東北大学 大学院理学研究科・理学部

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遠方銀河の二層円盤構造の同定に初めて成功
幅広い宇宙年代にわたって円盤銀河の発達過程が明らかに

発表のポイント

● ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)(注1)がとらえた大規模観測データを解析し、これまで不可能だった遠方銀河において二層円盤構造(薄い円盤・厚い円盤)を同定することに成功しました。

● 最大114億年にさかのぼる宇宙の様々な年代に存在した111個の銀河を解析した結果、宇宙初期には厚い円盤のみを持つ一層構造の銀河が多く、時が進むにつれて薄い円盤が加わり、二層円盤構造を持つ銀河が増えていく傾向が明らかになりました。さらに、厚い一層円盤構造を持った銀河から、その内側に薄い円盤が形成されることで、二層構造へと進化する過程も明らかになりました。

● 天の川銀河(注2)と同程度の質量を持つ銀河では、一層構造から二層構造への移行が約80億年前に起きたことがわかりました。これは、星の年齢から推定されている天の川銀河における薄い円盤の形成時期とおおよそ一致しています。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

現在の宇宙にある多くの円盤銀河は、若い星からなる薄い円盤と年老いた星からなる厚い円盤の「二層構造」を持っています。しかし、これまでの二層構造の観測は近くの銀河に限られており、その形成過程は天文学上の大きな謎でした。

東北大学大学院理学研究科の津久井崇史研究員を中心とする研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使い、最大100億年前にさかのぼる広範な宇宙年代にわたって存在した44個の銀河で二層構造を同定しました。銀河の過去の姿を直接捉えることで、銀河がまず厚い円盤を形成し、その後、内側に薄い円盤が形成することで二層構造となる進化の道筋が明らかになりました。さらに、薄い円盤の形成時期は、重い銀河ほど早く、星の年齢から推定された私たちの住む天の川銀河とおおよそ一致することが判明しました。本研究を通じて、円盤銀河がどのように形作られてきたか、そして天の川銀河が宇宙の歴史の中で普遍的な形成過程を辿ってきたのか、という問いへの答えに近づくことが期待されます。本研究成果は、英国王立天文学会の学術誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyで、2025年6月26日(英国時間)に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

現在の宇宙に存在する円盤銀河では、若い星からなる薄い円盤と、年老いた星からなる厚い円盤の二層構造が見られます。私たちの住む太陽系は、天の川銀河の薄い円盤に存在しています。しかし、こうした二層構造が銀河において、いつ、どのように形成されたのかはこれまでわかっていませんでした。これらを解明するためには、宇宙の過去に存在した銀河の姿を観測する必要がありますが、これまでの観測では分解能や感度の制約により、遠方銀河において薄い円盤と厚い円盤を分離して調べることが困難でした。



今回の取り組み

オーストラリア国立大学の津久井崇史博士研究員(研究当時。現・東北大学大学院理学研究科 特任研究員)を中心とする国際研究チームは、JWSTの観測データを用いて、円盤を真横から観測できる111個の銀河を対象に星の分布を詳細に解析しました。その結果、遠方の銀河(13億年前から100億年前に相当する44個の銀河(注3))で、薄い円盤と厚い円盤からなる二層構造が存在することを世界で初めて同定しました(図1)。

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図1. 研究チームが発見した、二層円盤構造を持つ銀河(thin and thick disk galaxies)と一層円盤構造の銀河(thick disk only galaxies)の擬似カラー画像。宇宙初期には厚い一層円盤構造を持った銀河が多く、宇宙後期には二層円盤構造を持った銀河が多くなる。右下には銀河の赤方偏移z (大きいほど遠方・過去の宇宙に相当する)(注4)を示している。
Credit: NASA, ESA, CSA, T. Tsukui (Australian National University).


解析の結果、宇宙初期では厚い一層構造を持った銀河が多く、宇宙後期に二層構造を持った円盤が多くなることがわかりました。そして、円盤銀河が、最初に厚い円盤を形成し、その後、その内側に薄い円盤が形成されるという進化の過程を捉えることに成功しました。また、銀河の質量が大きいほど薄い円盤を早く形成する傾向が見られました。特に、天の川銀河と同程度の質量を持つ銀河において形成された薄い円盤の年代は、天の川銀河の星の年齢から推定される薄い円盤の年代(80-90億年前)とおおよそ一致することが確認されました。

円盤進化の物理的理解
観測で初めて明らかになったこの進化過程の物理的背景を探るために、本研究で明らかにした円盤の星の分布構造とアルマ望遠鏡(注5)や超大型望遠鏡VLT(注6)といった地上望遠鏡を用いた過去の研究によって測定された(星の材料となる)ガスの運動を比較しました。すると、これらの観測結果は、次のような形成シナリオと整合的であることがわかってきました。

