東北大学 大学院理学研究科・理学部

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地球内部の水・マグマをとらえ、地震や火山の仕組みに迫る
――地震波と電気伝導度の統合解析による東北地方の地下イメージング――

発表のポイント

● 地震や火山活動に重要な役割を果たす「地球内部の水・マグマ」の3Dマッピングに成功し、どこにどれだけ存在するのかを、地震、火山、温泉との位置関係とともにイメージングした。

● 東北地方中央部の地下40㎞までの領域では、火山・非火山地域を問わずマグマが深部に広く分布すること、またそのマグマから水が放出され、高い流体圧により地震を誘起していることなど、マグマ―水―地震の関連性がはじめて具体的に明らかとなった。

● マグマや水の分布・圧力のマッピングを広域的に展開することで、火山噴火や地震発生のポテンシャル・中長期評価、ひいては減災への貢献が期待される。

□ 東北大学ウェブサイト

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東北地方中央部の地下イメージング:マグマ、水、地震、火山



概要

東京大学地震研究所の岩森教授らの研究グループは、地震や火山活動に重要な役割を果たす「地球内部の水・マグマ」の3Dマッピングに成功し、マグマ―水―地震の関連性を明らかにしました。

本研究では、東北地方中央部における地震波と電気伝導度の稠密観測および統合解析に基づき、水(ここでは、「地下深部の水溶液流体」の略称として用いる)と玄武岩質マグマ、安山岩質マグマの識別・定量的マッピングに初めて成功しました。これまでの研究は、地震波速度または電気伝導度のいずれか、あるいは両者の定性的組み合わせに基づいていたため、水・マグマの量や種類の推定に大きな不確実性がありました。本研究の統合解析により、地下40㎞までの領域で、これまで推定が難しかった地下の状態(岩質と水・マグマの種類、量比、水・マグマの連結度などの空間分布)をより高い確度でマッピングすることができました。今後、同様のマッピングを広域的に進めることで、火山噴火や地震発生の中長期評価、ひいては減災に役立つことが期待されます。

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図1:東北地方の研究地域と火山・非火山地域



発表内容

地球内部の水・マグマの存在は、地震・火山活動のみならず、プレート運動や長期にわたる大陸の成長など、大規模な変動を引き起こす重要な要因と考えられています。このため、地球内部の水・マグマの存在や量をとらえようと、さまざまな観測や解析が行われてきましたが、個々の手法のみでは不確実性が大きく、したがって地下の水・マグマがどのように地震・火山活動をふくむ変動現象とかかわるのか、具体的な関係性は不明瞭でした。本研究チームでは、地球内部での地震波と電流の伝わり方を同時に解析することで、地球内部の水・マグマの存在をより確実にとらえ、さらに従来は識別・定量できなかった水・マグマの種類・量・連結度などを推定する新しい手法を過去15年間に開発・公表してきました。

本研究では、この新しい手法を東北日本中央部(およそ東西80km、南北50kmの地域)で得られた高解像度の観測データに応用し、地下の構造をイメージングしました。研究地域の西半分は、栗駒火山など6つの活火山を含む火山地域、東半分は2008年岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)の震源を含む非火山性地域です(図1)。これらの地域をカバーする稠密な観測網を設置し、深さ40kmまでの地震波速度と電気伝導度(電流の流れやすさ)の構造を得ました。さらに、得られた地震波速度と電気伝導度を同時に解析し、岩質と水・マグマの種類、量比、水・マグマの連結度などの空間分布推定・マッピングを行いました。

その結果、2008年岩手・宮城内陸地震直下の、深さ10~20kmの領域は水に富む(岩石中に、体積として10%に達する水溶液流体が含まれる)こと、その下の深さ30~40㎞には、火山地域・非火山地域を問わず、玄武岩質と安山岩質のマグマが水平方向に広く分布していることが明らかになりました(図2)。また、これらの水・マグマは浅部から深部まで連結しており、深部でマグマが徐々に冷却され、含まれていた水分が水溶液として放出され、水に富む領域を作っていることもわかりました。これらの分布・構造にもとづき、水の圧力を計算したところ、震源が集中する深さ5~10㎞の領域で、水の圧力が周囲の岩石の圧力を上回り、岩石が破壊しやすい状態、すなわち地震が起こり易い状態にあることが定量的にわかりました。

他の地域でも同様のマッピングを進めることで火山噴火や地震発生の中長期評価、ひいては減災に役立つことが期待されます。

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図2:東北地方中央部の地下に分布する水(水溶液)、玄武岩質マグマ、安山岩質マグマのマッピング



発表者・研究者等情報

東京大学 地震研究所附属日本列島モニタリング研究センター
  岩森 光 教授

東京科学大学総合研研究院
  小川 康雄 名誉教授

東北大学 大学院理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター
  岡田 知己 教授
   兼務:東北大学 災害科学国際研究所
  市來 雅啓 助教
   兼務:東北大学 災害科学国際研究所

富山大学 学術研究部都市デザイン学系
  渡邊 了 教授

産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 深部流体研究グループ
  中村 仁美 上級主任研究員

海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
  桑谷 立 センター長代理



論文情報

雑誌名:Communications Earth & Environment
タイトル:Geofluid mapping reveals the connection between magmas, fluids, and earthquakes
著者名:Hikaru Iwamori*, Yasuo Ogawa, Tomomi Okada, Tohru Watanabe, Hitomi Nakamura, Tatsu Kuwatani, Kenji Nagata, Atsushi Suzuki, Masahiro Ichiki *責任著者
DOI:10.1038/s43247-025-02351-9



研究助成

本研究は、科研費「地殻流体の発生と移動のダイナミクス(課題番号:JP21109006)」、「地殻流体の電磁イメージング(課題番号:JP21109003)」、「地殻流体の実態と島弧ダイナミクスに対する役割の解明(課題番号:JP26109006)」、科学技術振興機構(JST)CREST(助成番号:JPMJCR1761)、および文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次および第3次)」の支援により実施されました。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター[web]
兼務:東北大学 災害科学国際研究所
教授 岡田 知己(おかだ ともみ)
TEL:022-795-3919
Email:okada.t[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター[web]
兼務:東北大学 災害科学国際研究所
助教 市來 雅啓(いちき まさひろ)
TEL:022-795-3949
Email:masahiro.ichiki.b5[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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