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金星大気下層に漂う微粒子の起源は流れ星 − 金星大気観測「50年の謎」に新説 −
発表のポイント
● 1970年代の探査機による発見以来、約50年間正体不明だった金星の下層大気に漂う微粒子(下層ヘイズ (注1))の起源が、宇宙塵 (注2)であることを世界で初めて実証しました。
● 独自開発の雲微物理モデル(注3)を用いた解析により、宇宙塵が雲の核として金星全体の雲形成を促進するとともに、長年議論されてきた「未知の紫外線吸収物質(注4)」の供給源である可能性を提示しました。
● 宇宙塵が惑星の気候を形作る不可欠な要素であることは、今後、木星などの外惑星や太陽系外惑星の気候を理解する上でも重要な知見となることが期待されます。
概要
金星の高度約47km以下には「下層ヘイズ」と呼ばれる微粒子の層が存在することが、1970年代の探査機による観測で分かっていました。しかし、この微粒子がどこから来て、何でできているのかという問いは、50年来の未解決問題として残されてきました。
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の狩生宏喜 大学院生(現:東京科学大学 研究員)、黒田剛史 助教、寺田直樹 教授らの研究グループは、ベルギー王立宇宙航空研究所等との国際共同研究により、独自に開発した雲微物理モデルを用いて下層ヘイズ生成のシミュレーションを行いました。その結果、金星大気へ絶えず降り注ぐ宇宙塵が、観測された下層ヘイズの性質を説明できることを突き止めました。
本研究は、宇宙から降り注ぐ微小な塵が、金星の雲の構造や気候を支配する重要な役割を担っていることを明らかにしました。
本成果は、日本時間2026年4月13日18時に、国際学術誌Nature Astronomyに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
地球の双子星とも呼ばれる金星は、厚い二酸化炭素の大気と硫酸の雲に覆われ、地表温度が約460℃にも達する過酷な環境にあります。金星の雲は高度約47~70kmに存在しますが、その下の高度約47km以下の領域にも、微粒子が浮遊していることが過去の探査で判明していました。これは下層ヘイズと呼ばれています。
硫酸の液滴は高温の下層大気では蒸発してしまうため、下層ヘイズの正体は硫酸以外の蒸発しにくい物質であると考えられてきました。火山灰や地表の塵、硫黄の結晶など様々な説が提案されましたが、いずれも観測データを十分に説明できず、その起源は50年もの間、謎に包まれていました。
今回の取り組み
研究グループは、金星の雲形成プロセスをナノメートルサイズの大きさから再現できる独自開発の雲微物理モデルに、新たに宇宙塵の流入プロセスを組み込みました。宇宙塵は地球や金星などの惑星に日々降り注いでおり、高度約110km付近の超高層大気で燃え尽きた後、ナノメートルサイズの微細な鉱物粒子となります。
シミュレーションの結果、上層で発生したこれらの鉱物粒子が硫酸雲に取り込まれゆっくりと下降し、さらに雲の下で硫酸が蒸発した後に大気中に残ることで、下層ヘイズを形成していることが明らかになりました(図1)。この過程で形成される粒子のサイズや分布は、1970年代に探査機ヴェネラ、パイオニア・ヴィーナス(PV)が観測したデータと極めてよく一致しました。また、この下層ヘイズは40km付近で形成された後、再び雲層に輸送されることで雲の核となり、金星における雲生成を20-30%ほど促進する働きがあることを示しました(図2)。
さらに本研究は、この宇宙塵に含まれる鉄などの金属成分が、金星が紫外線を吸収する原因となっている「未知の紫外線吸収物質」の正体である可能性も提唱しました。宇宙塵は燃えかすとなるだけでなく、太陽エネルギーの吸収や雲の生成を通じて、金星の気候システムを構成する重要な要素であるという示唆を与えました。
今後の展開
本研究の成果は、2020年代後半に予定されているNASAの金星探査ミッション「DAVINCI」などによる最新の観測データで検証されることが期待されます。また、同様のプロセスは木星や土星といった巨大ガス惑星や、近年次々と発見されている太陽系外惑星においても起こり得ます。 宇宙からの物質供給が惑星の気候を左右するという新しい視点は、様々な惑星の気候形成を理解する際の重要な要素として位置付けられることが期待されます。
図1. 本研究が明らかにした下層ヘイズの形成メカニズム。上空から降り注いだ宇宙塵が硫酸の雲に取り込まれ、雲底で硫酸が蒸発した後に大気に取り残され合体成長し、下層ヘイズが作られる。
図2. 計算された雲の質量密度分布。実線が本研究の計算結果、点線は過去の探査機パイオニア・ヴィーナス(PV)による観測値。宇宙塵の流入を考慮することで観測結果が精度よく再現された。
謝辞
本研究は環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)、日本学術振興会科研費補助金(JSPS KAKENHI Grant Number: JP22H00164, JP23KJ0201, JP23K25932, JP24K21561, JP25K01051)、JST 創発的研究支援事業(JST FOREST Program Grant Number:JPMJFR212U)の支援を受けて行われました。
用語説明
注1. 下層ヘイズ:金星の主雲層(硫酸の雲)のさらに下、高度約47km以下に存在する微粒子の層。
注2. 宇宙塵:宇宙空間を漂う微小な塵。惑星大気に突入すると圧縮熱で蒸発し、その後に再凝縮してナノメートルサイズの鉱物粒子となる。
注3. 雲微物理モデル:雲や大気微粒子の発生、成長、凝集、蒸発などを高精度に計算できるモデル。
注4. 未知の紫外線吸収物質:金星大気に存在する紫外線を強く吸収している物質。その主原因となる物質については現在も議論が続いており、鉄の化合物や硫黄などが候補として挙げられている。
論文情報
タイトル:A cosmic origin of Venus' lower haze
著者:Hiroki Karyu*, Takeshi Kuroda, Anni Määttänen, Arnaud Mahieux, Sébastien Viscardy, Naoki Terada, Séverine Robert, Ann Carine Vandaele, Michel Crucifix
*責任著者 東北大学大学院理学研究科 大学院生 狩生宏喜(現:東京科学大学 研究員)
掲載誌:Nature Astronomy
DOI:10.1038/s41550-026-02843-4
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻[web]
(現:東京科学大学 研究員)
大学院生 狩生 宏喜(かりゅう ひろき)
電話:03-5734-3414(ELSI事務室)
Email:karyu[at]elsi.jp
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻[web]
助教 黒田 剛史(くろだ たけし)
電話:022-795-6734
Email:tkuroda[at]tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻[web]
教授 寺田 直樹(てらだ なおき)
電話:022-795-6734
Email:teradan[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年4月14日