東北大学 大学院理学研究科・理学部

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植物ホルモンの"原料"の新機能を発見!
― 植物の環境ストレス耐性を高める鍵となる中間物質の「第2の顔」 ―

発表のポイント

● 植物の耐塩性や低温耐性に関与する遺伝子の発現を活性化する新たな化学シグナル(注1)を同定しました。

● 「植物ホルモンが作られる途中の分子が、ホルモン本体とは別の重要な役割を担っている」という、従来の常識を覆す発見をしました。

● この仕組みを応用することで、寒さや塩害に強い作物の開発など、持続可能な農業技術の発展につながることが期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

ジャスモン酸類は、植物が寒さや害虫といった様々な環境ストレスから自らの体を守る仕組みの中心的な役割を果たしている植物ホルモンです。

東北大学大学院理学研究科・生命科学研究科の上田 実 教授、西里 祐宇保 大学院生、齋藤 里菜 博士(研究当時)らの研究グループは、そのジャスモン酸類が作られる過程で生じる中間物質が、耐塩性や低温耐性など、これまで知られていなかった独自の生理機能を持つことを明らかにしました。

本成果は、植物のストレス応答制御メカニズムの理解を大きく進展させるものであり、将来的には環境ストレスに強い作物の開発など、持続可能な農業技術への応用が期待されます。

本研究成果は、7月21日(英国標準時)に科学誌Nature Communicationsのオンライン版に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

植物は、寒さや害虫といった様々な環境ストレスに対して、自らの体を守る仕組みを持っています。その中心的な役割を果たすのが「ジャスモン酸類」と呼ばれる植物ホルモンです。ジャスモン酸類は、病害虫への防御反応や傷害応答などに関与する代表的な植物ホルモンとして知られており、その生合成経路や受容体を中心に多くの研究がなされてきました。



今回の取り組み

研究チームは今回、ジャスモン酸類が体内で生成される途中に生じる中間物質「cis-OPDA(シス・オーピーディーエー)」に注目しました。従来は単なる植物ホルモンの原料とされてきたこの物質が、その後の代謝によって生まれる代謝産物(tn-cis-OPDA、4,5-ddh-JA)へと変化し、それらが耐塩性や低温耐性など、植物のストレス応答の一部を独自に制御していることを突き止めました。20年以上前に、cis-OPDAがジャスモン酸類とは異なる活性をもっているという報告がありましたが、その実体には様々な議論があり、はっきりしませんでした。今回の発見は、上記の代謝産物がその化学的実体として働いていることを示しています。これらの代謝産物は、従来のジャスモン酸類受容体を介さずに働く"非正統的な植物化学シグナル"として機能し、植物の耐塩性や低温耐性に関与する遺伝子群を活性化することを明らかにしました。



今後の展開

本研究は、「植物ホルモンが作られる途中の分子が、ホルモン本体とは別の重要な役割を担っている」という、従来の常識を覆す発見です。植物の防御メカニズムが、私たちの想像以上に精緻で多層的であることを示しており、今後の植物生理学的研究における新たなパラダイムの構築につながる可能性があります。

将来的には、この仕組みを応用することで、寒さや塩害に強い作物の開発など、持続可能な農業技術の発展につながることが期待されます。



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図1. 植物ホルモン ジャスモン酸類(JA-Ile)が原料(cis-OPDA)から作られる途中の代謝物が、ホルモン本体とは別の重要な役割を担っている



謝辞

本研究は、科研費 基盤研究(A)(23H00316)および学術変革領域研究(A)「化合物潜在空間」(JP23H04880 and JP23H04883)の支援の下で行われました。「本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。



用語説明

注1. 化学シグナル:植物の生理機能のほとんどは、植物ホルモンを始めとする化学物質で制御されています。これらの化学物質のことを、生体内の信号分子=化学シグナルと呼びます。



論文情報

タイトル:Downstream metabolites of (+)-cis-12-oxo-phytodienoic acid function as noncanonical bioactive jasmonates in Arabidopsis thaliana.
著者:Minoru Ueda*, Rina Saito, Yuho Nishizato#, Tsumugi Kitajima#, and Nobuki Kato
#contributed equally
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 教授 上田 実
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-025-61072-x



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院 理学研究科化学専攻 生命科学研究科 兼担[web]
教授 上田 実(うえだ みのる)
電話:022-795-6553
Email:minoru.ueda.d2[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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