お知らせ

赤色ダイズができる仕組みを解明! - 2つの遺伝子の機能が失われることで赤色になる -

概要

福島大学食農学類附属発酵醸造研究所の菅波眞央特任講師と東北大学大学院生命科学研究科の渡辺正夫教授、大学院農学研究科の小島創一助教らの研究グループは、ダイズの多様な色の違いがどのようにして生まれるのか、その仕組みを明らかにしました。

ダイズには、一般的な種子が黄色の品種の他に、黒色、茶色、緑色、赤色など様々な色を持つ品種が存在します。本研究では、多数のダイズ品種のゲノム情報を解析することで、ダイズ種皮の色を決める重要な4遺伝子を特定し、この組み合わせにより、色素の種類が変化し、多様な色が生まれることを明らかにしました。特に、赤色ダイズはこれまで原因物質が明らかになっていませんでしたが、赤色の原因色素が「ペラルゴニジン-3-グルコシド」というアントシアニンであることを特定し、さらに2つの遺伝子の機能が失われたことが原因であることを世界で初めて明らかにしました。本成果は、特徴的な色を持つ品種の開発やダイズの外観品質の安定化につながることが期待されます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、ならびに福島国際研究教育機構(F-REI)委託事業の助成(土壌低分子有機物の植物栄養学的影響の解明(代表:菅波眞央))を受けたものです。

□ 東北大学ウェブサイト



本研究のポイント

● ダイズは品種によって様々な色のバリエーションが存在しており、これは蓄積する「フラボノイド」の種類の違いに起因する。

● ダイズ333品種のゲノム情報を解析し、フラボノイド合成に関わる4つの遺伝子の組み合わせによって「アントシアニン」「プロアントシアニジン」の蓄積の有無が変化していた。

● 赤色ダイズでは、2つの遺伝子(W1, T)の機能が失われることで「ペラルゴニジン-3-グルコシド」というアントシアニンが蓄積していた。

● 品種改良の過程において、外観の良い種子を安定的に生産するのに効果的な遺伝子の組み合わせが選ばれていた。

● ダイズの色素合成メカニズムが明らかになったことで、特徴的な色を持つ品種の開発やダイズの外観品質の安定化につながることが期待される。



研究の背景

福島大学食農学類附属発酵醸造研究所は、発酵醸造プロセスに関する研究だけでなく、イネやダイズなどの発酵醸造の主原料となる作物の栽培や新品種開発に関連した研究から食・健康との関連まで、幅広く新たな視点からの先端研究を遂行し、発酵醸造研究をリードする研究成果を世界に発信することを目指しています。

ダイズは、味噌、醤油など多様な発酵食の原料として日本食を支える重要な作物です。ダイズには、一般的な黄色の品種の他に、黒色、茶色、緑色、赤色など様々な色を持つ品種が存在します。野生のダイズ(ツルマメ)はもともと黒い種子を持っていましたが、長い品種改良の歴史の中で、さまざまな色の品種が生み出されてきました。この色は「フラボノイド」が蓄積した色ですが、品種ごとの色の違いが生まれるメカニズムは完全に解明されておらず、特に赤色ダイズは原因となる色素とその生成メカニズムの両方が未解明でした。



研究の成果

本研究では、333品種のダイズの全ゲノム情報を解析し、品種間の色の違いを生み出す遺伝的要因としてフラボノイド合成に関わる4つの遺伝子(I, R, W1, T)が重要であることを明らかにしました。さらに、これらの遺伝子の組み合わせが異なる品種を対象として、遺伝子発現解析と色素成分分析を行ったところ、組み合わせにより蓄積するフラボノイドの種類と量が異なることが分かりました。例えば、黒色ダイズは4遺伝子が全て機能することで、アントシアニンとプロアントシアニジンという2種類のフラボノイドが高濃度に蓄積していました。一方、茶色ダイズでは、アントシアニン合成を制御するR遺伝子の機能が失われることで、アントシアニンは合成されず、プロアントシアニジンのみが蓄積していました。黄色ダイズでは、これらの色素はほとんど蓄積していませんでした。

赤ダイズでは、アントシアニンの一種である「ペラルゴニジン-3-グルコシド」がわずかな量だけ蓄積していました。これは、多量のアントシアニン、プロアントシアニジンを作る上で重要な2つの遺伝子(W1, T)の機能が同時に失われることで、引き起こされていることを明らかにしました。

また、色の違いを決める4つの重要遺伝子が選抜過程でどのように選ばれてきたかを調べたところ、近年育成された黄ダイズ品種では、アントシアニン合成を制御するR遺伝子とプロアントシアニジン合成に必要なT遺伝子が両方とも機能しない組み合わせが選ばれていることがわかりました。黄色ダイズでは、1つの遺伝子(I遺伝子)によって色素合成が抑えられていますが、環境条件によっては部分的に色が出てしまうことがあります。近年育成された品種では、1つの遺伝子(I遺伝子座)だけでなく、さらに複数の遺伝子の機能を失わせることで、色素合成をより確実に抑え、外観品質を安定させていることが分かりました。



成果の意義

本研究の成果は、ダイズの外観品質の安定化や特徴的な色を持つ品種の開発につながることが期待されます。

また、ダイズの外観品質を安定化させる遺伝子の組み合わせは、より見た目の良い種子を安定的に生産したいという育種家の試行錯誤の結果であると考えられます。このように、ゲノム情報から人類の長期にわたる試行錯誤の歴史を読み解くことで、品種育成に繋がる重要な知見を得ることができます。

なお、本研究は愛媛県立西条農業高校の鎌倉雅都さん、白石愛花さん、別府和則教諭(現在は今治南高等学校)との共同研究の成果となります。



掲載誌・論文

雑誌誌:『Plant Physiology and Biochemistry』(Elsevier)
DOI:10.1016/j.plaphy.2026.111251
論文タイトル:Combination of color-related genes regulates pigment composition and establishes diverse coloration in soybean(色関連遺伝子の組み合わせが、大豆の色素組成を調節し、多様な色彩を形成する)
著者:菅波眞央1,*,#,小島創一2,*,鎌倉雅都3,白石愛花3,別府和則3,吉田英樹1,二瓶直登1,4,高橋秀和1,4, 和氣駿之5,中山亨5, 林真妃6,増子(鈴木)潤美6,佐藤萌2,吉田久美7, 升本早枝子1,4,松田幹1, 4,渡辺正夫6,#,松岡信1,#
・著者の所属:
1 福島大学食農学類附属発酵醸造研究所,2 東北大学大学院農学研究科,3愛媛県立西条農業高校,4 福島大学食農学類,5 東北大学大学院工学研究科,6 東北大学大学院生命科学研究科,7 愛知淑徳大学食農創造科学科
* 共筆頭著者
# 責任著者



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科、兼担 理学部生物学科[web
教授 渡辺 正夫(わたなべ まさお)
TEL:022-217-5681
Email:masao.watanabe.b1[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL:022-217-6193
Email:lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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