東北大学 大学院理学研究科・理学部

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光ファイバケーブルを活用した海域・地下構造のイメージング手法を開発
─海域における地震波速度構造の詳細把握の実現─

発表のポイント

● 光ファイバセンシング技術の一つである分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing:DAS)(注1)を用いた地震波探査により、海底下の地下構造の詳細把握が実現しました。

● DASの高密度観測を生かした新手法により、岩手県三陸沖における地震波速度構造の空間的な不均質構造が明らかにできました。

● 本手法は、海底下の構造モニタリングや資源探査、地球科学的な研究の理解への応用が期待されています。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

近年、光ファイバをセンサーとして振動などを捉えるDASが地震観測などに用いられるようになってきました。この技術は、光ファイバ上を数m〜数十mという超高密度の観測点間隔で約100 kmほどの距離まで観測することが可能です。また、海底に設置されている海底光ケーブルでDAS観測を実施することで、海底における地震動の稠密観測を実現することが可能です。海底での地震動の稠密観測は,地震活動のモニタリングや地下構造のイメージングなど,多目的に応用されるようになってきています。

東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの福島駿特任研究員らは、東京大学地震研究所篠原雅尚教授、京都大学防災研究所伊藤喜宏教授と共同で、海底に敷設された光ファイバケーブルを活用した新しい地下構造のイメージング手法を確立しました。広範囲(50-100 km)かつ稠密(約5 m間隔)なデータが取得できることが特長で、得られるDASデータを解析することで、これまでの技術と比べて格段に高い空間分解能で海底下構造を推定できると期待されます。

本研究では、三陸沖に敷設された海底ケーブルを活用したDAS観測により得られた制御震源(注2)を用いた地下構造探査のデータを解析しました。その結果、DASで得られるデータが、海域における地下の構造を詳細に解明する上で有効であることを示すことでき、三陸沖の海域の浅部堆積層内に強い空間的な不均質構造がみられることを明らかにできました。このように地下の地質構造を詳細に把握することができる手法が開発されたことは、地震波の伝播の仕方や地形の成り立ちの理解をはじめとする地球科学的研究のみならず、二酸化炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage :CCS)(注3)などの工学的分野での研究開発にも大きく貢献すると期待されます。

本成果は、5月25日に科学誌Scientific Reportsに掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

海底の下の地面の中で地震波が伝わる速度「地震波速度」を調べることは、海底地形の成り立ちや、地震波の伝播の仕方を理解するためにとても大切です。また、地震波速度構造が詳しく分かると、地下にある資源(たとえばメタンハイドレート、石油、天然ガスなど)を探したり、最近注目されている二酸化炭素を地中に閉じ込めるCCSの安全性を評価したりすることにも役立ちます。

このような海域での調査では、特にP波(注4)の地震波速度の構造を調べることが一般的です。エアガンをはじめとするという地震波を発生させる装置(制御震源)を使い、屈折法地震探査(注5)と呼ばれる方法でP波の地震波速度構造を推定してきました。この方法では、地震波の発信点(波を出す場所)と受信点(波を受け取る場所)の数が多いほど、より細かく地中の構造を調べることができます。

その一方で近年、注目されているのが「DAS」という技術です。これは、光ファイバケーブルを地震のセンサーとして使う方法で、数メートルごとの細かい間隔で、且つ、50kmから100km程度と長い距離にわたって地震による地面の揺れを観測・計測することができます。この稠密な観測が行えるDAS技術を使って屈折法の地震探査を行うと、受信点の数が一気に増えるため、地震波がどのように伝わるかを非常に細かく調べることができるようになります。これによって、これまでの方法では難しかった高解像度の地震波速度構造の把握が期待されていました。



今回の取り組み

この研究では、岩手県の三陸沖に設置されている光ファイバ式の海底地震・津波観測システム(図1-A)において、データ通信に使用されていない光ファイバ(ダークファイバと呼ばれる)を利用したDAS観測を実施しました。さらに、エアガンを使用して、地震波を発生させ、その地震波をDAS技術によって数メートル間隔で観測しました。その結果、エアガンで発生させた地震波が海底下を伝わり、再び海底の観測点に戻ってくる「屈折波」を詳細に記録できることがわかりました(図1-B)。これにより、光ファイバを使ったDAS観測でも、地下の構造を調べるのに必要となる屈折波の情報を観測できるということを確認できました。

