お知らせ

34億年前の海洋に生物的硫黄代謝の痕跡――太古の浅瀬は生命にとっての"硫黄のオアシス"だった?――

発表のポイント

● 約34億年前の岩石の中に発見した直径0.01mmほどの珍しい多層構造の黄鉄鉱から地球史初期の生命活動の痕跡を見出しました。

● 当時の浅瀬ではこれまで考えられていた以上に硫酸の多い環境が局所的にあり、そこでは硫酸を利用する生態系がすでに成立していたことが分かりました。

● 地球史初期の生命がどのような環境でエネルギーを獲得し生きていたのかを理解する手掛かりとなるだけでなく、その方法論は「地球外生命探査」への応用も期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト


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オーストラリア、約34億年前の堆積岩とその中に見つかる微小な同心円状の黄鉄鉱



概要

東京大学大気海洋研究所の笹木晃平特任研究員および高畑直人助教、千葉大学大学院理学研究院の石田章純准教授、東北大学大学院理学研究科の掛川武教授、名古屋大学大学院環境学研究科の杉谷健一郎教授らからなる研究チームは、約34億年前の岩石から地球史初期の生命が硫酸イオン(SO42-)を使って呼吸していた痕跡を見出しました。本研究で調べたのは、岩石の中にある直径0.01mmより小さい同心円状の黄鉄鉱(FeS2(注1)です。最新の分析装置であるナノスケール二次イオン質量分析計(NanoSIMS) (注2)を用いて、この小さな黄鉄鉱組織の内部における硫黄同位体比(δ34S) (注3)の変動を、世界で初めて高精度に分析することに成功しました。さらにその中の有機物(生物の材料となる炭素を含む物質)の分布や同位体比の特徴を調べると、この黄鉄鉱形成には硫酸で呼吸を行う微生物活動が関わったことが明らかになりました。大気に酸素がほとんど存在しなかった当時、海では一般に主要な栄養源である硫酸イオンも極めて乏しかったと考えられてきました。しかし本研究の分析結果は、太古代の浅瀬環境の一部では硫酸が比較的に多い場所があり、そこが初期生命にとっての「オアシス」になっていた可能性を示しています。本研究成果は、太古代の生命がどんな環境で生き、どんな仕組みでエネルギーを得ていたのかを理解する手掛かりになります。さらに、今後の地球の生命起源研究や古環境復元研究、地球外生命を探す研究にも役立つことが期待されます。



発表内容

太古代(約40-25億年前)における初期生命として、光合成細菌やメタン生成菌 (注4)などに加えて硫黄代謝微生物の存在が主に堆積岩の同位体情報などから推定されてきました。一方で硫黄代謝微生物の生息環境を直接示す地質的証拠は不足しており、"生命必須元素である硫黄を初期生命がどうやってどのような環境で調達していたか"は未解明の問題でした。この度、本研究チームは、オーストラリアのストレリー・プール層という34億年前の浅瀬に堆積した岩石を採取し(図1)、この試料から直径0.01mmほどの同心円状構造をもつ(コロフォーム状)黄鉄鉱を発見しました。通常堆積物などで無機的に形成される黄鉄鉱は立方体で産出するため、コロフォーム状黄鉄鉱は何か別の形成プロセスが窺われました。


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図1:オーストラリア,ピルバラ地域のストレリー・プール層の露頭

西オーストラリアのピルバラ地域に産する約34.3-33.5億年前の堆積岩層で、陸原性砕屑岩、炭酸塩岩、チャート、火山性砕屑岩からなる。本試料は浅瀬の蒸発環境で形成された岩石だと考えられる。蒸発岩に伴う黒色の岩石の中には黄鉄鉱とともに、当時の微生物化石らしき構造も見られる。


