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ガラスはなぜゆれて、なぜこわれ始める?
―分子のゆれから降伏まで、ひとつの理論でつなぐ―
発表のポイント
● ガラスの分子の「ゆれ(分子振動)(注1)」を説明する理論モデルに、力を加えた場合のふるまいを調べました。
● その結果、同じモデルの中で、ガラスがある力の大きさで急にこわれ始める「降伏」も再現できることを示しました。
● 分子レベルの「ゆれ」と「こわれ始め方」を結び付けて考える道筋を示し、ガラスの理解を深めるとともに、将来の材料設計や耐久性評価の基礎になると期待されます。
概要
ガラスは、建材や光学部品、電子デバイスなどに広く使われている重要な材料ですが、その性質には未解明な点が多く残されています。中でも、ガラスをつくる分子特有の「ゆれ(分子振動)」と、ガラスにかける力を強くしていくとあるところで急にこわれ始める「降伏」は、多くのガラスに共通して現れる性質として注目されています。これまで、どちらか一方なら説明できる考え方はありましたが、両方を一つの見方でまとめて説明することは難しいままでした。
東北大学大学院理学研究科の須田誠大学院生らは、これまでガラスの分子振動を説明するために使われてきた理論モデルに着目し、このモデルに力を加えると、降伏が起こることを示しました。今回の成果は、ガラスの分子レベルの「ゆれ」と、「こわれ始め方」のつながりを考える手がかりになります。ガラスという物質状態の理解を深めるだけでなく、将来的にはガラス材料の設計や耐久性評価をより効率よく進めるための基礎になると期待されます。
本成果は2025年12月18日付で学術誌Physical Review Lettersに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
ガラスは、液体の分子がランダムに凍結してしまった状態です。ガラス材料は、建材や光学部品、電子デバイスなど、私たちの身の回りで広く利用されていますが、その性質には未解明な点が多く残されています。特に近年、ガラスの種類によらず現れる性質として、ガラスをつくる分子の一部に集中して起こる「ゆれ(分子振動)」と、ガラスにかける力を強くしていくと急にこわれ始める「降伏」が注目されています。これらの性質は、これまで実験や分子レベルのシミュレーションにより調べられてきました。その一方で、理論的側面においては、どちらか一方の現象を説明できる考え方はありましたが、両方を一つの見方でまとめて説明することは出来ていませんでした。
今回の取り組み
この課題に対し、東北大学大学院理学研究科の須田誠大学院生、アムステルダム大学のEdan Lerner准教授、ワイツマン科学研究所のEran Bouchbinder教授からなる国際共同研究グループは、ガラス特有の分子の「ゆれ(分子振動)」を説明するために使われてきた、連続変数をもつ平均場スピングラスモデル(注2)に着目し、このモデルに力を加えると、ガラスと同様の「降伏」が起こることを示しました(図1)。本研究では、理論モデルに一定の振幅をもつ周期的な力を加え、その振幅の大きさを変えた複数の場合について、モデルのふるまいを比較しました。その結果、外力の振幅が小さい場合には、一周期ごとにモデルが元の状態に戻る可逆的なふるまいが現れ、一方で、振幅がある一定の値を超えると、モデルが同じ状態へ戻らなくなる不可逆的なふるまいへと切り替わることが分かりました。このような、可逆から不可逆なふるまいへの移行は、ガラスがこわれ始める「降伏」の特徴であり、この理論モデルが降伏することを明確に示しています。
今後の展開
本成果により、ガラスの分子レベルの「ゆれ(分子振動)」と、「こわれ始め方」を結び付けて考える道筋が示されました。研究チームは、この理論モデルで降伏が起こるしくみや、熱の影響を受けたときのふるまいも調べています。今後、実験や分子シミュレーションの結果と照らし合わせることで、ガラスという物質状態の理解をさらに深め、将来の材料設計や耐久性評価につながる基盤を築くことが期待されます。
図1. 理論モデルにおける降伏のようす。
(左)加えた力と、構造の安定性の指標であるポテンシャルエネルギーの関係。点線で示された降伏する力の大きさを境に、モデルの構造は不安定化へ向かう。
(右上)繰り返し力を加えたときのサイクル毎変形量。加える力が小さいと、変形量はゼロに収束する。
(右下)加える力が大きいと降伏が起こり、ずっと変形が続く。
謝辞
本研究は、東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム、イスラエル科学財団(ISF Grant No. 403/24)の支援を受けて実施されました。また、本研究の成果の一部は、東北大学サイバーサイエンスセンターの大規模科学計算システム、ワイツマン科学研究所ベン・メイ理論化学計算センターの高性能計算施設を利用して得られました。
用語説明
注1. 分子振動:固体中の分子は、熱や力を受け振動する。分子振動には決まったパターンがあり、一部の分子のみが大きく振動する「局在振動」のパターンはガラス特有。
※参考動画
計算機シミュレーション内で、ガラスの分子が「局在振動」する様子:
https://staff.fnwi.uva.nl/e.lerner/test-compressor.gif
注2. 連続変数をもつ平均場スピングラスモデル:磁性体の理論モデルをもとに、ガラスのふるまいも扱えるように拡張された数理モデル。このモデルは実在のガラスの分子を直接再現するものではないが、ガラスがもつ構造のランダムさや、多数の準安定状態といった特徴を簡潔に表現できる利点がある。
論文情報
タイトル:Yielding and memory in a driven mean-field model of glasses
著者:Makoto Suda, Edan Lerner, Eran Bouchbinder*
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:10.1103/vpmn-sw7n
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
大学院生 須田 誠(すだ まこと)
TEL:022-795-6626
Email:makoto.suda.q4[at]dc.tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
教授 長濱 裕幸(ながはま ひろゆき)
TEL:022-795-7778
Email:hiroyuki.nagahama.c7[at]tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年1月 7日