● 初期宇宙では、ガス量が多く乱流の強い円盤が形成される。
● このような環境下で活発な星形成が起こり、厚い円盤が形成される。
● 星円盤の形成によってガス円盤が安定化し、乱流が次第に減少する。
● 結果として、より薄い円盤が、厚い円盤の内側に形成される。
● 銀河質量が大きいほど、ガスから星への変換効率が高く、薄い円盤の形成が早まる。



今後の展開

本研究のように、JWSTの観測は、"タイムマシン "のように過去の銀河の姿を直接捉えることで、天の川に似た銀河が宇宙の歴史の中でどのように星の円盤を形成・発展させてきたのかを、統計的に明らかにしつつあります。この手法は、天の川銀河や近傍の銀河において、個々の星の年齢・元素量・運動を測定し、形成史を推定・復元する"銀河考古学"と相補的なアプローチです。

本研究では、"タイムマシン的"に昔の銀河の星の分布構造を調べることで、薄い円盤ができ始める年代を明らかにしました。その年代は、天の川銀河内の星の年齢から"考古学的"に推定された薄い円盤の形成開始年代とおおよそ一致しており、両手法の整合性を示す結果となっています。

今後、星の運動や年齢といった物理量の測定が進むことで、近傍銀河の詳細な測定結果との比較がさらに進展すると期待されます。こうした異なる手法の比較を通じて、宇宙初期の円盤銀河から現在の天の川銀河に至るまでの形成過程の定量的な進化像が、より明瞭に描き出されるでしょう。さらに研究が進めば、天の川銀河が典型的な進化を遂げた銀河なのか、それとも生命誕生に適した特殊な進化経路を辿ったのかという根源的な問いに対して、新たな手がかりが得られるかもしれません。



謝辞

本研究は、公益財団法人天文学振興財団の助成を受けたものです。また、2024年6月に東北大学で開催された国際会議「ELT Science in Light of JWST」への参加・発表に伴い、旅費等の支援を受けました。また、ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D) CE170100013 (EdC)からも助成を受けました。



用語説明

注1. ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST):米航空宇宙局(NASA)がハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2022年に運用を開始した宇宙望遠鏡。これまでの望遠鏡と比較し、およそ10倍の空間分解能、100倍の感度の観測が可能となりました。
注2. 天の川銀河:渦巻き円盤銀河。地球が存在する銀河。1000億個以上の恒星が直径10万光年の円盤状に分布している。
注3. 遠方の銀河:光は一定の速度で進むため、遠くの銀河から地球に届く光は過去にその銀河が発していた光です。遠方の銀河を観測することは、遠い距離を光が伝わる時間分、過去の銀河の姿を見ていることに相当します。
注4. 赤方偏移:銀河までの距離を表す際に用いられる指標です。大きいほど、遠方、過去の銀河に相当します。よく用いられる宇宙膨張モデルを用いると(ハッブル定数H0=70km/s/Mpc, Ωm=0.3,ΩΛ=0.7)、光が地球に到達し検出されるまでに走った距離は、赤方偏移zに対して以下のようになります。
 z=0.12  :約13億光年
 z=0.25  :約29億光年
 z=0.5   :約50億光年
 z=1    :約77億光年
 z=2    :約102億光年
 z=3    :約114億光年
ただし、宇宙は光が発せられてから現在に至るまで膨張を続けているため、現在の地球とその銀河との実際の距離はさらに遠くなります。
注5. アルマ望遠鏡:南米チリの標高5,000mの高地に建設され、2011年に科学観測を開始した巨大望遠鏡。日本を含む22の国と地域が協力して運用されています。口径12mのパラボラアンテナ54台と口径7mのパラボラアンテナ12台の、合計66台を結合させることで、1つの巨大な電波望遠鏡を作りだしています。
注6. 超大型望遠鏡VLT:ヨーロッパ南天天文台が南米チリのセロ・パラナル山に建設した4基の有効口径8.1 mの光学赤外線望遠鏡。1998年に最初の望遠鏡が完成。各望遠鏡には3つの焦点があり、全体で12台の観測装置が装備され、さまざまな観測を行っています。南の宇宙の光学観測の最大拠点となっています。



論文情報

タイトル:The emergence of galactic thin and thick discs across cosmic history
著者:Takafumi Tsukui, Emily Wisnioski, Joss Bland-Hawthorn, Ken Freeman
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 特任研究員 津久井崇史
掲載誌:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)
DOI:10.1093/mnras/staf604



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web
特任研究員 津久井 崇史(つくい たかふみ)
Email:t.tsukui[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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