お知らせ

なじみの群れでは、仲間同士の判断がそろう
-危険が迫る瞬間、メダカ全員の判断が一致する現象-

発表のポイント

● メダカの群れは、迫りくる捕食者を模した映像刺激に対して、「全員がピタッと動きを止める」か、「全員がそのまま泳ぎ続ける」という仲間同士でそろった反応を示す。

● 同じメダカの群れでは、群れ全体が一つの「個性」を持つかのように、映像刺激に対して 同じ反応パターンが繰り返し現れる。

● 一緒に暮らした経験が、仲間同士が全員一致で危険を回避する行動を生み出すうえで不可欠であった。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

ヒトは緊急時、周囲の行動に影響されて一斉に動いたり、逆に固まったりすることがあります。こうした全員が同じ行動を取る「一致した反応」は、ヒトだけの現象ではありません。

東北大学大学院生命科学研究科の竹内秀明教授と国立循環器病研究センターの中畑量平非常勤研究員(研究当時:東北大学大学院生命科学研究科大学院生)は、メダカの群れに迫る捕食者を模した映像刺激を提示し、群れがどのように反応するかを調べました。その結果、1ヶ月間同じ水槽で飼育した群れでは、「全員が泳ぎ続ける」 だけでなく、「全員がピタッと動きを止める(フリーズ)」という危険回避行動がそろって現れました。一方、初対面の個体で構成した群れでは、この「全員フリーズ」という連動した行動は見られませんでした。つまり、仲間と過ごす経験によって、危険な場面で全員が同じ行動を選ぶ「群れとしてのまとまり」が生まれることが明らかになりました。

本研究は、社会的な関係や経験が、群れをつくる動物の危険回避行動にどのように影響し、仲間同士が瞬時に同調する仕組みを理解するための新たな手がかりとなります。

本成果は2025年12月23日にScientific Reports に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

動物が群れをつくる主な理由のひとつは、採餌の効率化や捕食者からの逃避といった、生存上の利点を得るためです。なかでも、捕食者の接近などの危機的な状況では、群れとして瞬時にどの行動を選ぶかが、生き残りに大きく影響します。これまでの研究から、魚類を含む脊椎動物では、一定期間一緒に暮らすことで群れの「まとまり」や情報伝達が高まることが知られていました。私たち人間でも、同じ集団で長く生活するうちに自然と一体感が生まれるように、魚でも群れで生活することで群れごとに安定した行動特性(集団としての「らしさ」)が形成される可能性が考えられていました。

しかし、「『まとまり』を得た群れは、実際に捕食者が迫る危機の瞬間にどの行動を選ぶのか?」「その行動選択に、仲間と過ごした経験がどのように影響するのか?」といった重要な問いには、ほとんど答えがありませんでした。

そこで本研究では、群れ行動研究でも広く用いられる分子遺伝学モデル生物メダカを対象に、長期間一緒に暮らした群れ と 初対面の群れに捕食者の接近を模した映像刺激を提示し、危険時にどのような行動選択が起こるのかを比較しました。


今回の取り組み

本研究では6匹からなるメダカの群れを対象に、捕食者の急接近を模倣した黒い円が急速に拡大する視覚刺激を液晶ディスプレイで提示し、群れがどのように危険回避行動を選択するのかを定量的に解析できる実験系を開発しました。

まず個体レベルでは、視覚刺激に反応して急激に加速し、その後固まったように停止する危機回避行動(フリーズ)を示す反応パターンが観察されました。一方で、視覚刺激に反応せず普段通りに泳ぎ続ける個体も一定数存在しました。

次に、群れの中で視覚刺激後に何匹がフリーズするかを調べたところ、反応は「6匹全員がフリーズする」か 「6匹全員が泳ぎ続ける」かのいずれかに偏り、刺激後の行動選択が二極化することが明らかになりました(図2a)。このような全員一致の集団反応は決して偶然ではなく、周囲の仲間の行動に互いが影響を及ぼし合うことで群れ全体の状態が収束した結果であることが、統計解析から示されました。また、同じ群れで実験を繰り返したところ、刺激後に全員がフリーズする群れと、全員が通常どおり泳ぎ続ける群れが、それぞれ安定して存在していました。このことから、群れごとに固有の行動特性が形成されていることも明らかになりました。

