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小惑星べヌーの砂に生命を構成する「糖」が存在―アミノ酸、核酸塩基に並ぶ主要な生命材料分子を検出―
発表のポイント
● NASAの小惑星探査計画「OSIRIS-REx (オサイリスレックス)(注1)」によって小惑星べヌー (Bennu) (注2)から持ち帰った砂を分析しました。
● 核酸のうちRNAを構成するリボース(注3)と、生命代謝の主要なエネルギー源であるグルコースを含む6種類の糖を検出しました。
● 地球外に生命を構成する糖が存在し、地球に降り注いでいたという決定的な証拠が得られました。
概要
小惑星のカケラである隕石からは、生命の材料分子であるアミノ酸、核酸塩基、糖が検出されています。このことから、隕石によって宇宙から地球にもたらされた分子が、生命の材料として使われたという仮説が提案されています。日米の小惑星サンプルリターン計画「はやぶさ2」と「OSIRIS-REx」では、地球物質の混入がない小惑星試料から、核酸(DNAとRNA)の構成分子である核酸塩基とリン酸、タンパク質の構成分子であるアミノ酸の存在を明らかにし、隕石による生命材料分子の供給を裏付けました。しかし、核酸の材料となる分子群のうち糖だけは見つかっていませんでした。
東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授らの研究グループは、炭素質小惑星ベヌー(図1)から持ち帰った小惑星の砂(図2)から、核酸のうちRNAを構成するリボースと、生命代謝の主要なエネルギー源であるグルコースを含む6種類の糖を検出しました(図3)。この結果は、地球外に生命を構成する糖が存在し、地球に降り注いでいたことの決定的な証拠です。また、宇宙におけるグルコースの存在を示した初の証拠となり、宇宙にはこれまで考えられていた以上に生命活動を支える分子が存在することが明らかになりました。
本研究成果は、日本時間2025年12月2日(火)19時公開の科学誌Nature Geoscienceに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
2023年9月、アメリカ航空宇宙局(NASA)が主導する小惑星サンプルリターン計画「OSIRIS-REx」(主任研究者:ダンテ・ローレッタ教授(アリゾナ大学))によって、炭素質B型小惑星(101955)ベヌー(Bennu)から121.6 gの岩石や砂を持ち帰ることに成功しました。OSIRIS-REx チームが2025年1月に出版した論文により、小惑星べヌーには多種類のアミノ酸、全5種の核酸塩基など生命構成分子を含む様々な有機分子が含まれることが明らかになりました。また、日本が主導した「はやぶさ2計画」で小惑星リュウグウから持ち帰った試料の分析でも同様の結果が得られています。一方で、地球物質の混入がない小惑星試料からは、生命システムを支える主要な生体高分子である核酸とタンパク質の材料となる分子群のうち、糖だけが見つかっていない状況でした。
今回の取り組み
東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、角南沙己大学院生、海洋研究開発機構の高野淑識上席研究員、古賀俊貴研究員、平川祐太研究員、北海道大学の大場康弘准教授、九州大学の奈良岡浩教授、帝京大学の三枝大輔准教授らは、OSIRIS-REx を主導するダンテ・ローレッタ教授(アリゾナ大学)、ハラルド・コノリー教授(ローワン大学)、ダニエル・グレイビン博士(NASA)、ジェイソン・ドワーキン博士(NASA)と共に、小惑星べヌーに含まれる糖の分析を進めてきました。2024年6月に603.4 mgの均質化したべヌーの粉末試料の配分を受け、可溶性有機物を抽出し、その中から糖類を精製し、化学処理を行い、分析を実施しました。
その結果、リボースとグルコースを含む6種類の糖が検出されました。リボースは核酸のうちRNAを構成する糖であるため、本研究成果によって、小惑星試料から見つかっていなかった最後の核酸構成分子群が見つかり、小惑星にRNAを構成するすべての分子が存在することが明らかになりました。一方で、DNAを構成するデオキシリボースは検出されず、生命誕生期にはRNAが重要な働きをしたとするRNAワールド仮説を支持する結果となりました。また、グルコースとガラクトースは、宇宙に存在することが初めて明らかになった糖であり、特に、グルコースは生命代謝の主要な原料であるため、宇宙にはこれまで考えられていた以上に生命活動を支える分子が存在することが明らかになりました。
今後の展開
今回の研究成果によって、生命に関連する糖が宇宙に存在することは決定的になりました。しかし、これまでに存在が明らかになったのは小惑星べヌーと2つの隕石に限られます。他の小惑星や彗星などの小天体における存在が明らかになることで、宇宙における糖の普遍性と多様性が明らかになり、原始地球に降り注いだ糖の種類や量の理解にも繋がることが期待できます。OSIRIS-RExの有機物分析チームでは、小惑星べヌーの試料に含まれる様々な有機分子の分析を実施しており、今後の研究やリュウグウ試料、隕石試料との比較で、初期の太陽系で起こった分子の進化や、地球にもたらされた生命関連分子の多様性と起源がより一層明らかになることが期待されます。
図1. OSIRIS-RExがサンプルを採取した小惑星べヌー
Credit: NASA/Goddard/University of Arizona
https://www.flickr.com/photos/gsfc/53141331019/in/album-72177720310727975
図2. 糖が検出されたべヌーの試料
Credit: NASA
図3. 小惑星べヌーから検出された糖
用語説明
注1. OSIRIS-REx(Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security, Regolith Explorer)(オサイリスレックス):アメリカ航空宇宙局(NASA)が主導する小惑星サンプルリターン計画。ベヌー(Bennu)から121.6gの岩石や砂を持ち帰ることに成功した。
OSIRIS-REx計画の情報について
注2. 小惑星べヌー (Bennu)(図1):OSIRIS-REx探査機がサンプルを採取し地球に帰還した直径約500メートルの小惑星。
注3. リボース:核酸のうちRNAを構成する分子の一つであり、糖の一種。宇宙物質からは少数の隕石で見つかっている。
謝辞
本研究はNew Frontier計画を通じてNASAから交付された助成金NNH09ZDA007Oおよび契約NNM10AA11Cに基づく活動を基に実施されました。本研究は、JSPS科研費 JP18H03728, JP22H00165, JP21KK0062の助成および、JAXA/ISASからのサポートを受けて実施されました。本論文は「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。
論文情報
タイトル:Bio-essential sugars in samples from asteroid Bennu
掲載誌:Nature Geoscience
著者:Yoshihiro Furukawa*, Sako Sunami, Yoshinori Takano, Toshiki Koga, Yuta Hirakawa, Yasuhiro Oba, Hiroshi Naraoka, Daisuke Saigusa, Takaaki Yoshikawa, Satoru Tanaka, Daniel P. Glavin, Jason P. Dworkin, Harold C. Connolly, Jr., and Dante S. Lauretta
*責任著者 東北大学大学院理学研究科 准教授 古川善博
DOI:10.1038/s41561-025-01838-6
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
准教授 古川 善博(ふるかわ よしひろ)
TEL:022-795-3453
Email:furukawa[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2025年12月 3日