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「静かな銀河」を形作った宇宙初期の激しい合体過程
宇宙初期に見られる「静かな銀河」- 大きな質量を持ち、星形成を終えた銀河 - は多くの研究者の注目を集めています。赤く、死んだ、と形容されるこれらの銀河では星形成の活動が止んでいます。一方で観測結果はこれらの銀河が宇宙の歴史の中で成長を続けてきたことを示しています。星形成を終えた銀河はどのように成長してきたのでしょうか?
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(注1)を用いることで、静かな銀河についてこれまでにない詳細を調べることができるようになりました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線での高解像度の観測によって、120億年以上前の宇宙初期に形成された銀河について詳細を調べることができます。
本研究チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測した画像に対して、銀河の場所ごとのスペクトルエネルギー解析という独自の手法を適用しました。この方法により銀河の中の星質量や星形成活動の分布を明らかにした結果は驚くべきものでした。図1に見られるように静かな銀河は120億年前の宇宙から現在に向かって大きさが5倍も広がっていました。これは静かな銀河の成長はその時点で凍結されるのではなく、その後も構造的に進化したというこれまでの研究を支持するものです。
静かな銀河の中に見られた星形成活動は弱すぎて、銀河の外側での成長を説明するには足りません。静かな銀河の外側の成長は、銀河内の星形成によるものではなく、他の銀河の合体のような現象で進んだことを示しています。さらに重要なことは、この合体の過程が宇宙の年代とともに変化したことが示唆されたことです。図2に模式的に示すように100億年を超える初期の宇宙では似たサイズの銀河どうしの激しい合体が支配的なのに対して、それよりも現在に向かうにつれ、より小さい銀河を取り込む穏やかな過程が支配的になっていることが示唆されました。この変化は100億年を超える宇宙を探査した今回の研究で初めて明らかになったことです。
さらに、静かな銀河の中心領域は初期の宇宙でほぼ形作られていたことが示されました。これらの銀河の中心領域での星の数密度は120億年前から現在にわたって進化が見られません。大質量銀河の中心領域は初期の宇宙で急激に形成され、それ以降は変化が見られないことを示唆します。
これらの結果をまとめると、銀河は星形成が終えた直後に最も小さい形状を持つというシナリオを支持します。星形成を終えた銀河は100億年をこえる時間をかけて質量を増やし大きくなるが、中心では質量は増やさず、周辺に質量を取り込んだということです。その過程は、始めは似た質量同士の激しい銀河の合体で、その後は、小質量の銀河を穏やかに取り込む形で起こったということです。今回の研究は巨大な楕円銀河が多くみられる最も大質量の種族の銀河がどのように形成されてきたかに新しい光をあてる結果です。
本研究成果は、2025年11月26日に「The Astrophysical Journal」に掲載されました。
論文情報
タイトル:Stellar Mass Assembly History of Massive Quiescent Galaxies since z∼4: Insights from Spatially Resolved SED Fitting with JWST Data
著 者:Novan Saputra Haryana, Masayuki Akiyama, Abdurro'uf, Hesti Retno Tri Wulandari, Juan Pablo Alfonzo, Kianhong Lee, Naoki Matsumoto, Ryo Albert Sutanto, Muhammad Nur Ihsan Effendi, Itsna Khoirul Fitriana, Ibnu Nurul Huda, Anton Timur Jaelani, Sultan Hadi Kusuma, Lucky Puspitarini, Dian Puspita Triani
*責任著者 東北大学 大学院理学研究科 Novan Saputra Haryana 大学院生
雑誌名 :The Astrophysical Journal
DOI :10.3847/1538-4357/ae03ad
語句説明
注1. ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡:2021年12月に打ち上げられた口径6.5mの赤外線宇宙望遠鏡。宇宙からの高感度と高解像度の赤外線データは天文学に多くの新しい発見をもたらしている。
図1. それぞれの時代の宇宙で最も重い静かな銀河の画像。縦軸の星質量と横軸のビッグバンからの時間の順に分類されています。上に書いてあるバーは天の川銀河の大きさを示します。宇宙初期の銀河がコンパクトなのに対して、現在に近い銀河ほど大きなサイズを持ちます。ビッグバンから35 億年以降は同じような質量を持っています。
図2. 大質量の静かな銀河の形成シナリオの模式図。星形成の停止のあと、静かでコンパクトな銀河が形成される。このころがサイズの小さい最もコンパクトな状態である。その後、激しい銀河合体を最初に経て、その後周りの小さな銀河を穏やかに取り込みながら、現在の宇宙に見られる大質量の静かな楕円銀河へと進化していくと考えられる。
謝辞
本論文は、東北大学 2025 年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業の支援を受けて公開されました。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web]
大学院生 Novan Haryana
電話:022-795-6511
Email:novan.haryana[at]astr.tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web]
教授 秋山 正幸(あきやま まさゆき)
電話:022-795-6511
Email:akiyama[at]astr.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2025年11月27日