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木星を取り囲むプラズマリングの歪みを測定 -従来手法の制約を克服する新しい観測手法を確立-
発表のポイント
● 木星探査機Juno(注1)のデータを解析することで、木星を取り囲むプラズマ(注2)リングの歪みを測定しました。
● 従来手法の制約(注3)を克服する新しい観測手法を確立し、プラズマリングの歪みの方向を正確に決定しました。
● 本研究の成果は、生命存在可能性が議論されている氷衛星の環境を理解することにつながります。
概要
木星の衛星イオ(注4)は、太陽系内で最も火山活動が活発な天体です。イオの大気は二酸化硫黄を主成分とする火山性ガスから成り、宇宙空間へ流出し、イオの公転軌道に沿って濃いリング状の「プラズマトーラス」を形成します。
東北大学大学院理学研究科の佐藤晋之祐 大学院生、土屋史紀 教授を筆頭とするエクス・マルセイユ大学、慶應大学、東北工業大学などの国際研究グループは、NASAが運用する木星探査機「Juno」によって撮影された木星紫外線オーロラの画像データを用いて、木星を取り囲む濃いプラズマトーラスの歪んだ構造を詳細に観測しました。プラズマトーラスの歪みはこれまでにも地上望遠鏡を用いて研究されていましたが、地球と木星の位置関係が制約となり、地上からはリングの一部しか調べることができません。本研究では、木星を周回する探査機を使用することでリングを360度カバーし、歪んだ構造を正確に見出すことに成功しました。本研究成果はプラズマトーラスに関する新たな知見をもたらすだけでなく、プラズマトーラスの内部を公転する氷衛星のプラズマ環境の理解に繋がるものです。
本研究成果は、2026年2月9日に国際科学誌The Planetary Science Journalに公開されました。
詳細な説明
研究の背景
木星の衛星イオは、太陽系内で最も火山活動が活発な天体です。イオの大気は二酸化硫黄を主成分とする火山性ガスから成り、宇宙空間へ流出し、イオの公転軌道に沿って濃いリング状の「プラズマトーラス」を形成します。プラズマトーラスは木星磁気圏における様々な物理現象の駆動源であり、またエウロパ(注5)やガニメデ(注5)といった氷衛星の環境と接続しているため、プラズマトーラスの空間構造を理解することは重要です。プラズマトーラスは高速(約10時間周期)で回転しており真円の形状になることが期待されます。しかし、木星のまわりに存在する朝夕電場が与える電磁力によって、プラズマトーラスは真円ではなく歪んだ形状を維持していることが知られています。高い空間解像度をもつ地上望遠鏡の観測(注6)などによってプラズマトーラスの歪み量が調査されてきましたが、歪みの向きに関しては地球と木星の位置関係が制約となり木星の朝(6時)-夕(18時)方向を仮定せざるを得ず、歪みの真の向きについては不確定のままでした。そこで本研究では、木星探査機「Juno」の観測データを用いることで、制約なくプラズマトーラスの歪みの真の向きを決定することを試みました。
今回の取り組み
本研究では、2016年から2022年までに木星探査機「Juno」に搭載された紫外線分光装置「Juno-UVS」によって取得された木星紫外線オーロラの画像データセットを用いて、イオフットプリントオーロラ(図1)の位置を測定しました。イオとプラズマトーラスの衝突によって生まれたアルヴェン波と呼ばれるエネルギー塊が磁力線に沿って伝播し、最終的に木星大気に電子を注入することでフットプリントオーロラが発光します。イオプリントオーロラが出現する位置(=リード角、図1)は、プラズマトーラスの質量(=フラックスチューブ質量柱密度)に依存することが知られています(図2)。
観測に加え、研究チームではJunoによって測定されたイオフットプリントオーロラの位置をシミュレーションによって再現し、測定結果と最もよく一致するフラックスチューブ質量柱密度を算出しました(図3)。フラックスチューブ質量柱密度は、プラズマトーラスが真円ならば常に一定量になることが期待されます。しかし、プラズマトーラスが歪んでいる場合、フラックスチューブ質量柱密度はその歪みに沿って変化します。このことから、フラックスチューブ質量柱密度の変化を長期間に渡って観測し、データを統計的に解析することで、プラズマトーラスの歪みの向きと歪み量を同時に算出することが可能です。またこの手法では、地上望遠鏡観測とは異なりプラズマトーラスを360度カバーしているため、歪みの真の向きを制約なしに決定することが可能です。
解析の結果、フラックスチューブ質量柱密度が地方時3時42分に最大となり、15時42分に最小になることがわかりました(図3)。これは、プラズマトーラスが地方時3時42分-15時42分方向(決定誤差±53分)に歪んでいることを示しています。また、歪みの原因である朝夕電場が与える電磁力も同様の方向に働くことを確かめました。さらに、先行研究と比較すると、歪みの方向は常に一定ではなく長い時間をかけて変化していることを示しました。
今後の展開