さらに、DAS技術によって観測された屈折波の地震波データに対して、屈折法の手法の一つである「τ-sumインバージョン法」という手法を使って、地下のP波速度構造を詳しく調べました。この方法は、屈折波の地震波計の記録から、観測点の真下の地下構造を、詳細に推定できる手法です。ただし、この方法では、観測点直下の構造を推定する手法であるため、稠密な観測点が存在しないと、細かな地震波速度構造の空間変化までは分かりません。しかし、今回のようにDAS技術を使うと、多数の観測点を設置できるため、数百メートルおきに地震波速度構造を推定できます。このようにして、多くのP波速度構造を推定し、それらを光ファイバに沿って並べることで、光ファイバの真下の2次元(深さと横方向)の地下構造を明らかにしました(図2-A)。その結果、地下に3つの層があり、それぞれの層で地震波の速さが変化していることが分かりました(図2-B)。たとえば、最も上の層では地震波の速さ(P波速度)は1.65~1.9 km/sの範囲で、この層の厚さは海岸から25 kmの地点では約250 mですが、沖合85 kmの地点では約1.2 kmまで厚くなっていることがわかりました。また、その下の層では地震波の速さが2.2~3.2 km/sとさらに速く、層の厚さも海岸から50 kmの地点で0.5 kmから1.5 kmへと急に厚くなる部分があることも明らかにしました。

さらにこの研究では、屈折法地震探査に加えて、「反射法地震探査(注5)」もあわせて行いました。そして、DASによって得られたP波速度構造と、反射法から得られた地下構造の断面図を比べてみました(図2-Cと2-D)。反射法地震探査は、地震波速度構造を詳しく調べるのにはあまり向いていませんが、地層の境目のように、地震波速度や密度が急に変わる場所を見つけるのに優れています。この方法では、そういった境目の位置の空間変化を、高い水平分解能(数十メートルから数百メートルの細かさ)で観測することができます。そこで、DASのデータを使って推定された地震波速度の変化(不連続面)が、反射法探査で見つかった反射面とどのくらい一致しているかを比べて、DASで作られた地下構造のモデルがどれだけ正確かを評価しました。その結果、DASのデータから得られた地震波速度構造の変化の位置と、反射法で観測された構造の境目の位置は、よく一致していることがわかりました。つまり、DASを使って作成した地下構造のモデルは、非常に高い分解能を有しており、正確に地層の空間変化をとらえられている、ということが確認できました。


今後の展開

今回の研究では、DAS(分布型音響センシング)という新しい技術を使って、海底の屈折法地震探査を行い、P波の地震波速度構造がどのように空間的に変化しているかを、細かく調べることができました。この方法は、P波速度の高い精度での計測や、地下構造の変化の詳しい把握にとても効果的だということが分かりました。このように詳しくわかった地下の構造は、地震の伝わり方を理解することや地形の成り立ちなどを理解する地球科学の研究に役立つだけでなく、二酸化炭素を地中に閉じ込めるCCS(炭素回収・貯留)といった、環境やエネルギーに関する工学の研究にも応用できると期待できます。


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図1. (A)この図は、本研究で行った制御地震探査の位置を示しています。黒い線は、今回の観測で使用した海底光ファイバケーブルの位置を示しており、青い線はDAS観測を行った範囲を表しています。また、緑の線はエアガンを使って地震波を発生させた海域の範囲を示し、赤い線は、そのデータからP波速度構造を推定した位置を示しています。
(B)この図は、海岸からの距離が26.0kmの地点でDAS観測点によって記録された、地震波形をエアガンとDAS観測点間の距離ごとに並べた波形です。このデータには、8Hzから15Hzの範囲の周波数を通すバンドパスフィルターが適用されており、各観測点の波形は、それぞれの最大振幅で正規化されています。記録からは、DASを使った観測でも、エアガンで発生させた地震波の波形を明瞭に捉えられていることが確認できました。

