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爆発的に星が誕生する合体銀河の中心で暴れ出したモンスター
概要
宇宙に存在する銀河のほぼ全てにおいて、その中心には太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが潜んでおり、銀河とブラックホールは互いに影響を及ぼし合いながら成長してきたと考えられています。このことは銀河とブラックホールの「共進化」と呼ばれています。この共進化を理解する鍵として、ブラックホール近傍から噴き出す「超高速アウトフロー(注1)」と呼ばれる風が注目されてきました。しかし、この風がいつごろ発達し、どの時点から銀河の進化に影響を与え始めるのかは、これまで大きな謎でした。
東北大学大学院理学研究科の野田博文准教授、同学際科学フロンティア研究所の山田智史助教、JAXA 宇宙科学研究所の小川翔司研究員らの研究グループは、爆発的に星が誕生する合体銀河の中心で、超巨大ブラックホールが活発化し始めた天体「IRAS 05189-2524」を、X線分光撮像衛星XRISMで観測しました。その結果、XRISMに搭載された最先端のX線分光観測装置により、ブラックホール近傍から光速の約7.5%、10%、14%という異なる速度で飛び出す複数の弾丸状の超高速アウトフローを検出しました(図1)。これらの風が運ぶエネルギーは、銀河全体に広がる低速な分子の風を100倍以上も上回ることが明らかになり、銀河の進化を左右し得る極めて強力な風であることが示されました。本成果は、超巨大ブラックホール近傍から吹き出した風がまさに銀河進化に影響を及ぼし始める直前の段階を捉えた重要な証拠であり、銀河とブラックホールの共進化の理解を大きく前進させるものです。
本研究成果は、米国の学術雑誌「Astrophysical Journal Letters」に11月6日に掲載されました。
図1. 爆発的に星が誕生する合体銀河の中心で活発化し始めた超巨大ブラックホールの想像図(左および右上)。右下は、X線分光撮像衛星XRISMに搭載された軟X線分光装置Resolveによって観測されたX線スペクトル(横軸は天体本来のエネルギーに換算しており、単位はキロ電子ボルト[keV])を示す。ブラックホール近傍から弾丸状に放出された超高速アウトフロー中の水素様およびヘリウム様鉄イオンによる吸収線が、光速の約7.5%(zone 1)、10%(zone 2)、14%(zone 3)という異なる速度に対応して、ドップラー効果により分離して観測されている。(Credit: JAXA)
詳細な説明
研究の背景
宇宙には、数千億個もの星が集まった「銀河」が数多く存在しています。そして現在では、ほぼすべての銀河において、その中心に太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ「超巨大ブラックホール」が存在することが分かっています。銀河とその中心にあるブラックホールは互いに影響を及ぼし合いながら成長してきたと考えられており、このような関係は「共進化」と呼ばれ、現代天文学における重要な研究テーマの一つとなっています。この共進化を理解する鍵を握る天体が、ブラックホールが周囲から大量の物質を飲み込む際に出現する「活動銀河核」です。中でも、特に激しく活動するものは「クエーサー」と呼ばれ、銀河全体を凌駕するほどの強烈な放射を放つことが知られています。さらに一部のクエーサーでは、ブラックホール近傍から光の速さの数十%にも達する超高速の風である「超高速アウトフロー」が吹き出していることが観測されています。この風は、銀河内のガスを加熱し、吹き飛ばすことにより星形成を抑制するなど、銀河の進化に大きな影響を与えた可能性が指摘されています。しかし、超巨大ブラックホールが物質を飲み込み成長していく過程の中で、この風がいつ発生し始め、どの時点から銀河の進化に決定的な影響を与えるのかは、現在も大きな未解決問題として残されています。
今回の取り組み
東北大学大学院理学研究科の野田博文准教授、同学際科学フロンティア研究所の山田智史助教、JAXA 宇宙科学研究所の小川翔司研究員らの研究グループは、爆発的に星が誕生する合体銀河の中心で、超巨大ブラックホールが活発化し始めた段階にあると考えられる天体「IRAS 05189-2524」を観測対象として選定し、2024年8月にX線分光撮像衛星 XRISM による観測を実施しました。 図2に示すように、大きな銀河は過去に銀河同士の合体を経験しているものが多く、特に合体過程にある銀河では、爆発的な星形成が引き起こされると考えられています。さらに、合体銀河の中には大量のガスが存在し、中心の超巨大ブラックホールへ流入することで活動銀河核が現れます。そのエネルギー放出などが要因となって星形成が次第に抑制され、やがてクエーサーが発現します。最終的にはブラックホールの活動も終息し、静かな老成期にある楕円銀河として落ち着いていくと考えられています。IRAS 05189-2524は、こうした銀河と超巨大ブラックホールの進化過程の中で、合体後期における爆発的星形成と活動銀河核が同時に存在する、極めて重要な段階にある天体です。
