お知らせ

スーパーコンピュータ「富岳」で台風の発達期を初めて100m刻みで再現

発表のポイント

● 日本のフラッグシップスーパーコンピュータ「富岳」(注1)を用い、台風が「生まれる前の弱い渦」から「スーパー台風」になる約4日間を、水平100m刻みの超高解像度計算で初めて再現しました。

● 一般的な解像度の計算と比べ、最大強度(台風の中心部分の最低気圧が約920hPa)はほぼ同じですが、超高解像度計算では長く居座るメソ渦(注2)や、1km未満の細かな渦が多数現れ、これらが台風中心付近の空気の流れを乱して急発達の始まりを約1日遅らせることが分かりました。

● 台風が「いつ急に強くなるか」というタイミングを左右する条件が、今回見つかった小さな渦の集まりである可能性を示しました。これは、今後の台風強度予測を改善する上で重要な手がかりとなります。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

台風は日本を含む世界各地で大きな被害をもたらします。どれくらい強くなるか、いつ急に強くなるかといった正確な予測はいまなお難しい課題です。

東北大学大学院理学研究科の伊藤純至准教授、櫻井勇太朗大学院生(研究当時)、Leia P. S. Tonga大学院生、東京大学大気海洋研究所の新野宏特任研究員(東京大学名誉教授)、慶應義塾大学環境情報学部の宮本佳明准教授らの研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」を使って、1つの台風が弱い渦の段階から非常に強い台風になるまでの約4日間を、水平100mの細かさで超高解像度計算をすることに初めて成功しました。これは、今後の台風強度予測を改善する上で重要な手がかりとなります。同じ条件で、現在使われている2km解像度の低解像度計算も実施し、両者を比べました。その結果、最終的な強さ(最低気圧や最大風速)はほぼ同じである一方、台風が急発達するタイミングが大きく異なることが分かりました。低解像度計算の場合はシミュレーション開始から約42時間後に急発達が始まるのに対し、超高解像度計算では約68時間後と、約1日遅れていました。また研究グループは、超高解像度計算ならではの細かな渦の分布や、台風の目の周りにできる半径約10kmのメソ渦を詳しく調べました。その結果、これらの渦が台風中心への空気の流入を妨げ、台風が急に強まり始めるタイミングを遅らせていることを示しました。

本成果は、アメリカ地球物理学連合の学術誌Geophysical Research Lettersに現地時間2026年1月14日に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

台風は日本を含む世界各地で大きな被害をもたらします。しかし、どれくらい強くなるか、いつ急に強くなるかといった強度予測、特に24時間で最大風速が約30ノット以上増加する台風の急発達(Rapid Intensification; RI)(注3)の正確な予測は、いまなお難しい課題です。

その主な理由の1つが、雲の中や海面近くにあるkm以下のスケールの活発な小さな渦(乱流)を、数km解像度の天気予報モデルでは直接表せず、平均的な効果として近似しなければならないことです。この近似の仕方が、台風の強度や発達の予測に関する不確実性の一因になります。


今回の取り組み

研究グループは、気象庁の天気予報に利用されていた非静力学モデル(JMA-NHM)を用い、スーパーコンピュータ「富岳」で水平100m解像度・鉛直60層・水平方向2,000km四方の巨大な計算領域をとり、台風の初期渦から成熟まで約4日間をラージエディシミュレーション(Large Eddy Simulation, LES)(注4)として連続的に再現しました。

発達環境として、2019年の台風19号ハギビスの急発達期を参考にした温度・湿度の鉛直分布を用いました。一方で鉛直シア(注5)や台風の移動はあえて与えず、乱流の役割をできるだけ純粋に評価できる理想化実験としました。同じ条件で水平2kmの低解像度計算も行い、最低気圧・最大風速・最大風速半径などの時間変化を比較しました。

100m解像度の超高解像度計算では、台風の目の壁の周囲に半径約10kmのメソ渦が複数現れ、急発達前の段階にかけて発生と合体・消滅を繰り返す様子が捉えられました。その上空には、反時計回りの回転を伴う強い上昇流からなる「旋回ホットタワー(Vortical hot tower)(注6)」が立ち上がり、その周囲には無数の時計回り・反時計回りの小さな渦が存在していることが分かりました(図1)。

