東北大学 大学院理学研究科・理学部

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過去の桜島噴火に共通したマグマ上昇の経時現象を解明
―大規模噴火の予測と事前の防災計画に道―

発表のポイント

● 桜島火山の有史以降の大規模噴火(1471 年、1779年、1914 年)に共通して、噴火発生前にマグマがいつ頃・どこまで上昇していたのかを明らかにしました。

● マグマ溜まりから浅部の火道まで一旦上昇したマグマは、約50日以停止し、再び上昇を始めてから数日以内と短時間のうちに地表に到達していました。この発見は大規模噴火の発生予測向上への貢献が期待されます。

● 将来、大規模噴火が起こる場合にはマグマがこのような複雑な動きをする可能性があることも考慮して、防災計画をたてておくことが必要です。

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概要

将来の火山災害のリスクを軽減するためには、過去の火山噴火の誘発過程(噴火に至るまでに地下でいつ・どのような現象が起きていたか)を理解することが重要です。

東北大学大学院理学研究科地学専攻の新谷直己助教と中村美千彦教授らの研究グループは、鹿児島県の桜島火山において人類が記録に残した有史以降に発生した三度の大規模噴火(1471年、1779 年、1914 年)で噴出した軽石に含まれる鉱物の微細な化学組成を調べました。その結果、姶良(あいら)カルデラ(注1)下の深さ約10 kmのマグマ溜まりから火道の浅部(深さ1~3 km程度)へと上昇したマグマは、約50日程度以上停滞した後に、再び上昇を開始してからは、ごく短時間(動き出してから数日以内)で地表に達していたことがわかりました。

今回、過去の大規模噴火に共通したマグマの上昇過程を詳細に明らかにしたことで、前兆現象を引き起こした原因の解明が進み、将来の噴火発生予測技術の向上への貢献が期待されます。また、将来もし同様の大規模噴火が起こる場合には、マグマがこのような複雑な動きをする可能性があることも考慮した防災計画をたてておくことが必要だと考えられます。

本成果は、8月27日に地球科学分野の専門誌Journal of Geophysical Research: Solid Earthに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

鹿児島県の桜島火山は世界屈指の活動的火山であり、15世紀以降だけでも火山爆発指数(VEI:Volcanic Explosivity Index)(注2)が4の大規模な爆発的噴火が3回発生しています(1471年、1779 年、1914 年)。現在、地殻変動の観測から、姶良カルデラ下深部のマグマ溜まりには、直近の大規模噴火である1914 年の大正噴火の際に放出されたマグマと同程度のマグマがすでに蓄積されていることが示されており、近い将来に、大規模な噴火が起きる可能性が高いと考えられています。これら3回の大規模噴火では、噴火に先立って姶良カルデラ下の主マグマ溜まり(深さ10 km程度)から浅部の火道(深さ1~3 km程度)へとマグマが上昇していたことが明らかにされているものの(参考文献1)、噴火に至る詳細な過程や、噴火の誘発要因については明らかになっていませんでした。


今回の取り組み

東北大学大学院理学研究科地学専攻の新谷直己助教と中村美千彦教授らの研究グループでは、過去3回の大規模噴火を対象として、軽石に含まれる鉱物の化学組成、特に一つの鉱物内部における中心部と外縁部での化学組成の違いである累帯構造に着目しました(図1)。高温なマグマの中では、鉱物内部での元素の拡散が活発に起こることで、累帯構造は焼きなまされ徐々に均質化します。言い換えると、均質化の程度を調べることで、いつ・どのような現象が起きていたのか時間を遡ることができます。

