● ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)の新しい植物ホルモンを同定しました。
● ホルモンの構造進化の鍵となった化学変換反応を発見しました。
● 高等植物への進化に伴い、ホルモンの化学構造の「進化」に関する貴重な示唆を与える成果です。
動くことのできない植物は、多くの外部環境ストレス(病虫害、低温、塩害、乾燥など)にさらされています。これらのストレスに対する耐性機構は、約4億5千万年前に植物が陸上に進出した際に発生したと考えられています。
東北大学大学院理学研究科 上田 実教授らは、CNB-CSIC(スペイン)との国際共同研究によって、始原陸上植物のモデルとされるゼニゴケ(Marchantia polymorpha)の新しい植物ホルモンΔ4-dn-iso-OPDAを同定しました。このホルモンは、コケ植物(ゼニゴケ、ヒメツリガネゴケ、ツノゴケ)に広く分布しており、草食昆虫や病原体に対する植物のストレス耐性機構に重要な役割を果たしています。高等植物の多くはこれに対応するホルモンをもっており、その構造の違いから、ホルモン進化の経路に関する貴重な示唆が得られました。
今回の発見は、植物ホルモンシグナルの進化を理解するための重要な知見につながると考えられます。
本成果は、6月5日付けで、総合科学誌iScienceにおいて公開されました。
動くことのできない植物は、多くの外部環境ストレス(病虫害、低温、塩害、乾燥など)にさらされています。これらのストレスに対する耐性機構は、約4億5千万年前に植物が陸上に進出した際に発生したと考えられており、始原陸上植物のモデルとされるコケ植物ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)を用いた研究が盛んに行われています。2022年には、ゼニゴケから2つの新規始原植物ホルモンが発見されましたが、主要な異性体の化学構造は未同定でした。
今回、東北大学大学院理学研究科・生命科学研究科 上田 実 教授、加治 拓哉助教、西里 祐宇保 大学院生は、東北大学大学院生命科学研究科 経塚 淳子 教授、依田 彬義 研究員、CNB-CSIC(スペイン)Roberto Solano教授らとの国際共同研究によって、新規始原植物ホルモンの主要な異性体がΔ4-dn-iso-OPDA(図1)であることを示しました。このホルモンは、コケ植物(ゼニゴケ、ヒメツリガネゴケ、ツノゴケ)に広く分布し、草食昆虫や病原体に対する植物の防御応答に重要な役割を果たします。
また研究チームは、ゼニゴケの2つの始原ホルモンのうち、片方の異性体は生合成前駆体型(注1)であり、今回同定した主要異性体Δ4-dn-iso-OPDAが活性本体であることを明らかにしました。この発見により、ゼニゴケの始原ホルモンΔ4-dn-iso-OPDAは、プロドラッグ(注2)のように前駆体型(cis体)から活性型(iso体)への異性化反応(図1)によって生成することが明らかになりました。
ゼニゴケの始原ホルモンΔ4-dn-iso-OPDAに対応する植物ホルモンとして、多くの高等植物はジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)を持ちます(図2)。しかし、これら2つの化学構造は大きく異なり、「なぜ、どのようにして」、ホルモンの構造が「進化」したのか、興味が持たれます。研究チームは、ホルモンの生合成機構から、上記の異性化反応が植物ホルモンの構造進化を引き起こした鍵反応であると推定しました。この反応を触媒する酵素が進化の過程で変異したことでホルモンの構造進化が導かれたと考えられます。
本研究は、新しい植物ホルモンの同定に留まらず、植物の陸生化に伴う環境変化への対応に新たな知見を加え、植物ホルモンの進化に関する深い理解や農業およびバイオテクノロジーへの応用の道を開くと期待されます。
図1. ゼニゴケの始原ホルモンは前駆体から活性型への異性化反応で生成する
図2. 高等植物のホルモン ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)とゼニゴケの始原ホルモンΔ4-dn-iso-OPDA
注1. 生合成前駆体型:ホルモンなどの化学物質は、脂肪酸やアミノ酸などを原料として数段階の化学変換反応を経て作られます(生合成)。各段階の化学反応で生じる化合物を生合成中間体といい、原料から数種の生合成中間体を経て、最終的には最終生成物に変換されます。
注2. プロドラッグ:薬の中には、生体に投与した後に、生体内で分解あるいは変換されることで、薬理活性をもつ活性型に変換されるものがあり、これをプロドラッグと呼びます。
タイトル:Δ4-dn-iso-OPDA, a bioactive plant hormone of Marchantia polymorpha
著者:Takuya Kaji#, Yuho Nishizato#, Hidenori Yoshimatsu, Akiyoshi Yoda, Wenting Liang, Andrea Chini, Gemma Fernández-Barbero, Kei Nozawa, Junko Kyozuka, Roberto Solano, and Minoru Ueda*
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 教授 上田 実
#共同第一著者
掲載誌:iScience (Cell Press)
DOI:10.1016/j.isci.2024.110191
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻
教授 上田 実(うえだ みのる)
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Email: minoru.ueda.d2[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
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Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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