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図2. (A)の図は、「τ-sumインバージョン法」という方法を使って推定した、地下のP波速度構造を横方向と深さ方向の2次元で表したものです。これは、地震波が地下をどのくらいの速さで伝わるかを示す図で、場所によって速さがどのように変わるのかがわかります。(B)の図は(A)と基本的には同じですが、黒い線が追加されていて、それは各地点の1次元的な速度構造の中で、P波速度の深さ方向の変化が大きいところ、つまり「速度の勾配」が変わるポイントを示しています。具体的には、P波の速度が2.0 km/sや3.5 km/sのあたりで、その変化がはっきり見られます。また、灰色の線はこれらの変化点の分布に多項式を使ってなめらかなカーブとして当てはめたもので、青く塗られた部分はその推定における95%信頼区間の範囲を示しています。(C)の図も(A)や(B)と同じP波速度構造を表していますが、縦軸の表し方が異なっていて、深さではなく往復走時(地震波が往復するのにかかる時間)に変換されています。これによって、反射法探査の結果と比較しやすくなります。(D)の図は、反射法地震探査によって得られた地下の構造の断面図です。

DAS技術によって得られた高密度のデータにより、P波速度構造の空間的な変化をより細かく、正確にとらえることができました。また、DASデータから推定された地下構造の層の境界(速度の急変箇所)と、反射法で観測された反射面との位置がよく一致していることから、DASを用いて作成された地下構造のモデルが非常に高い空間分解能(=どれだけ細かく違いを見分けられるか)を持っていることが確認されました。



謝辞

本研究は、地震及び火山噴火予知のための観測研究計画(文部科学省)(平成31~令和5 年度)、および、科学研究費補助金 (文部科学省)(研究課題 24K22892)の支援を受けて実施されました。



用語説明

注1. 分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing:DAS):光ファイバケーブルに沿ってレーザー光を送り、微小な歪みによって生じる反射光の変化を検出することで、数m間隔で地震動を連続的に計測できる観測技術です。
注2. 制御震源:エアガンなどの地震波を発生させる装置のことです。
注3. 二酸化炭素回収・貯留(CCS: Carbon Capture and Storage:CCS):大気中の CO₂を分離・回収し、地下深部へ圧入して長期的に貯留する地球温暖化対策技術の一つです。
注4. P波:地震の揺れには、地中を伝わる「実体波」と、地表面を伝わる「表面波」があります。実体波はさらに「P波」と「S波」に分類されます。P波は、波の進む方向と同じ向きに振動する縦波で、物質を伸び縮みさせながら伝わっていきます。一方、S波は波の進行方向に対して垂直に振動する横波で、ねじれの動きを伴いながら進みます。表面波は、地表面を伝わっていく波です。私たちが実際に地震の揺れを感じるときは、まずP波によって上下に小刻みに揺れ、その後にS波による横方向の大きな揺れが続きます。
注5. 屈折法地震探査:海中の制御震源から放出され、海中、海底、そして海底下を伝わり、もう一度、海底面に帰ってくる屈折波の情報を利用して、地震波速度構造を推定する探査手法です。震源と観測点間の地震波の到達時間などを解析することで、地下の速度分布を逆算します。
注6. 反射法地震探査:地震波が地下の地層境界などで反射する性質を利用して、その反射時間をもとに地下の構造を高精度に可視化する手法です。



論文情報

タイトル:Enhanced P-wave velocity imaging by marine airgun-source seismic surveys with Distributed Acoustic Sensing
著者:福島駿*、日野亮太、東龍介(東北大学)、篠原雅尚、山田知朗(東京大学地震研究所)、伊藤喜宏(京都大学防災研究所)、山下裕亮(京都大学防災研究所、現 宮崎公立大学)、高野洋輝
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 特任研究員 福島駿
雑誌名:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-01190-0



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター[web]
特任研究員 福島駿(ふくしま しゅん)
Email:shun.fukushima.a1[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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