お知らせ

簡単!カーボンナノチューブを水に分散 二酸化塩素で表面を穏やかに酸化し、高い導電性を維持

研究成果のポイント

● 強酸や界面活性剤を使わず、常温条件下でカーボンナノチューブ(CNT)を水中に安定分散させることに成功

● CNTは、水に溶けにくく凝集しやすいため、実用化には界面活性剤や強酸による処理が必要で、導電性の低下や材料劣化が問題となっていたが、CNTの構造を保ったまま表面のみを酸化し,導電性の低下を最小限に抑制することや界面活性剤フリーで、1週間以上沈殿しない安定な水分散液を実現

● 薬、エネルギー分野など、幅広い応用や環境調和性と実用性を両立させる次世代ナノ材料プロセスの実現に期待

□ 東北大学ウェブサイト



概要

大阪大学先導的学際研究機構の大久保敬教授、板橋勇輝特任講師(常勤)、東北大学学際科学フロンティア研究所•大学院理学研究科の上野裕特任准教授、伊藤隆准教授、福村裕史名誉教授の研究グループは、二酸化塩素※1を用いた新しい表面酸化法を開発し、カーボンナノチューブ(CNT)※2を水中に安定分散させることに成功しました(図1)。

CNTは、極めて高い導電性と機械強度を併せ持つ一次元ナノ材料として、電子デバイスや医療・バイオ分野に至るまで、幅広い応用が期待されています。しかし、水に溶けにくく凝集しやすいため、実用化には界面活性剤や強酸による処理が必要で、これらの方法では導電性の低下や材料劣化が問題となっていました。

本研究では、常温条件下で二酸化塩素を作用させることで、CNT表面にヒドロキシ基やカルボニル基、カルボキシ基などの極性官能基を選択的に導入し、界面活性剤を用いずとも1週間以上沈殿しない安定な水分散を実現しました。さらに、高い導電性を保持しており、界面活性剤処理と同等の電気特性を示します。

本研究成果は、水系プロセスによるCNT材料開発を可能にする環境調和型技術として、科学技術だけでなく産業界など幅広い分野への応用が期待されます。

本研究成果は、英国化学誌「Nanoscale」にオンライン速報版で公開されました。


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図1. 混ぜるだけでカーボンナノチューブが水に分散する


【大久保教授のコメント】
これまでの研究により、二酸化塩素が高い酸化反応能力を有することは知られていました。今回、カーボンナノチューブという化学的に安定な材料を、「室温で混ぜるだけ」という極めて簡便な操作で酸化できたことは、大きな発見です。阪大チームだけでは化学反応の評価にとどまっていましたが、共著者である東北大チームによる材料特性の評価が加わったことで、両者の強みを生かした研究成果となりました。



研究の背景

CNTは、極めて高い導電性と機械強度を併せ持つ一次元ナノ材料として、次世代の電子デバイス、エネルギー変換・貯蔵材料、さらには医療・バイオ分野に至るまで、幅広い応用が期待されています。特に、軽量かつ高性能な材料としての特性は、従来材料では達成が困難であった機能集積や高効率化を可能にする点で大きな注目を集めています。一方で,CNTは炭素のみから構成される疎水性表面を有するため、水中では強いファンデルワールス力により容易に凝集・束化してしまいます。この凝集挙動は、CNT本来の電気的・機械的特性の発現を妨げるだけでなく、インク化やコーティング、成形といった加工プロセスを著しく制限する要因となってきました。

これまで、CNTを水中に分散させる手法として、界面活性剤を用いた物理的分散法や、硝酸・硫酸などの強酸を用いた化学的酸化処理が広く利用されてきました。しかし、界面活性剤はCNT表面に残留しやすく、導電性や界面特性を低下させる問題がありました。また、強酸による酸化処理は分散性向上には有効であるものの、CNTの構造破壊や短尺化を引き起こし、材料性能の劣化や環境負荷の増大といった課題を伴います。

これまで、研究グループでは、二酸化塩素を用いた独自の酸化反応開発に取り組んできました。二酸化塩素は、強い酸化力を有しながらも反応選択性に優れたラジカル性酸化剤であり、適切な条件下では過度な分解や燃焼を引き起こすことなく、炭素-水素結合の選択的な酸化を可能にします。これまでに、メタンなどの低分子有機化合物から、ポリプロピレンをはじめとする高分子有機化合物に至るまで、幅広い基質に対して穏和な条件下で酸化反応を実現してきました。これらの研究を通じて、二酸化塩素が基質の骨格構造を保持したまま表面や反応点のみを制御できる酸化剤であることが明らかとなってきました。この特性は、構造劣化や過酸化が問題となる材料系への応用において特に有効であると考えられます。そこで研究グループは、この二酸化塩素の特異な反応性をカーボンナノチューブに適用することで、CNTの管状構造および電子特性を保持したまま水分散性を付与できるのではないかと着想し、研究を開始しました。