一方、実験直前に寄せ集めた初対面の個体で構成した群れでは、様子が大きく異なりました。これらの群れでは、「全員フリーズ」という同調的な反応が一切現れませんでした(図2b)。さらに、多くの個体は視覚刺激に反応して急激に加速したものの、フリーズには移行せず通常の泳ぎに戻るだけで、群れとしてまとまった危険回避行動は成立しませんでした。これらの結果から、仲間と一緒に暮らす経験が、捕食者接近という緊急事態において、全員が同じ行動を瞬時に選ぶ「同調的な意思決定」を可能にする ことが明らかになりました。

本研究は、群れをつくる動物がどのように仲間の行動を読み取り、瞬時に判断をそろえるのかを理解するための重要な基盤を提供します。さらに、遺伝学モデルであるメダカを用いることで、集団意思決定(注1)の神経基盤や遺伝的制御の解明へと発展することが期待されます。


今後の展開

これまで、マウスなどの実験動物を用いた研究では、捕食者の急接近を模した視覚刺激に対して個体がどのような反応を生み出すのか、その神経メカニズムが詳しく調べられてきました。しかし、複数の個体が集団としてどのように危機回避行動をお互いにそろえるのか、その神経メカニズムはほとんど分かっていませんでした。本研究でメダカの群れが示した「瞬時の同調反応」は、集団レベルの危機回避行動がどのように形成されるのかを解明するための新たなモデル系を提供します。今後、メダカを用いることで、危険が迫る瞬間に群れの行動が同調する仕組みに関わる遺伝子や神経機構が明らかになると期待されます。さらに、メダカで得られた知見とヒトを含む他の動物と比較することで、仲間と同調し、集団としての「まとまり」を生み出す神経機構の進化的起源に光を当てる手がかりにもなります。


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図1. 群れとしての行動特性が創出、全員危機回避には一緒に暮らすことが必要


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図2. 馴染みのある群れでは集団反応が二極化し、初対面の群れでは全体個体フリーズがほとんど出現しないa) 1か月間一緒に暮らした群れのデータ, b) 実験直前に構成した初対面の群れのデータ。青の線は実際の観測データ、赤の線は個体の反応をシャッフルすることで得られたランダム化データ(仮想データ)を示す。馴染みのある群れでは、「全個体フリーズ(6個体)」 と 「全個体非フリーズ(0個体)」 にピークが現れ、集団反応が明確に二極化した。一方、初対面の群れでは、全個体フリーズはほとんど観察されなかった。観測データとランダム化データの分布の差について検定を行った結果、有意な差が認められたことから、観測データの偏りは偶然ではないことが示された。


20260108_qr.png行動実験動画:https://youtu.be/GGLSb5xqYAQ
この動画は水槽の上から撮影したもので、画面の下側には視覚刺激を提示するディスプレイが設置されています。視覚刺激は、動画開始から約10秒後に始まり、さらに10秒ほど続いて終了します。左側の水槽の群れは、刺激が提示されている間もほとんど反応を示さず、通常の行動を続けます。一方、右側の群れは刺激に強く反応して急速に泳ぎ出し、その後は完全に動きを止める様子がみられます。



謝辞

本研究は基礎生物学研究所共同利用研究(10-104、19-347、21-335)の支援を受けて実施されました。また、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI Grant Number JP21H04773、JP20H04925、JP18H02479、JP22H05483、JP23K27205、JP24H01216、JP24K21957)の助成を受けました。さらに、武田科学振興財団研究助成、三菱財団自然科学助成、東北大学高等大学院博士後期課程学生挑戦的研究支援プロジェクト(JPMJSP2114)の支援を受けました。



用語説明

注1. 集団意思決定:複数ある選択肢から集団として1つを選択すること



論文情報

タイトル:Social familiarity shapes collective decision-making in response to looming stimuli in Medaka fish
著者:中畑量平1,2*, 竹内秀明1**
*筆頭責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 中畑量平(現国立循環器病研究センター 非常勤研究員)
**最終責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 教授 竹内秀明
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-30656-4



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科[web]
教授 竹内秀明
TEL: 022-217-6218
Email: hideaki.takeuchi.a8[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか
TEL: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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