お知らせ

恐竜を含む大量絶滅は火山活動と小惑星衝突の一連の事件

発表のポイント

● デカントラップ火山活動(注1)後、または活動中に、チクシュルーブ衝突(注2)が発生し、恐竜などの大量絶滅が起きた。

● 地球の3地域の2種類の水銀同位体比値が衝突時にだけ、火山起源と衝突堆積岩起源の値の間に収束した。

● 世界の絶滅時の堆積岩中の水銀量は、チクシュルーブ衝突場の堆積物から放出される水銀量で説明ができた。

● 恐竜などの大量絶滅の原因が小惑星衝突か火山噴火かの議論が再燃しているが、小惑星衝突が主原因で火山噴火の寄与もあり得ることを示した。



概要

白亜紀末6600万年前の恐竜などの大量絶滅は、インドのデカントラップ火山活動後、または活動中に、メキシコのチクシュルーブ小惑星衝突が起きたことが原因であることが初めてわかりました。海保邦夫名誉教授らの国際研究グループは、絶滅を記録している地層において、大量の水銀の大部分は隕石(小惑星)が衝突した堆積岩からきたこと、衝突直前にマントルの底から上昇してきた大規模マグマの噴出が起きたことを発見しました。さらに、世界の3地域の2種類の水銀同位体比が絶滅を記録している地層でのみ同じ値を示していることから、同一起源の水銀が世界中にばらまかれたことを初めて発見しました。それらの2種類の水銀同位体比の値は、火山起源と泥岩中の石油天然ガス起源の間にあります。衝突場所は、ジュラ紀の生物からできた油田地帯です。絶滅層準の大量の水銀は火山噴火起源、大量のイリジウムは小惑星衝突起源と考えられていたため、恐竜絶滅の原因が小惑星衝突であるか火山噴火であるかの議論が再燃していました。その論争に対し、本論文は、小惑星衝突が主原因で火山噴火の寄与もあり得るという答えを出し、国際誌「Plaeogeography, Plaeoclimatology, Plaeoecology」に5月5日(英国時間)にオープンアクセスで掲載されました。



詳細な説明

研究の背景

恐竜の絶滅の原因として有名な白亜紀末の小惑星衝突クレーターはメキシコのユカタンのチクシュルーブにあります(図1a)。イリジウムという元素は、火山噴火物質よりも小惑星に多く含まれますが、水銀はその逆です。近年、衝突でできたとされるオレンジ色の地層から水銀濃集と火山噴火起源を示す水銀同位体比が報告されたことで、恐竜絶滅の原因として、小惑星衝突か火山噴火かの議論が再燃しています。

海保邦夫名誉教授らの国際研究グループは、チクシュルーブクレーターから当時千キロメートル南にあったハイチの深海堆積岩と1万キロメートル離れていたスペインの半深海堆積岩(図1a)のイリジウム濃集層から水銀の異常濃集(図1b)と火山噴火起源と衝突堆積岩のシェイルガス(泥岩中の石油天然ガス)起源の中間を示す質量保存と質量非保存の水銀同位体比を報告しました(図2)。また、衝突岩からの水銀量を計算し、小惑星衝突と火山噴火の大量絶滅への寄与を評価しました。ハイチの地層では、イリジウムと水銀は厚さ60センチの衝突粗粒噴出物から、その上位の細粒堆積物とオレンジ色の層にかけて同調的に増加しています(図1b,c)。絶滅時の堆積岩中の水銀量の70-100%は、チクシュルーブ衝突場の堆積物から放出される水銀量で説明することができました(火山の寄与も可能)。

また、衝突直前にも水銀濃集が起きたことを発見しました(図1b)。加熱温度指標のコロネン指数は、衝突粗粒噴出物からその上位の細粒堆積物にかけて高く、衝突による高温加熱を示唆しますが、衝突直前の地層のコロネン指数は中間の値でプリューム火山噴火の特徴を示します(図1b)。海保名誉教授は、ヨーロッパとハイチに水銀を撒き散らす大規模プリューム火山噴火は、噴火記録から当時南半球にあったインドのデカンの火山噴火しかないと考えました(図1a)。図1bで示すように黒線の水銀のピークが2度起きています。1度目のピークは地層の厚さ0cmの直下にみられ、右の赤線のコロネン指数はプリューム火山を示します。2度目は78cmのオレンジ色の層で見られ、赤線のイリジウムのピークと同時でコロネン指数とともに隕石衝突を示します。衝突タービダイト(図2)は数日で溜まったと言われています。イリジウムは1-4年で成層圏から落ちます。以上から、デカンの大規模プリューム火山噴火後または噴火中に直径10kmほどの小惑星がメキシコのユカタン半島に衝突したことになります。

水銀はあらゆる時代において火山噴火によって地球表層に供給されてきました。そのため、絶滅層準に見られる水銀の濃集は、デカントラップ火山活動を大量絶滅の有力な原因とする根拠の一つとされてきました。

しかし本論文では、稀にしか起こらない小惑星衝突によって、衝突された堆積岩から大量の水銀が放出されうることを示し、絶滅層準における水銀量を説明できることを明らかにしました。これにより、小惑星衝突が大量絶滅の主因である可能性がより強く支持されます。


