東北大学 大学院理学研究科・理学部

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磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイクス動作温度を室温から160℃まで上昇させることに成功
─ 電気・磁気・光を相互に操る次世代の新機能デバイス実現に期待 ─

発表のポイント

● 電気的な性質と磁気的な性質が強く結合した物質であるマルチフェロイクス(注1)を室温よりもはるかに高い約160℃という温度で実現しました。

● マルチフェロイクスには、エネルギーロスの少ない磁性の制御や光の一方向性といった機能があることから、マルチフェロイクスの動作温度の高温化により今後応用への展開が期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

物質には電気的な性質である誘電性と磁気的な性質である磁性があります。マルチフェロイクスと呼ばれる物質群では、電気的に磁性を制御もしくは磁気的に電気分極(注2)を制御するといった電気磁気効果が観測されています。またマルチフェロイクスで光の進む方向が逆になると透過量が変わるマジックミラーのような機能(光の一方向性(注3))も観測されています。このような機能を、高機能な光デバイスや省電力の磁気メモリ制御などへ応用するための一つの障害がその動作温度の低さでした。これまで室温以下においてのみマルチフェロイクスの動作が確認されており、実用化のためにはより高温における動作が必須の課題となっていました。

東北大学大学院理学研究科の田島史門大学院生、同大学金属材料研究所の増田英俊助教、新居陽一准教授、木村尚次郎准教授、小野瀬佳文教授の研究グループは、マルチフェロイクスを室温以下だった既存の動作温度に比べてきわめて高い温度(約160℃)で動作させることに成功しました。

本成果は、これまでマルチフェロイクスのデバイス応用を阻んできた「動作温度が低い」という問題を解決し、実用化への道を示したものと言えます。

本研究成果は2024年12月18日(現地時間)に、材料科学分野の専門誌Communications Materialsに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

近年のマルチフェロイクスの研究は、2003年に東京大学の木村剛講師(現教授)らが磁気秩序によって強誘電性(注4)が起こることを発見したことによって盛んになりました(参考文献1)。この場合強誘電性がもともと磁性誘起のものであるため、大きな電気と磁気の結合があり、巨大な電気磁気効果や光の一方向性など多彩な機能が発現しました。しかし、その磁性誘起の性質から、動作温度は磁気転移温度によって制限されており、これまでのマルチフェロイクスの動作はせいぜい室温付近まででした。

一方で、強誘電性が磁性とは無関係に結晶格子の変形により電気双極子が現れることで起こり、かつ磁性を有する物質も存在していました。しかし、その場合、磁気的な性質と強誘電性の起源が別で分離しているため、マルチフェロイクスで観測されていたような、磁場によって電気分極が反転するといった大きな電気磁気効果は観測することが出来ていませんでした。


今回の取り組み

本研究グループは、モリブデン酸テルビウムTb2(MoO4)3が、結晶格子の変形によって強誘電性を発現することに着目しました(図1)。この物質は、強誘電体であるとともに強弾性体(注5)であり、歪みと電気分極が強く結合した物質です(図2)。またテルビウム(Tb)イオンは磁気モーメントを持っています。Tbイオンの持つ磁気モーメントは大きな磁気弾性結合、つまり磁気モーメントの方向に依存して歪む効果があることが、過去のTbを含む化合物の研究で知られていました。これらのことから、この物質では磁気モーメントと強誘電性の起源が別の独立なものになっているにもかかわらず、歪みを介して結合し、マルチフェロイクスとして動作することが期待されました。実際、約160℃という高温で、磁場によって磁気モーメントを90°回転させることにより、電気分極の反転に成功しました(図3)。これによって、マルチフェロイクスが高温でも動作することが実証されました。


今後の展開

マルチフェロイクスの高温における動作が実現したことにより、光の一方向性や省電力の磁性制御などマルチフェロイクスの機能の常温における安定動作が保証されたため、今後高機能な光デバイスや電場駆動のスピントロニクスデバイスなどへの応用研究が加速されると期待されます。


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図1. 高温マルチフェロイクス物質Tb2(MoO4)3


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図2. Tb2(MoO4)3における歪みと電気分極の結合。結晶が縦長であれば電気分極が正、横長であれば電気分極が負と、歪みと電気分極の正負が結び付いている。


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図3. Tb2(MoO4)3における歪みを介した電気と磁気の結合を利用した電気磁気効果。



謝辞

本研究は、JSPS科研費(課題番号:JP20K03828, JP21H01036, JP22H04461, JP23K13654, JP24H01638, JP24H00189, JP21H01026, JP23H04863, JP23K17660)、 JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2114)およびJSTさきがけ(課題番号:JPMJPR19L6)からの支援を受けて実施されました。本論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています(DOI: 10.1038/s43246-024-00717-8)。



用語説明

注1. マルチフェロイクス:強誘電体の大きな電気分極(注2)が磁性と共存し強く結合している性質もしくは物質。マルチフェロイクス物質では、磁場誘起の電気分極反転など大きな電気磁気効果が起こる。
注2. 電気分極:物質中の電気双極子の密度を表す物理量。
注3. 光の一方向性:光の伝わり方が、右から伝わる場合と左から伝わる場合とで異なる性質。電流の流れやすさが左右で異なるダイオードは一般的に知られているが、マルチフェロイクスでは光でも同じ効果が現われる。光は電磁波の一種であり、マルチフェロイクスでは光の電気と磁気が結合することで一方向性が生じる。
注4. 強誘電性・強誘電体:電場なしでもマクロな電気双極子(電気分極)を有する性質。また、強誘電性を持つ物質を強誘電体という。
注5. 強弾性・強弾性体:応力なしでも自発的な歪みを有する性質。また、強弾性を有する物質を強弾性体という。



参考文献

1. T. Kimura, T. Goto, H. Shintani, K. Ishizaka, T. Arima, and Y. Tokura, Magnetic control of ferroelectric polarization, Nature 426, 55-58 (2003).
https://doi.org/10.1038/nature02018



論文情報

タイトル:A high-temperature multiferroic Tb2(MoO4)3
著者:Shimon Tajima*, Hidetoshi Masuda, Yoichi Nii, Shojiro Kimura, Yoshinori Onose
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 大学院生 田島史門
掲載誌:Communications Materials
DOI:10.1038/s43246-024-00717-8



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学金属材料研究所
教授 小野瀬 佳文
TEL: 022-215-2040
Email: onose[at]imr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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