直方輝石(注3)には、累帯構造が普遍的に見られます。累帯構造の中でも、マグマ供給によりできたと考えられるものについて、元素の拡散時間(注4)を求めたところ、数年から数十年と長い時間スケールを示しました。これはマグマ溜まりへのマグマの供給が繰り返し起こっていながら、直ちに噴火につながってはいなかったことを示します(図2)。一方で、ほぼ全ての磁鉄鉱(注5)には累帯構造がなく、それぞれの結晶内部で化学組成が均一でした。これは、磁鉄鉱内部での元素の拡散が直方輝石に比べて約1万倍以上も高速なため、浅部の火道にマグマが上昇してから一定以上の時間が経過したことで、直方輝石と同時に形成されていたはずの累帯構造が消失した(鉱物組成が均質化した)ことを示しています。磁鉄鉱内の累帯構造の消失にかかる時間の計算から、少なくとも約50日以上はマグマが定置していたと見積もられます(図2)。観測記録が残っている大正噴火の発生日時から逆算すると、深部マグマ溜まりから浅部火道までのマグマの上昇は、噴火の約半年前に観測された二酸化炭素ガスの放出による事故に対応している可能性があります。

また、ごく一部の磁鉄鉱には表面近くに累帯構造が見られることもわかりました。この累帯構造は、その化学組成を踏まえると、マグマが地表に上昇するときにできたと解釈できます(図2)。元素拡散時間は3~55時間と見積もられ、地殻の岩石に割れ目を作って最初に上昇を開始時したマグマに含まれていた磁鉄鉱だと解釈されます。観測記録が残っている大正噴火の前兆現象と比較すると、噴火の約30時間前から始まった有感地震に対応していると思われます。


今後の展開

噴火に至る上記の過程は、桜島で有史に3 回繰り返されてきた大規模噴火のいずれにも共通していることから、近い将来の発生が懸念されている同程度の噴火でも、同様の過程を辿る可能性があります。防災計画の策定においては、マグマがこのような複雑な動きをする可能性があることも考慮することが必要だと考えられます。


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図1. 鉱物の累帯構造と、元素拡散による均質化の模式図。時間が経つにつれて外縁部から組成が徐々に変化していく。

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図2. 鉱物の累帯構造から読み解いた、噴火に至るまでの地下でのマグマの動き。



参考文献

1.東北大学2019年2月14日付けプレスリリース『桜島火山の大規模噴火に共通の前駆過程を発見 ~マグマはごく浅部から噴出~



謝辞

本研究はJSPS 科研費 JP16H06348、20K22357、22H00162、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」、「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」、「東北大学グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」、「東北大学変動地球共生学卓越大学院プログラム」の助成・支援を受けたものです。



謝辞

本研究はJSPS 科研費 JP16H06348、20K22357、22H00162、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」、「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」、「東北大学グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」、「東北大学変動地球共生学卓越大学院プログラム」の助成・支援を受けたものです。



用語説明

注1. 姶良(あいら)カルデラ:カルデラとは、火山の噴火によってできた大規模な陥没地形です。姶良カルデラは、約2.9万年前の超巨大噴火により形成されたもので、南北約23km、東西約24kmにもおよびます。
注2. 火山爆発指数(VEI:Volcanic Explosivity Index):爆発的な噴火の規模を示す指標です。噴出量が1桁大きくなるとVEIが1大きくなります。
注3. 直方輝石:マグネシウム、鉄を主成分とする珪酸塩鉱物です。鉱物内部での元素拡散は磁鉄鉱に比べて遅く、より遠い過去のイベントを記録しています。
注4. 元素の拡散時間:実際に測定で得られた累帯構造を形成するのに、どの程度の時間、元素拡散が継続していればよいかを示す時間です。
注5. 磁鉄鉱:鉄と酸素を主成分とする鉱物です。その他に、チタン、アルミニウム、マグネシウムなども含みます。鉱物内部での元素拡散が珪酸塩鉱物に比べて高速であり、桜島では噴火に先立つ数時間~数ヶ月の情報を記録しています。



論文情報

タイトル:Time-Resolved Trigger Processes Leading to the Plinian Eruptions at Sakurajima Volcano, Japan
著者:Naoki Araya*, Michihiko Nakamura, Keiko Matsumoto, and Satoshi Okumura
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 助教 新谷直己
掲載誌:Journal of Geophysical Research: Solid Earth
DOI:10.1029/2023JB028558



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
助教 新谷 直己
TEL: 022-795-7763
Email: n.araya[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
教授 中村 美千彦
TEL: 022-795-7762
Email: michihiko.nakamura.e8[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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