XRISMによる観測の結果、軟X線分光装置 「Resolve」 は、約7~9キロ電子ボルトのエネルギー帯において、これまでにない複雑なX線スペクトル構造を検出しました(図3)。これは超巨大ブラックホール近傍で生成されたX線が、超高速アウトフローの成分に含まれるプラズマ状態の鉄原子と相互作用しており、結果として吸収線や輝線として観測されたものと解釈されます。詳細な分光解析の結果、ブラックホール近傍から弾丸状の超高速アウトフローが四方八方に放出されており、そのうち少なくとも3つの成分が、光速の約7.5%、10%、14%という異なる視線速度で観測者の方向に分布していることが明らかになりました(図1)。Resolveの高いエネルギー分解能により、これらの弾丸の運動状態や空間分布を詳細に捉えることが可能となり、それぞれが運ぶエネルギーを高い精度で見積もることができました。その結果、これらの超高速アウトフローが持つ総エネルギーは、銀河スケールで観測される分子の低速な風と比較して100倍以上大きいことが判明しました。このエネルギーは、合体銀河で進行している爆発的な星形成活動を抑制するのに十分であると考えられ、超高速アウトフローが銀河進化に強く影響を及ぼす可能性を示しています。さらに、軟X線撮像装置 「Xtend」 による広帯域X線観測(図3)から、IRAS 05189-2524の超巨大ブラックホール近傍から放射されるエネルギーが高いX線と低いX線の強さの比を詳細に調べることができ、ブラックホールが理論的な限界に近い速度で大量の物質を飲み込んでいることが分かりました。ブラックホールへと向かう猛烈な勢いの物質の流れが、強力な弾丸状の超高速アウトフローの生成につながっている可能性が高いと考えられます。
今後の展開
本研究は、銀河合体によって爆発的な星形成が進行し、やがてクエーサーへと進化していく前駆段階において、銀河の進化に強く作用し得る超巨大ブラックホール近傍からの強力な超高速アウトフローを直接捉えた画期的な成果です。その姿はまさに、眠りから目覚めたばかりのモンスターが銀河全体にその存在を轟かせる「雄叫び」を上げた瞬間と言えるでしょう。IRAS 05189-2524では、今後ブラックホールの活動がさらに活発化することで星形成が抑制され、クエーサー段階へと移行していくと予想されます。 今後は、XRISMに加え、さらに大規模なX線マイクロカロリメータを搭載する将来の国際X線天文台「NewAthena」なども計画されており、本研究で着目した合体後期だけでなく、合体の初期段階からクエーサーに至る様々な進化段階において、研究対象が増えていくでしょう。これらを系統的に調査することで、超巨大ブラックホールが銀河の進化に及ぼす影響や、両者の共進化の物理メカニズムがより包括的に解明されていくことが期待されます。
図2. 銀河同士の合体によって引き起こされる進化の過程を示した模式図。合体の後期段階では、銀河全体で爆発的な星形成が進行すると同時に、中心の超巨大ブラックホールが活発化し、活動銀河核として輝く。やがて活動銀河核からの作用で星形成が抑制され、クエーサーの発現を経て、静かな老成期の銀河へと進化していくと考えられている。今回着目したIRAS05189-2524は合体後期の段階にあり、爆発的な星形成と活動銀河核が共存している。(Credit: JAXA)
図3. X線分光撮像衛星XRISMによる観測結果。上段は軟X線撮像装置Xtendで得られた広いエネルギー帯のX線スペクトル(地球から見たエネルギー分布であり、単位はキロ電子ボルト[keV])で、約1.5キロ電子ボルト未満の成分は合体銀河全体からの放射が卓越し、それ以上のエネルギーは中心の活動的な超巨大ブラックホール近傍に由来することが示されている。下段は軟X線分光装置Resolveによる高精度X線スペクトル(天体本来のエネルギー分布に換算しており、単位はキロ電子ボルト[keV])で、ブラックホール近傍から弾丸状に放出された超高速アウトフロー中の水素様およびヘリウム様鉄イオンによる吸収線が、光速の約7.5%(zone 1)、10%(zone 2)、14%(zone 3)に対応する速度ごとに明瞭に分離して検出された。さらに、ブラックホール周囲を取り囲む超高速アウトフローに起因すると考えられる幅の広い輝線も同時に捉えられている。(Credit: JAXA)
用語説明
注1. 超高速アウトフロー:超巨大ブラックホール近傍から銀河の方向に猛スピードで噴き出す風。中心部からの強力なX線の影響で風の中の鉄原子が電離してプラズマ状態になり、そこに入射したX線が光電吸収されることで、ヘリウム様鉄イオン(6.7 keV)や水素様鉄イオン(7.0 keV)による吸収構造が現れる。これが風の速度で光のドップラー効果を受けることにより、より高いエネルギーに吸収構造がシフトするため、風の存在およびその速度を精密に調査できる。
論文情報
タイトル:Discovery of Powerful Multivelocity Ultrafast Outflows in the Starburst Merger Galaxy IRAS 05189-2524 with XRISM
著者:Hirofumi Noda*, Satoshi Yamada, Shoji Ogawa, Kouichi Hagino, Ehud Behar, Omer Reich, Anna Ogorzalek, Laura Brenneman, Yuichi Terashima, Misaki Mizumoto, Francesco Tombesi, Pierpaolo Condò, Alfredo Luminari, Atsushi Tanimoto, Megan E. Eckart, Erin Kara, Takashi Okajima, Yoshihiro Ueda, Yuki Aiso, and Makoto Tashiro
*責任著者 東北大学大学院理学系研究科 天文学専攻 野田 博文(のだ ひろふみ)
掲載誌:Astrophysical Journal Letters
DOI:10.3847/2041-8213/ae14e8
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科天文学専攻[web]
准教授 野田博文(のだひろふみ)
電話:022-795-6535
Email:hirofumi.noda[at]astr.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年2月12日