジュウシマツが自発的に発する音声の内容を迅速にテキスト化(図中の i,a,b,c,f, gなど)し、内容に応じて報酬として他個体の動画を提示するという実験を行いました。図はフィードバックの標的として、さえずり中にしばしば見られる同じ音の繰り返し(図中はcと表記)をある一定数(閾値x)を超えた場合のみ、短期間他の個体の動画を提示しました。この条件づけ学習の結果、cの繰り返し音回数が増えることがわかりました。これはジュウシマツが意図的に発声内容を変化させることができることを示唆しています。



謝辞

本研究は科研費JP23K18252、JP21K19424(挑戦研究萌芽), JP22H05482, JP21H05608(学術変革領域A), JP19H04893(新学術領域研究), JP19H03319 (基盤研究B)、JP22KJ0225(特別研究員奨励費)、東北大学研究プログラム 挑戦研究デュオ Frontier Research in Duo (FRiD)、東北大学クラウドファンディング「動物の『ことば』を解読する研究促進のため、実験機材購入にご支援を!」(募集期間:2021年12月20日 〜 2022年2月28日)。の支援を受けて行われました。



用語解説

注1.クローズドフィードバック実験:被験者が行った行動に対する結果や情報をリアルタイムで提示し、被験者がそれを受けて次の行動をとったり反応したりする実験系。フィードバックループが閉じている(クローズド)ため、即時的かつ継続的な行動の調整が可能になる。
注2.オペラント条件づけ:行動心理学で用いられる学習の1つで、動物または人間がとる特定の行動に対する報酬や罰を与えることで、その行動の頻度が増加や減少することを誘導する過程。



論文情報

タイトル:Goal-directed and flexible modulation of syllable sequence within birdsong
著者:Takuto Kawaji, Mizuki Fujibayashi, Kentaro Abe*
*責任著者:東北大学 大学院生命科学研究科 脳機能発達分野 教授 安部健太郎
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-024-47824-1



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科、兼担 理学部生物学科
教授 安部 健太郎
TEL: 022-217-6228
Email: k.abe[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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