● 5大絶滅時の堆積岩の加熱温度と全球気候異常との相関を体系的に分析しました。
● 寒冷化とその後の温暖化がそれぞれ絶滅を起し、一つの大量絶滅となることがわかり、「二段階絶滅メカニズム」という新しい概念を提案しました。
多様な動物の門が出揃った5億前以降に5つの主要な生物の大量絶滅が起きました。それらと同時に、気候異常が確認されています。海保邦夫名誉教授は、2024年の論文で、「大規模火山活動と大隕石衝突が起こす堆積岩加熱の温度が、寒冷化か温暖化かを決める」としました。
本論文では、未解明だった1回目の大量絶滅時(オルドビス紀末)の堆積有機分子分析を行い、5大大量絶滅をそれぞれ2事件に分け、計10件の事件について、2024年の論文と同様に、気候変動と「コロネン指数」(火山活動や隕石衝突による堆積岩の加熱温度を示す指標)の相関をまとめました。
その結果、海保名誉教授は、寒冷化とその後の温暖化がそれぞれ絶滅を起す、二段階絶滅メカニズム仮説を提唱しました。今までに、この概念は存在しなかったので、「革新的な貢献」として評価されています。
本研究の成果は、国際誌「Scientific Reports」に5月13日に掲載されました。
5大絶滅のうち、四つの大量絶滅は寒冷化に始まり温暖化で終わる、一つは気候異常不明(注1)に始まり温暖化で終わるとし、最初の絶滅事件時のコロネン指数は、二つが低温加熱、二つが高温加熱、一つが中温加熱、それらの後に起きた絶滅事件中の五つの温暖化は中温加熱であるとしました(図1上部)。
これらの発見が意味することは、大規模火山活動と大隕石衝突が硫化物や硫酸塩・炭化水素を低温または高温加熱し、SO2または煤が成層圏へ放出され、太陽光遮断により地球寒冷化と絶滅事件が起き、その後、炭化水素および炭酸塩を中温加熱しCO2放出量の割合が増え長期的な温暖化が続き、再度絶滅事件を引き起こしたということです(注2)(図1下部)。
中温・高温を示すコロネン指数と背景値が区別できることは、T検定で確かめました。低温を示すコロネン指数は背景値と区別できませんが、5-7環芳香族炭化水素の代表的分子の合計を3環芳香族炭化水素で規格化した値(EGC指数)を使うと、背景値(事件ではない通常の値)とT検定で区別できました。
図1. 5大大量絶滅期における10の生物危機イベントに関する、コロネン指数(注3)と全球表面気温異常(注4)のクロスプロット。これらのプロットには、実験データから導かれた加熱温度および気候変動に影響を与える主要な排出ガス・粒子も含まれています。イベント名の後には、その原因および海洋・陸上環境における種の絶滅率と原因が示されています。上図の長い黒い矢印は変化の方向性を示します。水平バーは±標準偏差(SD)を示します。上下図を結ぶ2つの温度スケールの関係は、アレニウス式に基づいています。
注1:気候異常不明の理由:短い時間(数百年以下)の気候異常の検出は困難だからです。気候異常は、化石殻の酸素同位体比により推定される表面海水温から何度変化したかがわかります。化石殻は地層から得られます。地層の堆積は、通常は時間がかかるので、時間分解能に限界があるのです。CO2は長く大気に残るので温暖化は長く続きます。
注2:ガスの発生源:火山ガスから出るSO2やCO2ガスが一般に知られていますが、大陸の大規模火山活動では、直径1000-2000 kmの範囲の数kmの厚さの堆積岩をマグマが貫入して加熱しSO2やCO2ガスが発生します。今回、後者のガス量が55%を占めると見積もりました。
注3:コロネン指数の求め方:世界各地の5大大量絶滅を記録した地層から堆積岩を採取した。堆積岩の表面をカットし、有機溶媒で洗浄し、粉末にする。有機溶媒で堆積岩中の有機分子を抽出し、有機分子のグループごとに有機溶媒により分画し、ガスクロマトグラム質量分析器で測定し、有機分子の種類と量を求めます。それらのうち、コロネンは参考図の化学式の7環の芳香族炭化水素で、より低い温度で生成する5環と6環の芳香族炭化水素とコロネンの量で割った値がコロネン指数です。値が大きいほど平均加熱温度は高くなります。
注4:気温変異の求め方:化石殻の酸素同位体比に基づき表面海水温を求められています。そのデータから表面海水温変異を求め、全球気温変異と陸上気温変異に変換して、参考図の左に示しました。
査読者の評価から見た本研究の意義:本論文で提案された二段階絶滅メカニズム仮説は、既存の研究に対する革新的な貢献です。寒冷化と温暖化の両プロセスを組み合わせることで、主要な絶滅イベントの新たな理解を提示しています。
今後の展望:ペルム紀末の気候異常不明の解明、および、低温加熱または高温加熱に始まり中温加熱で終わる仕組みの解明が期待されます。「大量絶滅学」は地球内部と太陽系の小天体と地球環境と生物が織りなす学祭的学問分野として発展しています。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Mechanisms of global climate change during the five major mass extinctions
著者:Kunio Kaiho
DOI:10.1038/s41598-025-01203-y
<研究に関すること>
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
Email:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
※ [at]を@に置き換えてください