● 堆積岩が加熱された温度が大量絶滅時の気候変動を決める。
● 堆積岩の低温加熱、または、高温加熱で地球寒冷化に、堆積岩の中温加熱で地球温暖化になる。
本研究は、顕生代の大量絶滅時の気候変動のメカニズムについて新しい概念を提唱しています。大量絶滅時の気候変動は、世界的な寒冷化が主の場合と温暖化が主の場合がありますが、なぜそうなるのかは解明されていませんでした。
海保名誉教授は、堆積岩が加熱された温度が大量絶滅時の気候変動を決めることを示しました。硫化物の低温加熱は硫黄酸化物(SO2)の放出を通じて世界的な寒冷化を引き起こし、一方で炭化水素と炭酸塩の中温加熱は大量の二酸化炭素(CO2)の放出をもたらし、これが世界的な温暖化を起こします(図1)。さらに、高温加熱は硫酸塩からSO2を生成し、これが世界的な寒冷化に寄与します。大規模火山活動の場合、マグマが堆積岩に侵入し、その接触加熱温度により、上記の揮発性ガスが発生し、ガス爆発により、大気に放出されることにより、上記の気候変動を起こします。また、隕石の衝突による短時間の衝突加熱は、炭化水素からすすを生成し、世界的な寒冷化を起こします。
本研究の成果は、国際誌「Scientific Reports」に5月1日に掲載されました。
図1. この図の上部に示した大量絶滅の3分類は、地球平均気温変化とコロネン指標(堆積岩加熱温度指標)に基づいています。下部の図は、実験データに基づく加熱温度と気候変動に影響を与える主要な排出ガス・粒子を示しています。
上部の図のカラーの短い垂直バーは各大量絶滅でのコロネン指標の平均値を示しています。略語と色は異なるイベントを示しており、End-F(デボン紀フラニアン期の終わり):●、G-L(ペルム紀中期後期の移行帯):●、End-P(ペルム紀の終わり):●、End-T(三畳紀の終わり):●、およびK-Pg(白亜紀-古第三紀境界):●です。
下部の図の特定の排出ガス、SO2、CO2、または煤が加熱温度によって決定されます。
上部と下部の図を接続している三つの温度スケールの関係はArrhenius方程式に基づいています。つまり、加熱時間が長くなると、より低い温度で、同じ化学反応が起きることを三つの温度スケールは表現しています。一番上の温度スケールは、コロネンなどのPAHの生成温度実験のスケールであり、衝突など瞬時の加熱温度も示します。衝突点の温度は10,000°Cを超えますが、クレーターの中心から外へ向かい加熱温度は数百度まで下がります。真ん中の温度スケールは、Kaihoら(2021, EPSL)と本論文の実験データに基づく5分間加熱の温度を表します。一番下の温度スケールは、大規模火山活動のシル(水平に貫入したマグマ)によって加熱された温度を示し、100年間加熱です。
大規模な火山活動と隕石の衝突は、ともに堆積岩を加熱し、加熱温度と加熱時間により異なる気体と粒子を放出して、寒冷化が主になるのか温暖化が主になるのかが決まるという新しい概念を提唱しました。研究結果は、大量絶滅期間中の主要な気候変動を理解する上での加熱温度と加熱時間の重要な役割を明らかにしています。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Role of volcanism and impact heating in mass extinction climate shifts
著者:Kunio Kaiho
DOI:10.1038/s41598-024-60467-y
<研究に関すること>
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
(生命環境史)
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
※ [at]を@に置き換えてください