東北大学 大学院理学研究科・理学部

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イメージセンシングで植物のストレス状況を瞬時に可視化
気候変動に伴う高ストレス環境下の食糧増産に道

発表のポイント

● 農作物が生育の間に、どれだけのストレスを受けているのかを迅速に評価できれば、迅速な対応が可能となります。

● 光化学反射指数(PRI)というリモートセンシング(注1)指標を使い、ハイパースペクトルカメラ(注2)による観測で植物の光合成速度やストレス状況を、葉の脱落や色素量の低下が起こる前に高精度かつ迅速に評価する手法を確立しました。

● 本手法を農業生産の場に活用することで、ストレスへの対処を可能にし、収量増加につながると期待されます。

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概要

食糧増産のニーズが高まっていますが、農作物はストレスに脆弱で、例えば潅水不足では萎れ・枯れに至る前に光合成が低下してしまうため迅速な対応が必要とされています。国立大学法人東北大学大学院生命科学研究科の博士後期課程学生(社会人ドクター)兼ソニーグループ株式会社 小川哲、沖縄県農業研究センター 玉城麿 上席主任研究員、臼井高江 職員、東北大学大学院生命科学研究科の彦坂幸毅 教授は、ハイパースペクトルカメラにより取得した画像から、植物のストレス状況を迅速かつ高精度で推定する手法を開発しました。

本研究では、光化学反射指数(PRI)と呼ばれる反射スペクトル指数を利用しました。PRIは、葉のストレス状況が悪化すると値が変化する指数ですが、野外の圃場における計測は実用化に至っていませんでした。本研究では、野外のPRI計測を阻害する要因を特定し、植物のストレスを評価すべき葉を識別・抽出する方法を開発することで、葉が重なり土壌なども映るような圃場の計測において高精度なストレス推定を可能にしました。この手法を応用することにより、迅速なストレスへの対処を可能にし、収量増加につながると期待されます。

本論文は6月18日に科学誌Scientia Horticulturae電子版に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

人口の劇的な増加により、食糧増産のニーズが高まっている一方、気候変動に伴う高温や渇水などのストレス環境の増大も懸念されています。農作物の光合成はストレスに脆弱で、ストレスの発生に対して迅速な対応が必要とされています。植物のストレス状況をカメラ画像から取得する手法は古くから存在しますが、ストレスによって植物の葉が脱落したり、色素含有量が低下したりする様子からストレス状況を評価していました。このような葉の脱落や色素量の低下が起こってしまった後は収量低下が避けられず、ストレスの被害が顕在化する前に把握することが求められています。

植物は、ストレスにさらされると、ストレスに耐えるために様々な化学反応を行います。光化学反射指数(Photochemical Reflectance Index, PRI)は、その化学反応の一つによって生じる葉の反射率変化を利用して、植物のストレス状況を評価する指数として提案されました。実際に、一枚の葉を様々な環境条件にさらしてPRIを観測すると、PRIは変化し、高温・低温・乾燥 (水不足)などのストレスにさらされた葉と健康な葉を区別することができます。しかし、野外などの農業現場でPRIを観測すると、植物のストレス状況以外の要因の影響を大きく受けるため、実用化には至っていませんでした。


今回の取り組み

本研究では、PRIに影響する要因を丹念に検討し、ストレスを評価すべき葉だけを識別、測定の安定性に影響を与える画像中の要素を特定し除外することで、植物のストレス状況を高精度で評価することを目指しました。そこで用いたのが高性能なハイパースペクトルカメラです。ハイパースペクトルカメラは、2次元の画像を撮影するカメラで、一つの画素(ピクセル)内のスペクトルを分析することができます。本研究では、画素内のスペクトル分布を解析することで、その画素が撮影している物体が何かを推定し、ストレス状況以外の情報を含むと考えられる画素を除き(図1)、ストレス状況の情報のみを含むと考えられる画素のPRIのみを抽出する手法を開発しました。

潅水不足による水ストレスにさらしたトマトと通常条件で育成したトマトを比較したところ、画像全体のPRIの値は両者で大きくオーバーラップがあったのに対し、ストレス状況のみを含む画素のPRIの値は両者で分かれ、植物のストレス状況を高精度で評価できることが明らかとなりました(図2)。


今後の展開

今後は、本研究で開発した手法をさらにブラッシュアップし、農業現場で利用可能な観測システムを構築し、植物のストレス状況を迅速に検出することを可能にすることを目標に研究を進めていく予定です。

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図1. 温室内で栽培したトマトをハイパースペクトルで撮影し、PRIの値を色で表した図。暖色から寒色になるにつれてストレスが高まることを示す。左は全画素を、右はストレスを評価すべき葉だけを抽出したもの。左図は一見カラフルであるが、防草シートやストレス評価に適さない影葉が含まれる。右図ではストレス評価に適した葉のみが抽出される。


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図2. 観測した画素のPRI値の頻度分布。左は全画素を、右はストレス条件以外の要因の影響を受けた画素を除外したもの。図中の水色はストレスのないトマトのPRI頻度分布、紫はストレスのあるトマトの頻度分布。青は双方が重なる分布。左図に比べ右図ではストレスのないトマトとストレスのあるトマトの頻度分布が分離している。



用語説明

注1. リモートセンシング:遠隔から対象を観測する手法。
注2. ハイパースペクトルカメラ:各画素内の波長スペクトルを観測できるカメラ。



論文情報

タイトル:Hyperspectral image extraction to evaluate the photosynthetic and stress status of plants, using a photochemical reflectance index (PRI)
著者:小川哲・玉城麿・臼井高江・彦坂幸毅
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科大学院生(社会人ドクター)・ソニーグループ株式会社 小川哲
掲載誌:Scientia Horticulturae
DOI:10.1016/j.scienta.2024.113349



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学大学院生命科学研究科 兼担 理学部生物学科[web]
教授 彦坂幸毅
TEL:022-795-7732
Email: hikosaka[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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