東北大学 大学院理学研究科・理学部

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セロトニン産生酵素Tph1は必須アミノ酸のトリプトファンと血糖値を制御する
─糖尿病や肥満を予防・治療する健康食品開発や創薬に期待─

発表のポイント

● トリプトファンハイドロキシラーゼ1(Tph1)が末梢で必須アミノ酸のトリプトファンとその代謝物を制御することを発見しました。

● Tph1は脳内でもトリプトファンとその代謝物を制御します。

● Tph1は血糖値を制御します。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

必須アミノ酸であるトリプトファンは体内で合成されず食事から摂取されるとされてきました。トリプトファンハイドロキシラーゼ(Tph)は、トリプトファンから神経伝達物質のセロトニンを産生させる酵素として知られています。TphにはTph1とTph2の2タイプがあり、特にTph1は末梢のセロトニンを、Tph2は脳内のセロトニンを産生します。

東北大学先端量子ビーム科学研究センターの野々垣勝則教授らは、必須アミノ酸であるトリプトファンとその代謝物の血中濃度と脳内含量がトリプトファンハイドロキシラーゼ1によって制御されていることを発見しました。

Tph1を遺伝子学的に欠損させたマウスでは健常なマウスに比べ、血中と脳内でトリプトファンとその代謝物の濃度が低下することがわかりました。また、セロトニン以外の血中トリプトファン代謝物の低下は加齢によって減弱しました。加えて、Tph1欠損マウスの血糖値はインスリン分泌や加齢とは関係なく野生群に比べ低いことがわかりました。

これらのことより、Tph1は脳内でもトリプトファンとその代謝産物を制御し、血糖値の制御にも寄与していることが示唆されます。

本研究成果は、2025年4月23日(現地時間)に科学誌International Journal of Molecular Sciencesのオンライン版にて公開されました。



詳細な説明

研究の背景

必須アミノ酸であるトリプトファンは体内で合成されず食事から摂取されるとされてきました。摂取されたトリプトファンは体内で代謝され、セロトニン、キヌレニン、インドールプロピオン酸の3つの経路を介して、トリプトファン代謝物が産生されます。トリプトファンハイドロキシラーゼ(Tph)は、トリプトファンからセロトニンを産生させる酵素として知られています。Tphには末梢に存在するTph1と、中枢に存在するTph2の2つのサブタイプがあり、Tph1は末梢のセロトニンを、Tph2は脳内のセロトニンを産生することが知られています。Tph1の遺伝子学的、または、薬理学的抑制は高脂肪食による脂肪性肝疾患を抑制することが報告されています。


今回の取り組み

野々垣勝則教授らは、Tph1を遺伝子学的に欠損させたマウスでは、血中のセロトニン濃度が顕著に低下するだけでなく、血中トリプトファン濃度が低下し、キヌレニンやインドールプロピオン酸の代謝経路の代謝産物も低下することを発見しました。

Tph1欠損マウスの脳内では、トリプトファンとセロトニンを含めたトリプトファン代謝物の含量が軽度低下しました。

このトリプトファンと、セロトニン以外のキヌレニンやインドールプロピオン酸の代謝経路の代謝物の低下は加齢によって減弱しました。

更に、Tph1欠損マウスの若年成人期では摂食量が増え、血中FGF21濃度が低下しましたが、中年期では摂食量が減り、血中FGF21濃度は増加しました。こうした年齢による摂食の変化やインスリン分泌とは無関係に、Tph1欠損マウスの血糖値は野生群に比べ低いことがわかりました。


今後の展開

Tph1やトリプトファンとその代謝物を標的した糖尿病や肥満の予防・治療に対する新たな健康食品の開発や創薬が期待されます。



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図1. 8週齢のTph1欠損マウスにおけるトリプトファンとその代謝物の変化


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図2. 7か月齢のTph1欠損マウスにおけるトリプトファンとその代謝物の変化



論文情報

タイトル:Tryptophan hydroxylase 1 regulates tryptophan and its metabolites
著者:Katsunori Nonogaki*, Takao Kaji
*責任著者:東北大学先端量子ビーム科学研究センター 教授 野々垣勝則
掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
DOI:10.3390/ijms26093978



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学先端量子ビーム科学研究センター[web]
糖尿病制御学寄附研究部門
教授 野々垣 勝則(ののがき かつのり)
Email:katsu[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学先端量子ビーム科学研究センター IR広報室
TEL:022-795-7800
Email:cyric-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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