これらの細かな渦は、急発達前に台風中心へ向かう空気の流れを乱し、上昇流の「平均的な強さ」を弱めることで、台風の半径が縮み、急発達の開始を遅らせていると考えられます。低解像度計算では開始後42時間でRIに入ったのに対し、超高解像度計算では68時間と約1日遅れていました(図2)。


今後の展開

今回の計算は、現実の台風19号の環境を参考にしつつも、鉛直シアや台風の移動を含まない理想化実験です。今後は、これらの要素も組み込んだ高解像度シミュレーションを行い、航空機・衛星観測との比較を通じて、より現実に近い台風内部構造と急発達メカニズムの解明を目指します。

また、本研究で得られた4日分の巨大なLESデータは、現在の数値予報モデルに用いられる計算スキームの改良や、機械学習を用いた台風強度予測モデルの訓練データとしての活用も期待されます。


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図1. 地表面付近の鉛直渦度(値の大きさが回転の強さ、符号の正が反時計回り、負が時計回りに対応)の台風の発達期から成熟期までの時間発展


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図2. (左)計算開始から成熟期に至るまでの中心気圧(台風の強度を表す)と(右)超高解像度計算の成熟期における再現された雲の3次元分布



謝辞

本研究は、文部科学省の「富岳成果創出加速プログラム」のもとで実施された課題「防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測」(hp200128、hp210166、hp220167)の一環として実施されました。また、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(JP19K03967、JP22H01295、JP23K22566)、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2319)の支援を受けました。



用語説明

注1. スーパーコンピュータ「富岳」:理化学研究所と富士通が共同開発した日本のフラッグシップスーパーコンピュータ。2020年には世界ランキングで性能1位を獲得した。気象、防災、医療、新素材など幅広い分野の研究に活用されている。
注2. メソ渦:台風の目の壁付近などに現れる、半径数~十数km程度の小さな渦。目の周りに複数並ぶことで「多角形状の目」が見られることもあり、突風や局地的な強い雨の原因となる。今回の研究では、急発達前の段階でこれらのメソ渦が台風内部の渦度分布と発達のタイミングを左右していることを示した。
注3. 台風の急発達(Rapid Intensification, RI):台風やハリケーンの最大風速が24時間で約30ノット(毎秒15.4m、1ノットは毎時1,852m)以上増加するような急激な発達。被害の大きな台風の多くが急発達を伴うため、その予測は重要課題となっている。
注4. ラージエディシミュレーション(Large Eddy Simulation, LES):乱流のうち、比較的大きな渦(エディ)を直接計算し、それより小さな渦の効果だけをモデル化して扱う数値計算法。数十~数百m程度の細かい格子が必要で計算コストは高いが、乱流の構造を詳しく再現できる。
注5. 鉛直シア:高度による風向や風速の変化。一般に、鉛直シアが強いと台風の構造が崩れやすく、発達が抑えられることが知られている。本研究では、小さなスケールの渦そのものの影響を明確に調べるため、鉛直シアを与えない理想化した条件で計算を行った。
注6. 旋回ホットタワー(Vortical hot tower):台風の発生期に出現すると言われてきた回転を伴った背の高い積乱雲。今回の100m計算では、高度2km以下にあるメソ渦の上空に、弱いながら反時計回りの回転を伴う柱状の強い上昇流としてみられた。



論文情報

タイトル:Large Eddy Simulation of an Entire Tropical Cyclone from Initial Vortex to Maturity
著者:*J. Ito¹,², Y. Sakurai¹, L. P. S. Tonga¹, H. Niino², Y. Miyamoto³
¹ 東北大学 大学院理学研究科
² 東京大学 大気海洋研究所
³ 慶應義塾大学 環境情報学部
*責任著者 東北大学大学院理学研究科 准教授 伊藤純至
掲載誌:Geophysical Research Letters
DOI:10.1029/2025GL119560



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻[web]
准教授 伊藤 純至(いとう じゅんし)
Email:junshi[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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