● 2024年能登半島地震発生前の地震データを用いて地殻(注1)応力場(注2)を推定し、能登半島地震の断層面のすべりやすさ評価を行なった。
● これまでに提唱されている複数の断層モデルは能登半島地域の地殻応力場に対してすべりやすい状態を示した。
● 地殻応力場と断層モデルの両方を用いた断層のすべりやすさ評価を日本全域に適用することで地震発生の可能性評価、地震災害の減災への貢献が期待される。
一般的に地殻応力場に対してすべりやすい断層がすべりや内陸型地震(注3)を発生させると考えられています。しかし、地下に存在する流体や既存の古い断層により、応力場に対してすべりにくい形状の断層で約1500万年前に地震が発生した事例が日本海側で確認されています。
東北大学大学院理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センターの田上綾香客員研究者と岡田知己教授、ニュージーランド・ヴィクトリア大学ウェリントンのMartha K. Savage教授らの研究グループは、2024年能登半島地震発生前の地震データを用いて能登半島地域の地殻応力場を推定し、これまで推定された断層モデルに対して応力に基づく、すべりやすさの評価を行いました。その結果、各断層モデルは能登半島地域の地殻応力場に対してすべりやすい状態にあり、2024年能登半島地震は応力場に対してすべりやすい条件で発生した可能性を見出しました。
地震発生前の地殻応力場と断層モデルによりすべりやすいと評価された断層が実際に活動したことから、応力を用いた断層のすべりやすさ評価を日本全域に適用することで、それぞれの断層における地震発生の可能性評価、地震災害の減災への貢献が期待されます。
日本はプレートの沈み込み帯に位置し、世界の中でも地震が頻発する地域です。一般的に2024年能登半島地震のような内陸型地震は地殻応力場に対してすべりやすい断層がすべることで発生すると考えられています。しかし、地下に存在する流体や既存の古い断層は、一般とは異なる断層運動を誘引することがあります。特に日本海側ではおよそ1500万年前の日本海形成時に発達した古い正断層(注4)が現在逆断層(注5)として活動することが確認され、現在の地殻応力場に対してすべりにくい形状の断層が活動する可能性があります。
今回の研究では2024年能登半島地震が応力場に対してどのような状態で活動したかを確認するため、地殻応力場に対する断層のすべりやすさ評価を行ないました。まず、2024年能登半島地震発生前の地震データを統計的な手法で処理し、地震発生前の能登半島地域の地殻応力場の推定を行いました。その結果、本地域では水平圧縮方向が能登半島西部で西北西―東南東、東部で北西―南東方向の逆断層型の地殻応力場が分布していました(図1)。
また、先行研究で提唱された6種類の断層モデルを用いて、推定した地殻応力場に対する断層のすべりやすさ評価を行いました。その結果、各断層モデルは能登半島地域の応力場に対してすべりやすい状態を示し(図2)、2024年能登半島地震は応力場に対してすべりやすいため発生した可能性を見出しました。さらに推定した地殻応力場の確からしさを評価するため、地殻応力場による断層のすべり角(注6)を計算し実際の断層モデルのすべり角と比較を行ないました。計算したすべり角と断層モデルのすべり角の違いはおよそ30°以内であり、今回推定した地殻応力場は2024年能登半島地震を引き起こした応力場として適切であり、断層のすべり方向も応力場で評価可能であると考えられます。
今回の2024年能登半島地震の事例から、地殻応力場に対してすべりやすいと評価された断層が実際に活動したことがわかりました。本評価手法が内陸型地震発生の可能性評価に有用であることが期待できます。
内陸型地震の発生を考える上で地殻応力との関係性を考えることは重要であり、今回の研究のような地殻応力場と断層モデルを用いた断層のすべりやすさ評価を日本全域に適用することでそれぞれの断層の地震発生の可能性評価、地震災害の減災への貢献が期待されます。
図1. 推定した能登半島地域の地殻応力場。左図はメカニズム解(注7)の分布とサブエリアの範囲を示す。地図の色は標高と海底面の深さ、メカニズム解の色と大きさは深さとマグニチュードを示す。右図は本研究で推定した地殻応力場。「All Data 」はこの地域の全データから推定した結果。「West 」は東経137度以西のデータから推定した結果、「East 」は東経137度以東のデータから推定した結果を示す。赤、緑、青の丸はそれぞれ主応力方向(S1>S2>S3)を示す。パステルカラーの赤、緑、青の円は、それぞれS1、S2、S3の誤差を示す。黒線と灰色の扇形は、それぞれ水平圧縮方向の最適値と誤差を示す。
図2. 国土交通省モデルを用いた場合の断層のすべりやすさ評価結果の例。 (A)は推定した地殻応力場「All Data(図1)」の場合、(B)は東部と西部それぞれで地殻応力場を推定した場合のすべりやすさ評価の結果である。断層の色はすべりやすさ評価値(Slip Tendency値)を示し、赤に近づくほどすべりやすい状態となる。断層面上の矢印は傾斜方向を示す。
本研究は東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム及び、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JST SPRING, Grant Number JPMJSP2114)の支援をいただき行われました。
注1. 地殻:地球表面の厚さ数10 kmの岩石層のこと。
注2. 応力場:物体の内部にかかる応力の大きさや向きのこと。
注3. 内陸型地震:プレート運動により陸側のプレート内部に力が加わりひずみが発生する。このひずみを解消する際に発生する地震。
注4. 正断層:上側の岩盤がずり下がる断層運動のこと。鉛直方向の力が水平方向の力よりも大きい場合に発生する。
注5. 逆断層:上側の岩盤がのし上がる断層運動のこと。水平方向の力が鉛直方向の力よりも大きい場合に発生する。
注6. すべり角:上側の岩盤の下側の岩盤に対する相対的なすべり方向のこと。断層の動きを表す。
注7. メカニズム解:地震が発生した際にその断層がどのように動いたか、どのような形状だったかを示すもの。
タイトル:Evaluation of the favorability of faults to slip: the case of the 2024 Noto Peninsula earthquake
著者:Ayaka Tagami*, Tomomi Okada, Martha K. Savage, Calum Chamberlain, Toru Matsuzawa, Ryotaro Fujimura, Kazuya Tateiwa, Keisuke Yoshida, Ryota Takagi, Syuutoku Kimura, Satoshi Hirahara, Taisuke Yamada & Yusaku Ohta
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 客員研究者 田上綾香
掲載誌:Earth, Planets and Space
DOI:10.1186/s40623-025-02235-4
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
附属地震・噴火予知研究観測センター[web]
客員研究者 田上 綾香(たがみ あやか)
Email: ayaka.tagami.e4[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
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