研究の内容

本研究成果は、二酸化塩素水溶液中にCNTを加えて撹拌するだけで、CNT表面を穏やかに酸化し、水中で安定分散させる技術です。二酸化塩素処理により、CNT表面にはアルコール基やカルボン酸基などの極性官能基が導入され、その結果、界面活性剤を用いずとも1週間以上沈殿しない安定な水分散が可能となります(図2)。


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図2. 二酸化塩素の溶液にカーボンナノチューブを入れて室温で撹拌する。
時間が経つと徐々に分散していき、最終的に墨汁のように真っ黒な溶液になる。


二酸化塩素で処理したCNTは、過度な酸化による損傷が抑えられており、電子顕微鏡観察からチューブ状構造が良好に保持されていることが確認されました(図3)。このような構造保持は、CNT本来の電子特性を維持する上で重要です。

実際に得られた分散CNTから作製した薄膜の電気抵抗を評価したところ、コール酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いた分散法と比較しても遜色のない電気特性を示しました。これは、本手法が分散性と導電性を高いレベルで両立していることを示しています。

さらに、CNT表面に導入されたアルコール基やカルボン酸基は、有機合成化学的な反応点として利用可能であり、さまざまな機能性分子を結合させる化学修飾が可能です。このため、本手法は単なる分散技術にとどまらず、CNTに新たな機能を付与するための基盤技術としての展開も期待されます。


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図3. 酸化処理後の透過型電子顕微鏡の像。反応後もチューブ状の構造が維持されている。



本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、CNTを水系プロセスで安全かつ高効率に取り扱うための基盤技術として、学術的のみならず産業的にも大きな波及効果が期待されます。CNTは高機能材料として注目されてきた一方で、その加工性の低さが実用化を制限してきました。本手法は、この根本的課題に対して有効な解決策を提示するものです。 水中に安定分散可能なCNTは、インク化やコーティングといった湿式プロセスへの展開が容易となり、プリンタブルエレクトロニクスやフレキシブルデバイスの開発を大きく加速します。これにより、軽量・柔軟・省資源型の電子デバイス実現に貢献することが期待されます。また、強酸や界面活性剤を使用しないことから、製造工程の簡素化や廃液処理負荷の低減につながり、環境負荷の低い持続可能な材料製造プロセスとしての意義も大きいといえます。

さらに、本研究で得られるCNTは、表面に導入された官能基を起点として多様な化学修飾が可能であり、機能性複合材料、エネルギー貯蔵・変換材料、医薬・バイオ材料など幅広い分野への展開が見込まれます。本研究は、CNTの高性能を最大限に活かしつつ、環境調和性と実用性を両立させる次世代ナノ材料プロセスの実現に向けた、重要な一歩を示すものです。



特記事項

本研究成果は、2026年2月10日に英国科学誌「Nanoscale」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:"Aqueous dispersion of carbon nanotubes by chlorine dioxide oxidation"
著者名:Yuki Itabashi(板橋 勇輝)、Ai Sunami(角南 愛)、Kaoru Maeno(前野 薫)、Hiroshi Ueno(上野 裕)、Takashi Itoh(伊藤 隆)、 Hiroshi Fukumura(福村 裕史)、Kei Ohkubo(大久保 敬)
論文掲載ウェブサイト
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/nr/d5nr05444c

なお、本研究は、科研費挑戦的研究(萌芽)(24K21770)、若手研究(23K13709)の一環として行われました。



用語説明

※1 二酸化塩素:Chlorine Dioxide, ClO₂。塩素と酸素からなる化学物質で、亜塩素酸ソーダや塩素酸ソーダから容易かつ安価に作り出すことができる。強い酸化力を持ちながら反応選択性に優れる。水処理や殺菌分野で広く利用されており、適切な条件下では過度な分解を引き起こさず、表面や反応点を選択的に酸化できる特徴を持つ。本研究では、この特性を活かしてカーボンナノチューブ表面を穏やかに酸化し、水分散性を付与するために用いられている。
※2 カーボンナノチューブ(CNT):Carbon Nanotube。炭素原子が六角形格子状につながり、円筒状に巻かれたナノメートルサイズの材料。非常に高い導電性、機械強度、化学的安定性を併せ持ち、電子デバイス、エネルギー材料、複合材料、医療分野など幅広い応用が期待されている。一方で、疎水性が高く水中で凝集しやすいため、加工性の向上が実用化に向けた重要な課題となっている。



問い合わせ先

<研究に関すること・広報に関すること>
東北大学 学際科学フロンティア研究所[web]
(兼) 東北大学大学院理学研究科化学専攻
特任准教授 上野 裕(うえの ひろし)
TEL:022-795-4353
Email:hiroshi.ueno.d5[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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