研究チームはこの特徴的な構造の中にマイクロスケールの有機物層が挟み込まれていることも発見し、これが微生物活動の痕跡であると推定しました。そこで、従来的な炭素の同位体分析に加え、硫黄代謝の痕跡を記録する硫黄同位体比分析をコロフォーム状黄鉄鉱で行いました。分析にはNanoSIMSを導入し、同心円構造内の硫黄同位体比の変動と有機物分布の対応を0.01mm以下の高分解能で測定しました。その結果、コロフォーム状黄鉄鉱において内部から外部へ20‰以上も変化する系統的な硫黄同位体分布を明らかにしました。さらにその分布の境界に生物由来の炭素同位体比を持つ層状有機物が存在することも初めて明らかにしました(図2)。これらの結果は本研究で発見したコロフォーム状黄鉄鉱がまさに硫酸で呼吸する生物の活動(異化的硫酸還元) (注5)で形成されたことを示しており、34億年前の浅瀬環境に硫酸呼吸を中心としたある種の生態系が築かれていたことを意味しています。


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図2:黄鉄鉱と有機物が連続する同心円構造

直径0.01mm程度の代表的な同心円状(コロフォーム状)黄鉄鉱の電子顕微鏡像とNanoSIMSを用いた硫黄・炭素・ケイ素のイオンマッピング像。硫黄と鉄からなる黄鉄鉱は核とその周囲に多層構造を持ち、その層間には微生物の残骸(=有機物)が炭素の分布として可視化された。


本研究は、酸素が少なかったとされる太古代においても浅瀬への熱水供給と蒸発環境において形成された局所的に硫酸に富む"硫黄のオアシス"に初期生命が息づいていたことを地質試料の微小領域硫黄同位体分析により明示した初めての報告であり、初期地球の元素循環と生命活動の理解が大きく前進しました。本研究により、初期生命が資源制限下でどのように代謝戦略を獲得したのかを解明する手がかりが得られたとともに、将来的な生命起源研究、さらには近年探査機により硫黄を含む有機物の存在が明らかにされた火星における生命探査など、有力な鉱物学的バイオシグネチャーの指標としての応用が期待されます。



発表者・研究者等情報

東京大学 大気海洋研究所
 笹木 晃平 特任研究員(日本学術振興会特別研究員-PD)
 高畑 直人 助教

千葉大学 大学院理学研究院
 石田 章純 准教授

東北大学 大学院理学研究科
 掛川 武 教授

名古屋大学 大学院環境学研究科
 杉谷 健一郎 教授



論文情報

掲載誌:Geochimica et Cosmochimica Acta
題名:Microbial activity preserved in 3.4 Ga colloform pyrite: A micro-scale sulfur isotope analyses
著者名:Kohei Sasaki, Naoto Takahata, Akizumi Ishida, Takeshi Kakegawa, Kenichiro Sugitani
DOI:10.1016/j.gca.2026.03.005



研究助成

本研究は、科研費「太古代生物圏の復元:局所分析を用いた初期生命「代謝」への新アプローチ(課題番号:25KJ0078)」、「革新的バイオマーカー分析を柱としたシアノバクテリア・真核生物出現時期の制約(課題番号:19H02013)」の支援により実施されました。



用語解説

注1. 黄鉄鉱:鉄と硫黄からできた鉱物(FeS2)で、金色に見えることから「愚者の金」とも呼ばれる。微生物の硫黄代謝によって形成されることがあり、過去の生命活動や環境を知る手がかりとなる。
注2. ナノスケール二次イオン質量分析計(NanoSIMS):岩石や鉱物の表面でナノメートルスケールの領域から元素組成や同位体比を高感度・高空間分解能で分析可能な二次イオン質量分析装置。
注3. 硫黄同位体比(δ34S):重さの違う硫黄同位体の割合(=34S/32S比)から標準物質の34S/32S比の差分を取り,それを標準物質の34S/32S比で割り算したものに1000を掛けたもの(=千分率,‰)。標準物質にはVienna-Canyon Diablo Troilite(VCDT)を使用している。微生物活動や化学反応の違いによって値が変化するため、硫黄がどのような過程で利用・生成されたかを知る手がかりとなる。
注4. 光合成細菌やメタン生成菌:光エネルギーを用いて有機物を生産する細菌や、嫌気環境下で二酸化炭素からメタンを生成してエネルギーを獲得する微生物群。
注5. 異化的硫酸還元:微生物が硫酸を電子受容体として用い、有機物を分解しながらエネルギーを獲得する代謝反応。酸素の少ない環境下では酸素の代わりに硫酸を使ってエネルギーを生み出す。



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻[web]
教授 掛川 武(かけがわ たけし)
TEL:022-795-6600
Email:takeshi.kakegawa.a4[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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