● チリにあるアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)(注1)(以下、アルマ望遠鏡)を用いて巨大銀河の炭素イオン輝線を観測。
● 秒速およそ700から1500キロメートルの巨大ガス流を発見、ガス流は銀河の外に点在する分子ガス流ともつながる。
● 巨大ガス流によって銀河は星の材料となるガスを喪失。
東北大学大学院理学研究科の李建鋒特任助教がリードする国際研究チームが、宇宙初期にある巨大銀河「TN J0924−2201」において巨大ガス流を発見しました。この銀河は、地球から約124億光年離れており、宇宙初期における巨大銀河の形成や進化について重要な情報を与えてくれます。研究チームは、チリにあるアルマ望遠鏡を使って、この銀河から噴き出す「巨大ガス流」を捉えました。このような現象は、銀河の進化に大きな影響を与える急激な星の材料の喪失につながったと考えられます。
本研究成果は、2024年8月28日に科学誌The Astrophysical Journalに掲載されました。
TN J0924−2201は宇宙初期にあった「電波銀河」です。電波銀河とは、非常に強力な電波ジェットを噴出する巨大銀河のことで、その中心には超巨大ブラックホールがあり、「活動銀河核(注2)」と呼ばれる活動が見られます。巨大銀河の形成において宇宙初期に星の材料となるガスがどのように失われ、星形成が止まったのかは銀河形成の一つの謎となっています。
研究チームは、この銀河からの炭素イオン放射([CII]輝線)(注3)を観測し、これまでの研究で得られていた電離、中性および分子ガスの観測と比較して解析しました。その結果、電離ガスや分子ガスが秒速約700から1500キロメートルもの速さで、銀河の大きさをはるかに超えるスケールで噴き出していることがわかりました。この速度はこれまでに観測された宇宙初期の銀河の中で最も大きな速度です。この銀河は周囲に銀河が密集した領域の中心にありますが、ガス流の速度はこの密集領域さえ脱出する速度となります。この銀河からの巨大ガス流は、超巨大ブラックホールによって引き起こされたものと考えられており、ブラックホールが巨大銀河の成長に影響を与えている重要な段階を捉えたと考えられます。
銀河からのガス流は、銀河の形成に大きな影響を与えます。ガスが流出すると、銀河内で新しい星が形成される材料が喪失し、最終的には銀河の成長が止まると考えられています。今回の研究によって、宇宙初期の巨大銀河がガスを失いながら成長を止める様子の一端が明らかになりました。「我々は宇宙初期の銀河密集領域の中心にある巨大銀河から噴き出す巨大ガス流を目撃し、銀河進化の重要な一瞬を捉えた!」と、研究チームリーダーの李特任助教は興奮を抑え切れない様子で語りました。
なぜほとんどの分子ガスが噴き出したのか?ガス流の中で星は形成されているのか?巨大銀河の形成がどのように止まったのかはまだ謎だらけですが、銀河本体およびガス流に対してさらなる追観測を行ない、銀河進化の謎に迫ります。
図1:(左)地球から約124億光年離れた電波銀河TN J0924−2201の画像です。青い線は今回アルマ望遠鏡で観測した炭素イオンの分布を示します。背景はハッブル宇宙望遠鏡が捉えた可視光の画像で、紫色と緑の線はそれぞれ大型電波干渉計VLAで捉えた電波ジェットと分子ガスの分布を示します。左下の楕円形はそれぞれの観測の角度分解能を示します。(右)電波銀河TN J0924−2201からの炭素イオン輝線、水素輝線、分子ガス輝線のスペクトラムです。銀河から離れた場所に見られる分子ガスや大きな速度ずれを示す分子ガスや電離ガスのスペクトラムから巨大ガス流の存在が推測されました。
図2:電波銀河TN J0924−2201の模式図です。銀河からの電波ジェット、電離ガス流、分子ガス流は、それぞれ紫色、青色、緑色で示します。
※1. アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計):東アジア・北米・ヨーロッパ・チリの諸国による国際プロジェクトによって、チリ共和国北部アタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原に設置された干渉計方式の巨大電波望遠鏡です。
※2. 活動銀河核:銀河の中には、中心部の非常に狭い領域から銀河全体を凌駕するような強い電磁波を放射しているものがあり、その銀河中心部領域は活動銀河核と呼ばれます。活動銀河核から放射される莫大なエネルギーは、核の中心にある超巨大ブラックホールに周囲の物質が降着し、重力エネルギーが解放されることで生まれると考えられています。
※3. 炭素イオン放射([CII]輝線):炭素の一階電離イオンは電子のスピン軌道相互作用に起因する微細構造があり、水素分子などと衝突することで励起されると、波長158ミクロンの光子を出します。この輝線を観測することで、銀河内の星間物質の運動や速度を測定できます。
タイトル:Ongoing and Fossil Large-scale Outflows Detected in a High-redshift Radio Galaxy: [C II] Observations of TN J0924-2201 at z = 5.174
著者:Kianhong Lee, Masayuki Akiyama, Kotaro Kohno, Daisuke Iono, Masatoshi Imanishi, Bunyo Hatsukade, Hideki Umehata, Tohru Nagao, Yoshiki Toba, Xiaoyang Chen, Fumi Egusa, Kohei Ichikawa, Takuma Izumi, Naoki Matsumoto, Malte Schramm, and Kenta Matsuoka
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 特任助教 李 建鋒(り けんほう)
雑誌名:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/ad5be5
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web]
特任助教 李 建鋒(り けんほう)
TEL:022-795-6512
Email:kianhong.lee[at]astr.tohoku.ac.jp
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