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魚類ヒレの多様性を生む新メカニズムを解明 棘条(きょくじょう)の進化は棒状コラーゲンからの解放が鍵だった
発表のポイント
● 魚類のヒレを支える骨の一つである「棘条(きょくじょう)」の形成過程の詳細を世界で初めて細胞・分子レベルで解明。
● 通常の「棘条」は棒状であるが、コバンザメの吸盤やアンコウの釣り竿といった驚くほど多様に変形したものも知られている。
● 「棘条」の形成時には、通常のヒレ骨格で成長をガイドする棒状コラーゲンに依存しないことを、レインボーフィッシュを用いた実験から発見。
● カワハギの「トゲトゲの棘条」を観察し、棘条では棒状コラーゲンによる制約が存在しないことが、多様な形へ進化できた鍵である可能性を示唆。
概要
生き物の骨は、どのようにしてこれほど多様な形に進化してきたのでしょうか。東北大学の宮本知英大学院生と田村宏治教授らは大阪大学・JT生命誌研究館・京都大学・岡山大学・鳥取大学と共同で魚類のヒレにある「棘条(きょくじょう)」と呼ばれる骨格に注目し、その進化のメカニズムに迫りました。棘条はコバンザメの吸盤・アンコウの釣り竿などの驚くほど多様なかたちに進化しています。本研究では、棘条を持つ「レインボーフィッシュ」を新たなモデル生物として解析しました。その結果、通常のヒレ骨格の形成には不可欠な棒状コラーゲンが、棘条の形成には使われていないことを発見しました 。さらにカワハギの「トゲトゲの棘条」を観察した結果、棘条では「棒状コラーゲンを用いないという特徴」により成長方向が制限されず、自由で複雑な形への進化が可能であることが示唆されました。
本研究の成果は、2026年3月25日付で科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
脊椎動物の骨格は形態多様性の優れたモデルです。本研究では魚類のヒレ骨格に注目しました。ヒレを支える骨は2種類に分けられます。このうち一つは、多くの魚種のヒレに見られる「軟条(注1)」です。軟条は柔軟で節があり、棒状コラーゲンをガイドとして成長することが知られていました。もう一つは「棘条(注2)」です。この棘条は硬くて節がなく、一部の魚類において本来のヒレの枠組みを超えた奇抜な形へと進化しています。しかし、棘条の作られ方やなぜ棘条が多様化できるのかはこれまで謎に包まれていました。
今回の取り組み
本研究では、まず初めに棘条と軟条の両方を持つレインボーフィッシュ(Melanotaenia praecox)という熱帯魚を用いて実験を行いました。この魚は飼育しやすく一年中繁殖が可能なため、棘条の作られ方を調べるモデル生物として最適です(図1)。
レインボーフィッシュのヒレでのコラーゲンの分布を詳細に解析したところ、軟条ではこれまで知られていたように棒状コラーゲンが配置されていることがわかりました。一方で棘条の先端には棒状コラーゲンが存在せず、棘条は棒状コラーゲンに依存せずに成長することが明らかになりました。さらに、棘条先端には骨をつくる細胞がキャップ状に集まっているという新たな構造も発見しました(図2)。
今回明らかになった棘条と軟条の違いから、「棘条では骨の成長に棒状コラーゲンが必要ないため、骨を作る細胞の配置を自由に変えて複雑な形を生み出せるのではないか」と考えました。そこで、カワハギ(Stephanolepis cirrhifer)のトゲトゲの棘条(図3)の細胞状態を調べました。その結果、側方にある突起にも先端と同じように骨を作る細胞が存在していることがわかりました。
カワハギの結果から、棘条では骨を作る細胞の分布を変化させることで様々な複雑な形に進化出来た可能性が考えられます(図4)。棘条での骨を作る細胞での分布の自由な変化は、棒状コラーゲンを成長時のガイドとして用いないからこそ可能になったと考えられます。一方軟条では、棒状コラーゲンをガイドとして成長するため、骨を作る細胞を先端以外に配置させにくいと考えられます。以上より、棒状コラーゲンを用いるかの違いが「骨を作る細胞の分布の変えやすさ」に関わり、複雑な形へ進化出来るかに寄与した可能性が示唆されました。
今後の展開
今回の発見は、生き物の形の進化のしやすさに、「コラーゲンといった細胞外基質(注3) (細胞を取り巻く物質)をどう利用するか」が影響する可能性を示唆するものです。形の進化のしやすさに関わる要因として、これまでは「遺伝子重複」や「新たな種類の細胞の登場」などが考えられてきました。本研究ではこれらに加えて「細胞外基質の使い方」が形の進化のしやすさを決める重要な因子であることを新たに提唱しました。これは魚類に限らず、「様々な生き物がどのようにして複雑な形へ変化してきたのか?」というその進化の謎を解き明かす上で非常に重要な知見となります。
謝辞
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 (課題番号 JP21K19202, 21H05768, JP22H02627, 23H04301, 23KJ0206 and 25H01423) の支援を受けて実施されました。本論文は『東北大学2025 年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業』の支援を受け、Open Access となっています。
図
図1 レインボーフィッシュ(成魚)の骨格: 第一背ヒレの全ての骨と第二背ヒレの一番前の骨が棘条になっており、第二背ヒレの2番目以降の骨が全て軟条になっている。
図2 ヒレの骨ができる仕組みの比較(概念図): 軟条(右)は棒状コラーゲンを用いて伸長するが、棘条(左)は棒状コラーゲンを用いずに伸長する。
図3 カワハギ稚魚のトゲトゲの棘条: 頭部の後方に棘条がトゲトゲに変化した構造を持つ。
図4 多様な形態への棘条の進化: 棘条に特有な作られ方を変更することで、様々な複雑な形の棘条が進化した。
用語説明
注1. 軟条(なんじょう):節があり、枝分かれすることもある柔軟なヒレを支える骨。条鰭類に含まれる一般的な魚のほぼ全ての魚種で見られる。
注2. 棘条(きょくじょう):魚のヒレを支える硬い骨。節がなく、棘型類(Acanthomorpha)に含まれる魚種などで見られる。
注3. 細胞外基質:動物組織で細胞と細胞の間を満たす、コラーゲンなどの高分子からなる複合体。
論文情報
タイトル:Actinotrichia-independent developmental mechanisms of spiny rays facilitate the morphological diversification of Acanthomorpha fish fins
著者:宮本知英*、黒田純平、上村了美、笹野泰之、阿部玄武、安齋賢、船山典子、上坂将弘、田村宏治
*責任著者:東北大学生命科学研究科 大学院生 宮本知英
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-69180-y
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学生命科学研究科 動物発生分野、兼担 理学部生物学科[web]
教授 田村 宏治(たむら こうじ)
TEL: 022-795-3489
Email: tam[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL:022-217-6193
Email:lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年3月31日