東北大学 大学院理学研究科・理学部

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天の川銀河に予測を超えた多くの衛星銀河を発見!

国立天文台、東北大学、法政大学、プリンストン大学などのメンバーからなる国際共同研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラが撮像した最新データの中から、私たちの住む銀河系に付随する衛星銀河を新たに2個発見しました。研究チームが以前に発見した衛星銀河も合わせると、天の川銀河の周りには、理論予測の倍以上の衛星銀河が存在することが明らかになりました。銀河の形成史とそれを左右するダークマターの性質に対して新たな問題を投げかける発見です。

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図1:おとめ座の方向で見つかった矮小銀河(Virgo III)の位置(左図)とその星々(右図;白丸で囲まれた天体)。矮小銀河には暗い星しかないため、星がまとまって存在している部分を探し出して、同定します。右図の破線の内側にメンバー星が集中しています。(クレジット:国立天文台/東北大学)


私たちの住む銀河系にはいくつの衛星銀河があるのでしょうか。これは長年、天文学者が抱えてきた重大な問題です。衛星銀河は、ダークマターの小さな塊にガスが集まり、そこから星々が生まれることで形成されたと考えられています。したがって、衛星銀河の数の問題は、ダークマターの性質、つまりその正体に関わっているのです。

ダークマターの標準理論(注1)では、銀河系のような銀河の周りには千を超えるダークマターの塊と、それに対応する小さな銀河、つまり衛星銀河が存在すると予想されていました。しかし、これまでの観測では数十個の衛星銀河しか見つかっておらず(図2)、この数の食い違いは「ミッシングサテライト問題」と呼ばれてきました。この問題を解決するには、ダークマターの正体が標準理論と異なるもので塊の数がもっと少ないのか、あるいはダークマターの塊の中でガスから星が生まれる過程に問題があるのかを解明する必要があります。


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図2:銀河系の衛星銀河の3次元地図。銀河系円盤の面を水平面に取っています。青四角は大・小マゼラン雲、赤円はその他の衛星銀河で、可視の絶対等級が暗いほど小さなサイズで描画されています。本研究で新たに発見された2つの銀河(Virgo III と Sextans II)の位置は矢印で示されています。(クレジット:国立天文台/東北大学)


この問題へのもうひとつの糸口として、まだ発見されていない暗い衛星銀河(矮小銀河)(注2)が、銀河系の遠方に多く存在している可能性も考えられていました。そのような暗い矮小銀河の探査に威力を発揮するのが、8.2 メートルという大口径を持つすばる望遠鏡と超広視野焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)の組み合わせです。とても暗い天体を空の広い領域から探す上で、すばる望遠鏡と HSC は世界最強のコンビだからです。

研究チームは、HSC を用いて広い天域を観測する「戦略枠プログラム」(HSC-SSP)で得られたビッグデータから矮小銀河の探査を進めてきました(図3)。HSC-SSP のデータは解析後に順次公開されてきて、研究チームはこれまでおとめ座、くじら座、うしかい座の方向に次々と新しい矮小銀河を見つけてきました(それぞれ Virgo I、Cetus III、Bootes IV)。そして、今回、最新の公開データから新たに2個の矮小銀河(Virgo III と Sextans II)を発見しました。これらは全て太陽系から 30 万光年以上離れた距離にあることもわかりました。


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図3:HSC-SSP で観測された天域(赤線で囲んだ領域)。これまで知られていた衛星銀河を黒四角、新たに発見したものを白三角と星印で示しています。(クレジット:国立天文台/東北大学)


HSC-SSP の天域(図3、約 1,140 平方度)には以前から4個の矮小銀河が知られていたので、研究チームによる発見を合わせると、合計で9個の矮小銀河が見つかったことになります。実はこの数は最新の理論で予想される衛星銀河の個数をかなり上回ります。

背景として、「ミッシングサテライト問題」を発端に、矮小銀河の形成を抑える過程の理論研究も展開されてきました。そして、最新の最も確からしい分析では、銀河系に全部で 220 個程度の衛星銀河があると予測されていました。これを HSC-SSP の観測天域と観測可能な明るさの限界に適用すると、3個から5個の衛星銀河が見つかることになります。しかし、実際には9個の衛星銀河が見つかったので、銀河系全体に換算すると、少なくとも 500 個の衛星銀河が存在することになってしまいます。今度は「ミッシングサテライト問題」ではなく、「衛星銀河が多すぎる問題」に直面することになりました。

これは、衛星銀河と同程度の大きさのダークマターの塊の中で、一体どのようにして星ができて銀河になるのかという基本的な物理過程の問題と考えられます。現状では星の形成にブレーキをかけすぎた結果になっているので、その過程を計算する精度が足りていないのか、あるいは、見落とされている物理過程があるのか、などを再検討する必要があります。ただ、少なくとも当初の「ミッシングサテライト問題」は解決できそうな状況で、ダークマターの標準理論が生き残れる状況になってきたと言えるでしょう。

一方、今後はより広い天域でさらに暗い矮小銀河まで探査範囲を広げ、衛星銀河の個数の統計精度を上げていく必要があります。その一つに、建設中のベラ・ルービン天文台の望遠鏡 LSST(Large Synoptic Survey Telescope)が行う大規模探査があります。望遠鏡のあるチリから観測できる天域全てを探査する観測が来年から始まる予定で、多くの新しい衛星銀河が発見され、ダークマターとその中の銀河形成過程が抱える問題が一挙に解決されることが期待されます。

本研究成果は、日本天文学会の欧文研究報告『Publication of the Astronomical Society of Japan』の電子版(advance article)に 2024年6月8日付で掲載されました(Homma et al. 2024, "Final Results of Search for New Milky Way Satellites in the Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program Survey: Discovery of Two More Candidates")。

本研究成果は、科学研究費補助金JP18H05437、JP21H05448、JP24K00669、JP20H01895、JP21K13909、JP23H04009のサポートを受けています。


すばる望遠鏡について

すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。



研究チーム

本間大輔(国立天文台)、千葉柾司(東北大学)、小宮山裕(法政大学)、田中賢幸(国立天文台)、岡本桜子(国立天文台)、田中幹人(法政大学)、石垣美歩(国立天文台)、林航平(仙台高専)、有本信雄(元国立天文台)、Robert H. Lupton(プリンストン大学)、Michael A. Strauss(プリンストン大学)、宮崎聡(国立天文台)、Shiang-Yu Wang(台湾中央研究院天文及天体物理研究所)、村山斉(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)



用語説明

注1:標準理論では、ダークマターの正体は「冷たい暗黒物質」と呼ばれる素粒子群とされています。
注2:光度が暗く小さな銀河を矮小銀河と呼びます。



論文情報

タイトル:Final results of the search for new Milky Way satellites in the Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program survey: Discovery of two more candidates
著者:Daisuke Homma, Masashi Chiba, Yutaka Komiyama, Masayuki Tanaka, Sakurako Okamoto, Mikito Tanaka, Miho N Ishigaki, Kohei Hayashi, Nobuo Arimoto, Robert H Lupton, Michael A Strauss, Satoshi Miyazaki, Shiang-Yu Wang, Hitoshi Murayama
掲載サイト:Publication of the Astronomical Society of Japan
DOI:10.1093/pasj/psae044



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院 理学研究科 天文学専攻[web
教授 千葉 柾司 (ちば まさし)
電話:022-795-6505
Email:chiba[at]astr.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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