プラズマトーラスは木星系の様々な現象の駆動源です。そのため、プラズマトーラスの空間構造を理解することは木星に関する研究の重要な基盤になります。本研究が確立したフラックスチューブ質量柱密度の計測方法は、従来手法の制約を克服し、プラズマトーラスの空間構造に新たな知見をもたらしました。また、イオだけでなく、エウロパやガニメデといった氷衛星を取り巻くプラズマ環境を連続的に観測することを可能とし、氷衛星の大気や表面がプラズマによってどのような影響を受けているのか理解することに繋がります。本研究成果を日本の惑星観測用宇宙望遠鏡衛星「ひさき(注7)」の観測データなどと組み合わせることで、プラズマトーラスの変動が詳細に明らかになることが期待されます。
図1. Juno-UVS装置によって撮影された木星の南半球における紫外線オーロラの様子。イオの「オーロラフットプリント」は「磁気フットプリント(=衛星の真の位置を表す)」に対して経度方向にずれており、その経度差を「リード角」と呼ぶ。本研究では、このリード角を測定した。
図2. フラックスチューブ質量柱密度と、アルヴェン波の伝播速度を表した模式図。質量柱密度が大きい場合、アルヴェン波の伝播が遅くなるため、フットプリントオーロラのリード角は増加する。本研究ではこの関係に着目し、リード角の長期間観測を用いて、イオプラズマトーラスの変動を検出した。
図3. (a)算出したフラックスチューブ質量柱密度の地方時依存性。フラックスチューブ質量密度は地方時3時42分に最大となり、プラズマシートの歪みの方向と対応している。(b)プラズマトーラスを真上から俯瞰した図。真円を基準とした歪みの向きと量を示している。なお、歪みの量は、見やすさのため実際の大きさの3倍に拡大している。
謝辞
本研究は、科研費課題番号JP24KJ0433、JP22K21344、JP20KK0074の支援により実施されました。
用語説明
注1. Juno:NASAが2011年に打ち上げ、2016年から木星を周回している探査機。紫外線分光装置「Juno-UVS」を含む9つの観測装置が搭載されています。
注2. プラズマ:原子や分子がイオンと電子に電離した状態のこと。
注3. 制約:木星は地球より外側を公転しているため、地上の望遠鏡を用いた通常の観測では木星系の夜側を観測することはできません。
注4. 衛星イオ:ガリレオ衛星と呼ばれる4つの木星衛星のひとつで、最も内側を公転する衛星。木星および他のガリレオ衛星の重力による潮汐によって、衛星の内部が加熱され、多数の活火山が存在しています。
注5. 衛星エウロパとガニメデ:ガリレオ衛星の中でも表面が氷で覆われた氷衛星で、エウロパは2番目に内側、ガニメデは3番目に内側を公転しています。エウロパには生命の存在に必須な三要素(液体の水、エネルギー、有機物)が揃っていると考えられています。
注6. 地上望遠鏡によるプラズマトーラスの観測:世界中の望遠鏡施設がプラズマトーラスの観測を行っています。東北大学でも、ハワイ・マウイ島に設置した望遠鏡を用いて観測を続けています。
(参考)
https://pparc.gp.tohoku.ac.jp/category/research/project/project-t60/t01-t60/
注7. ひさき:宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所が開発し、2013年9月にイプシロンロケット初号機で打ち上げられた科学衛星。2024年末の運用終了まで、惑星の大気やそのまわりの宇宙空間を極端紫外線波長の光を用いて観測しました。
論文情報
タイトル:Dawn-Dusk Asymmetry of the Io Plasma Torus Derived from Io's Auroral Footprints Observed by Juno-UVS
著者:Shinnosuke Satoh*, Vincent Hue, Fuminori Tsuchiya, Shotaro Sakai, Yasumasa Kasaba, Hajime Kita, Masato Kagitani, Alessandro Moirano, Bertrand Bonfond, Hiroaki Misawa, and Rikuto Yasuda
*責任著者 東北大学大学院理学研究科附属惑星プラズマ・大気研究センター大学院生 佐藤晋之祐
掲載誌:The Planetary Science Journal
DOI:10.3847/PSJ/ae3678
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
附属惑星プラズマ・大気研究センター[web]
大学院生 佐藤 晋之祐(さとう しんのすけ)
Email: shinnosuke.satoh[at]pparc.gp.tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科
附属惑星プラズマ・大気研究センター[web]
教授 土屋 史紀(つちや ふみのり)
TEL:022-795-3499
Email:tsuchiya.f[at]tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年2月10日