お知らせ

メタ分子を用いてマイクロ波のマジックミラー効果を室温で実現 ―新奇キメラ準粒子「磁気カイラルポラリトン」の巨大な人工移動媒質効果が鍵―

発表のポイント

● 磁気カイラルメタ分子(注1)を用いて、マイクロ波の一方向透過(マジックミラー効果)(注2)を室温で実証しました。

● 新奇キメラ準粒子(注3)「磁気カイラルポラリトン」(注4)の巨大な人工移動媒質効果がマジックミラー効果の起源となっています。

● 大きな共振器不要の自己完結型プラットフォームにより、空中でそのまま使う応用が期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

現代社会で情報の処理や通信を支える電子デバイスの機能は、電子に影響を及ぼす物質中の様々な準粒子―粒子のように振舞う量子力学的存在―に由来します。その中でも近年、磁石での準粒子(マグノン)と携帯電話で用いられるマイクロ波など電磁波(光子)が結合したハイブリッド準粒子を介した、マイクロ波の一方向透過(マジックミラー効果)が通信の分野で注目されています。しかしながら、これまでは低温や大型の共振器や複雑な構造を必要とする場合が多く、室温動作、小型化、自由空間での応用には課題がありました。

東北大学大学院理学研究科の三田健太郎大学院生、同大学高度教養教育・学生支援機構の児玉俊之特任助教(高等研究機構兼務、JST創発研究者)と冨田知志准教授(大学院理学研究科兼務)らは、京都大学大学院工学研究科の中西俊博講師、京都工芸繊維大学電気電子工学系の上田哲也教授、山形大学理工学研究科の千葉貴裕准教授(東北大学大学院工学研究科兼務)らとの共同研究により、コンパクトな磁気カイラルメタ分子を設計・作製しました。この単一メタ分子のマイクロ波透過測定で一方向透過を室温で観測し、新奇キメラ準粒子「磁気カイラルポラリトン」の巨大な人工移動媒質が鍵を握っていることを明らかにしました。

本成果は3月16日、米国物理学会の学術誌Physical Review Bの速報版(Letter)に掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

現代社会で情報の処理や通信を支える電子デバイスの機能は、電子に影響を及ぼす物質中の様々な準粒子(粒子のように振舞う量子力学的存在)に由来します。その中でも近年は、マグノンが携帯電話で用いられるマイクロ波光子と結合した複合準粒子を介した、マイクロ波の一方向透過が通信の分野で注目されています。しかしながら、これまでは低温や大型の共振器や複雑な構造を必要とする場合が多く、室温動作、小型化、自由空間での応用には課題がありました。今回我々は複数の人工構造(メタ原子)を組み合わせて構築した、メタ分子を用いてこの課題を解決しました。


今回の取り組み

イットリウム鉄ガーネット(YIG)磁性体の円柱を、銅のらせん構造に組み込んだコンパクトな磁気カイラルメタ分子を設計・作製しました。単一メタ分子のサイズや配向を工夫したマイクロ波透過測定により、外部磁場の印加下で、上から伝搬するマイクロ波は透過し、下から伝搬するマイクロ波は透過しない顕著な非相反応答が実験的に室温で観測されました。

数値シミュレーションおよび解析の結果、この現象はYIGでのマグノンと銅らせん構造でのマイクロ波光子の超強結合によって形成される、新奇ハイブリッド(キメラ)準粒子「磁気カイラルポラリトン」に起因することが分かりました。特に、らせん構造に由来する光学活性とYIGに由来する磁気光学効果が組み合わさることで、磁気カイラルポラリトンの巨大な人工移動媒質効果が生じ、一方向透過を生み出していることを解明しました。例えばマイクロ波が透過するという実験結果は、マイクロ波の伝搬方向に磁気カイラルポラリトンが光の速さに近いスピードで動いていると考えると、説明できます。つまり準粒子である磁気カイラルポラリトンが、実際は動いていないにも関わらず、あたかも動いているかのように見なせることが、マイクロ波の一方向透過に繋がっていることが明らかになりました。


今後の展開

従来の非相反マイクロ波デバイスは大型の金属共振器を必要とする場合が多いのに対し、本研究で実証したメタ分子はコンパクトな自己完結型プラットフォームであり、単体で室温動作し、空中でそのまま使用する自由空間への展開が可能です。この特長により、メタ分子を配列することで、「光に対するローレンツ力」(注5)を及ぼす有効的な磁場(人工ゲージ場)を実現できる可能性があります。本成果は、非相反フォトニクスや電磁メタマテリアルの研究を前進させるとともに、光やマイクロ波に働く人工ローレンツ力の実現、ハイブリッド量子系、新奇なキメラ準粒子の創出などへの展開が期待されます。


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図1. 磁気カイラルメタ分子の写真と模式図と実験結果。大きく分裂した磁気カイラルポラリトンで表裏の透過率が異なること、つまり赤と青の線があることが、マイクロ波の一方向透過(マジックミラー効果)を示している。



謝辞

本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金(JP24H02232「キメラ準粒子」、JP23K13621、JP 22K14591)と科学技術振興機構のCREST(JPMJCR2102)と創発的研究支援事業(JPMJFR246R)の支援を受けて行われました。



用語説明

注1. メタ分子:天然物質では困難な物性を実現することができる人工構造物質。
注2. 一方向透過(マジックミラー効果):表から見た場合と裏から見た場合で、物質の透過率や屈折率が著しく異なる現象。
注3. 準粒子:物質中で粒子のように振舞い、電子に影響を及ぼす量子力学的存在。このほかにも、光子、マグノン、ポラリトン、プラズモン、スキルミオン、フェロンなどの(複合)準粒子が知られている。
注4. 磁気カイラルポラリトン:磁石の中の電子のスピンの波(マグノンと呼ばれる準粒子)が、銅らせん構造でのマイクロ波光子と結合した状態(ポラリトン)の複合準粒子。
注5. 光に対するローレンツ力:磁気カイラルメタマテリアルなど物質中で、電磁波に対してあたかも磁場が存在し、ローレンツ力が働いているかのような効果が期待されること。



論文情報

タイトル:Microwave one-way transparency by large synthetic motion of magnetochiral polaritons in metamolecules
著者名:Kentaro Mita, Toshiyuki Kodama, Toshihiro Nakanishi, Tetsuya Ueda, Kei Sawada, Takahiro Chiba, Satoshi Tomita*
*責任著者:東北大学高度教養教育・学生支援機構(兼務:大学院理学研究科物理学専攻) 准教授 冨田知志
掲載誌:Physical Review B
DOI:10.1103/qlg7-ygq8



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学 高度教養教育・学生支援機構 兼務 大学院理学研究科地球物理学専攻
准教授 冨田 知志
TEL:022-795-7667
Email: tomita[at]tohoku.ac.jp

東北大学 教育・学生支援部
学務課 学務企画係
TEL: 022-795-3819
Email: gaku-kikaku[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



東北大学 理学研究科・理学部