本研究の意義と今後の展望

再燃した恐竜絶滅の議論に一定の回答を与えたのが本研究の意義です。火山説の証拠とされていた境界層の水銀の大部分は、衝突によって放出されたと考えられます。今回、2種類の水銀同位体比は、ハイチ、スペイン、フランスの3カ所の衝突層で同じ値に収束していることを発見しました。衝突の前も後もそれらの値は異なりますが、図2の赤い楕円で囲まれた3点のように収束しています。衝突の時だけ、矢印のように収束し、衝突後はばらばらな値になります。このような値の収束は、同じ場所から世界中にばらまかれたことを示しています。そのためには、成層圏に放出される必要があります。太陽光を遮断するすすや硫酸の素の二酸化硫黄ガスが成層圏に放出されると、それらが地球を覆い寒冷化を起こします。今回海保名誉教授らによって発見された2種類の水銀同位体比値の収束は、太陽光遮断―地球寒冷化が本当に起きたことの証拠になります。今後は、他の主要大量絶滅(ビッグファイブ)について、このような水銀同位体比の収束が認められるのかを検証していきます。他の主要大量絶滅の原因は火山噴火ですが、太陽光遮断―地球寒冷化の仕組みは同じですから収束が起きているはずです。


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図1. (a)ハイチ・スペイン・フランスの白亜紀―古第三紀境界層、チクシュルーブ衝突、デカントラップ火山地域の当時の位置、(b)水銀・コロネン・水銀同位体比変動、(c)衝突層のイリジウム量と水銀量の相関と火山噴火の衝突層のイリジウム量と水銀量の相関(ハイチ)。岩相は図2参照。カラバカの岩相柱状図は実際の岩石の色を反映。暗灰色部分は泥岩。


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図2. ハイチ・スペイン・フランスの白亜紀―古第三紀境界層の2種類の水銀同位体比変化。小惑星衝突層で火山と原油・シェイルガスの値の中間域に収束している。赤楕円で囲まれる赤マークの3点が衝突イリジウム濃集層。1-6が時間経過を示す。時間4の「一時的な暗闇」は、Δ¹⁹⁹Hg が0に近いことから推察される。ハイチは衝突地点に近かったので太陽光が塵・すすでほとんど遮断されたためと考えられる。MIFは質量非依存同位体分別:同位体組成の変化が質量差に比例しない(質量依存の法則に従わない)現象。通常の物理・化学プロセス(質量依存)とは異なり、光化学反応やオゾン生成などで見られ、地球外物質や初期地球大気の環境解析に使われる。MDFは質量依存。2種類の水銀同位体比の説明は、論文の補足情報ファイルにある。エラーバーは標準偏差 (± sd)。



論文情報

掲載誌:Plaeogeography, Plaeoclimatology, Plaeoecology
論文タイトル:Dual Hg peaks and isotopic convergence reveal sequential Deccan volcanism and Chicxulub impact at the K-Pg boundary
著者:Kunio Kaiho, Jeroen E. Sonke, Stephen E. Grasby, Akane Yamakawa, Satoshi Takahashi, and Laure Laffont
DOI:10.1016/j.palaeo.2026.113831



用語説明

注1. デカントラップ火山活動:6600万年前の白亜紀―古第三紀境界を跨いで100万年ぐらい活動したインド亜大陸の大規模火山活動。直径約1000km内の火山噴出岩の体積は、他の主要大量絶滅を起こした火山活動の半分ぐらい、3分の2は絶滅後に噴出した。厚さ約3kmの玄武岩溶岩を主体とするが酸性火山岩(流紋岩質)や火山灰層や古土壌を挟む。何度も流れ出た溶岩が冷えて固まり積み重なった玄武岩溶岩が階段状に見えることから階段を意味するTraps(トラップ)と呼ばれている。最大の大量絶滅を起こしたと考えられるシベリアトラップ火山活動も同様の語源である。デカントラップ火山活動は、チクシュルーブ衝突と並んで、白亜紀―古第三紀境界の大量絶滅の原因として議論されている。
注2. チクシュルーブ衝突:6600万年前の白亜紀―古第三紀境界を生んだ小惑星衝突。この小惑星衝突により大量絶滅が起きて生物相が大きく変わった。地質時代は、化石記録の変化が大きい地層で分けられているので、小惑星衝突が白亜紀―古第三紀境界を生んだことになる。チクシュルーブはメキシコのユカタン半島の衝突場所の地名。地球表面に少なく、隕石に多いイリジウムの濃集から1980年に直径約10kmの小惑星衝突説が提唱され、1990年にチクシュルーブクレーターがその小惑星衝突の場所として報告された。厚さ約3kmの石灰岩・硫酸塩の蒸発岩(海水が蒸発してできた岩塩を主とし泥岩・原油を含んでいたと推定される。衝突によりその下の花崗岩まで吹き飛びクレーターが形成された。その底部には岩石が溶けて固結した岩石がある。その固結時の年代値は大量絶滅の年代の6600万年前と一致する。



問い合わせ先

東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
Email:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください




東北大学 理学研究科・理学部