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桜島火山直下でのマグマ結晶化速度を解明:噴火活動の新たな予測方法を提案
発表のポイント
● 桜島火山南岳において1976年5月に繰り返し発生した爆発的噴火の試料を用い、火道浅部でのマグマの結晶化速度を決定した。
● 結晶の成長速度は、室内実験の結果とほぼ一致することが確認された。一方、結晶が生成(核形成)する速度は、火道の浅部条件では室内実験より少なくとも約80倍以上に加速し、その結果マグマの全体的な結晶化も加速することを見出した。
● 同噴火では、結晶化の進行によってマグマの粘性が上昇し、爆発的な噴火の発生条件が満たされたと考えられる。
● 桜島火山では現在も当時と似た組成のマグマが活動しているため、マグマが火道浅部まで上昇してからの経過時間に応じ、時々刻々と高くなるマグマ粘性を推定し、噴火の発生や噴火様式などの活動予測に役立てられる可能性がある。
概要
東北大学大学院理学研究科地学専攻の博士前期課程学生Aulia Syafitriさん(現インドネシア火山学・地質災害軽減センター)、中村美千彦教授らの研究チームは、京都大学防災研究所との共同研究で、桜島火山の火道浅部まで上昇したマグマの結晶化速度とそれによる粘性上昇速度を明らかにしました(図1)。
今回、研究チームは、1976年5月に桜島南岳で発生した一連の噴火の噴出物を詳細に解析しました。その結果、マグマ中の液部分(石基)(注1)に含まれる結晶の数・大きさ・占める体積の割合が、徐々に増加していたこと(図1)、また結晶の成長速度は、マグマ中のシリコン(Si)の拡散速度で律速(注2)されていることを確かめました。マグマの温度や化学組成の違いによるSiの拡散速度の差を補正した上で(注3)、これまでの室内実験と比較すると、既存の結晶の成長速度については、桜島のケースに近い実効過冷却度(注4)で行われた従来の実験結果と概ね一致することを突き止めました。一方、結晶が新たに生まれる核形成の速度は、マグマが地表近く(圧力40 MPa以下)まで上昇してくると、室内実験より少なくとも約80倍速くなり、その結果、マグマの結晶化速度も加速することがわかりました。さらに、火道浅部のマグマの粘性はこの減圧結晶作用によって上昇し(注5)、爆発的な噴火を発生し得る閾値(注6)に達していたことがわかりました(図2)。
今回の研究により、桜島の地下でマグマがいつ、どの浅さまで上昇してきたかを、山体膨張などの観測によって捉えられれば、地下でのマグマ粘性の上昇をほぼリアルタイムに予測し、噴火の発生や噴火様式の予測ができるようになる可能性があります。
本研究の成果は、2025年11月11日にJournal of Volcanology and Geothermal Research誌にオンライン公開されました。
詳細な説明
日本のような沈み込み帯の深部では、沈み込んだスラブからマントルへのH2Oの付加によって岩石の溶融温度が低下し、中央海嶺やホットスポットなどに比べて低温でH2Oに富んだマグマが発生しています。このようなマグマが地殻内を上昇して圧力が低下すると、マグマ中のH2Oの溶解度が低下して結晶の晶出温度が上がるため、冷却による温度低下を伴わずとも実効的な過冷却状態に置かれます。マグマの結晶化の速度は、既存の結晶が成長する速度と、新たな結晶核が生成する速度とで決定されます。これらの速度は、室内実験から推定されていましたが、天然のマグマで精密に検証された例はありませんでした。また、特に核形成速度は、実験で正確に再現することは困難であることが知られていました。
マグマの粘性が増加すると、爆発的な噴火を起こしやすくなったり、地表に噴出する前に固結してしまったりします。そのため、上昇して来たマグマの結晶化速度を知ることができれば、粘性がどこまで上がっているのかを噴火に先立って予測し、ひいては噴火が起こるかどうか、また噴火が発生するとしたらどのような様式になるかを推定するのに役立ちます。
鹿児島県の桜島火山は世界屈指の活動的火山であり、近年は主としてブルカノ式噴火(突発的な爆発の後に、短時間の噴煙の形成と火砕物の放出を伴う噴火様式)を繰り返しています。本研究では、1976年5月11日の爆発に引き続き、同じマグマから一連に発生したと思われる、5月13日の爆発の軽石と19日の爆発の溶岩片を詳細に解析しました。その結果、マグマに含まれる主要な斑晶鉱物である斜長石の多くは、それぞれに先行する爆発によって破砕しており、その破断面には再成長が見られることを発見しました(図3)。このような再成長部分の厚さと噴火の時間間隔とから、斜長石の成長速度を正確に求めることに成功しました。
さらに、求められた成長速度は、斜長石を構成する主要な元素の中で、最もメルト中の元素拡散が遅い、Siの拡散によって決定されていることを示しました。また、マグマの液部分(石基)に含まれる細かい結晶(マイクロライト・ナノライト)のうち、斑晶の再成長部分の厚さよりも小さい結晶は、先行する爆発に続くマグマの減圧によって核形成したと考えられることを利用し、結晶核生成速度を見積もることに成功しました。
結晶の成長や核形成は、過冷却によって駆動されます。本研究では、斜長石結晶と残液の化学組成などを用いて、岩石学的に各噴火でのマグマの温度や圧力を推定し、実行的な過冷却度を決定しました(図1)。結晶成長の律速過程と過冷却度とを定量的に決定することによって、天然の噴出物と室内実験とを精密に比較することが初めて可能となりました。
ブルカノ式噴火が発生するには、マグマの粘性が上昇して気泡内にガスの圧力が蓄えられ、さらに圧力が一定値を超えるとマグマが千切れて破砕する必要があります(図2)。このような爆発の発生に必要なマグマの粘性は、模擬爆発実験によって提案された理論と、実際の火道の直径などから推定することができます。
補足:災害軽減に関する本研究の可能性と限界
本研究は、マグマが地表付近まで上昇して来てから、どの程度の時間が経過すると、どのような噴火を発生し得るか、さらには粘性が高くなりすぎて噴火できなくなり地下で固結するかという、活動の推移予測に繋がると考えられます。
一方、実際の火山で、室内実験よりもマグマの結晶核形成が速くなる根本的な仕組みは今後解明する必要があり、本研究では、桜島での経験則が見出されたに留まります。今後、その原理を解明することで、マグマの化学組成等が異なる他の火山における噴火にも応用できる可能性があります。
また、火道の深部になるほど、マグマの動きを観測で捉えることは容易ではなくなります。たとえば火道深部でマグマの対流が発生し、新鮮な(結晶の少ない)マグマが再供給されるような場合には、本研究の方法では、マグマの粘性を過剰に見積もる場合もあることなどを考慮する必要があります。
本研究は、活火山を天然の実験室とみなし、噴火日時が正確に記録されている噴出物を物質科学的に解析することでマグマの性質を明らかにし、噴火メカニズムの理解と災害の軽減に貢献できる可能性を示しています。
用語説明
(注1)マグマにはしばしば、マグマ溜まりなどでゆっくり生成した粒の大きな結晶(斑晶)が含まれ、噴出して固まると、斑晶と、液体部分だった石基から構成される斑状組織が生成されます。石基には、マグマの上昇中や噴火時に、比較的急激に生成した細かい結晶(マイクロライトやナノライト)が含まれます。
(注2)結晶成長のように多段階の過程を経て進行する現象では、最も遅い段階(律速段階)が、全体の進行速度を決定します。メルト(マグマの融けた部分)中の、結晶の材料となる成分は、結晶表面で成長に使われ濃度が低下し、周囲の高濃度の部分から運ばれてくる必要があると同時に、成長に使われない成分は、結晶表面から運び出される必要があります。よって、それらの成分の輸送の中で最も遅いものが、結晶成長の律速過程となります。
(注3)実際の噴火と室内での実験条件とでは、一般に温度や圧力などが異なるため、結晶化の速度を比較するためには、律速過程について、その効果を補正する必要があります。
(注4)マグマの結晶化が間に合わず、本来の状態(平衡状態)よりも結晶が少なく液部分が多い状態を過冷却と呼びます。水を含むマグマの圧力が低下した状態では、結晶化の起こる温度が上昇して相対的に冷却されたのと同じ状態になるため、実効的な過冷却状態と呼ばれます。
(注5)マグマは圧力が低下して水の溶解度が低下し脱水すると、粘り気が強くなります(粘性、粘度の上昇)。また結晶化で残液の化学組成が変化すると、固体の結晶粒同士がぶつかる効果も加わり、粘性が上昇します。
(注6)爆発的な噴火が発生するためには、マグマが軽石や火山灰のように粉々になる(破砕する)必要があります。マグマの粘り気が低すぎると、急激に膨張しても引き延ばされるだけで破砕は起こりません。マグマは粘り気が高くなることで、圧力をため込み、また千切れやすくなって爆発が起こるようになります。
謝辞
本研究はJSPS科研費課題番号JP16H06348・JP22H00162、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」および「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の助成・支援を受けたものです。本論文は、東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業の支援を受けて公開されました。
論文情報
雑誌名 :Journal of Volcanology and Geothermal Research
論文タイトル:Rates of plagioclase growth, nanolite nucleation, and viscosity increase during Vulcanian activity of Sakurajima Volcano, Japan
著 者:Aulia Syafitri a 1, Michihiko Nakamura a, Naoki Araya a 2, Mayumi Mujin a 3, Daisuke Miki b, Masato Iguchi b 4
a 東北大学大学院理学研究科地学専攻
b 京都大学防災研究所
現所属:
1 インドネシア火山学・地質災害軽減センター
2 産総研地質調査総合センター
3 北海道大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門
4 鹿児島市危機管理局危機管理課桜島火山防災研究所
DOI :10.1016/j.jvolgeores.2025.108483
図1.1976年5月11~17に桜島南岳で発生した一連の噴火で推定された減圧量と、マグマの液部分の結晶成長・結晶数密度の増加の模式図。火道内の数字は、各噴火日に噴出したマグマが存在していた推定深度を示す。火道上部のマグマから順々に噴出する。
図2.1976年5月に南岳で発生した一連の噴火で見られた、マグマの液部分に存在する微細な結晶量の増加と、それによる粘性の上昇(点線の矢印)および破砕が起こる閾値との関係
図3.1976年5月13日と17日の噴出物に含まれる破砕した斜長石斑晶の電子顕微鏡写真(反射電子像)。破断面には、再成長した部分が見られる。
問い合わせ先
東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 中村 美千彦(なかむら みちひこ)[web]
電話:022-795-7762
Email:michihiko.nakamura.e8[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2025年12月10日