お知らせ

隠れたニュートリノ源としての宇宙最遠方の赤い極小銀河 ―初期宇宙の新天体に着目―

概要

京都大学基礎物理学研究所の久世陸湯川特別研究員、井岡邦仁教授、村瀬孔大特任教授(兼ペンシルベニア州立大学教授)、東北大学学際科学フロンティア研究所・大学院理学研究科の木村成生准教授、北京大学の稲吉恒平准教授らの国際共同研究グループは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により近年発見された高赤方偏移天体、リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)(注1)が、宇宙を満たす高エネルギーニュートリノ(注2)の起源の一部となりうることを理論的に示しました。

高エネルギーのニュートリノは宇宙から地球へ届いていますが、その起源は未解明です。リトル・レッド・ドットは、最近報告された高赤方偏移宇宙に存在する小さく赤い銀河で、中心に成長中の巨大ブラックホールを持つ可能性があります。本研究では、このブラックホールが高密度のガス外層に包まれている場合、X線やガンマ線などの光は外へ出にくい一方で、ニュートリノは宇宙空間へ抜け出せることに着目しました。研究グループは、中心ブラックホールから噴出するジェットやアウトフロー(注3)がガス外層の内部に埋もれ、その中で高エネルギー粒子が加速され、周囲の光との相互作用でニュートリノが生成される状況を考えました。解析的な見積もりと数値計算により、リトル・レッド・ドットがガンマ線では見えにくい「隠れたニュートリノ源(注4)」として、宇宙から届く高エネルギーニュートリノの一部を担いうることを示しました。

本成果は、高赤方偏移宇宙の新しい天体種族が、高エネルギーニュートリノの起源候補になりうることを示すものです。本研究成果は、2026年4月28日に米国の国際学術誌「Physical Review D」にオンライン掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト


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リトル・レッド・ドットの中心には、厚いガス外層に包まれたブラックホールが存在する可能性があります。この環境では、中心付近で生じた光はガス中で吸収・散乱されて埋もれる一方、ニュートリノは物質とほとんど反応せず外へ抜け出せます。リトル・レッド・ドットが数多く存在すれば、宇宙から届く高エネルギーニュートリノの一部を担っている可能性があります。
作図:久世 陸 (京都大学基礎物理学研究所)



1. 背景

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により、高赤方偏移宇宙に、リトル・レッド・ドットと呼ばれる小さく赤い銀河が多数発見されました。これらの天体は非常にコンパクトで明るく、広い輝線を示すことから、中心に成長中の巨大ブラックホールを持つ可能性があります。リトル・レッド・ドットの正体はまだ明らかになっていませんが、その観測的な特徴を説明する有力な考え方の一つとして、中心のブラックホールが高密度のガス外層に包まれているという描像があります。この場合、ブラックホール近傍から生じる強い放射は、周囲のガス中で吸収・散乱され、そのまま外へ出にくくなります。

このような高密度環境は、高エネルギーニュートリノの生成にも重要です。ニュートリノを作るには、陽子などの高エネルギー粒子が周囲の光子や物質と衝突する必要があります。このシナリオでは、リトル・レッド・ドットの中心ブラックホール周辺に豊富な光子や高密度のガスが存在すると考えられるため、このような衝突が効率よく起こる可能性があります。さらに、ニュートリノは物質とほとんど反応しないため、厚いガスの中で生成されても外へ抜け出すことができます。この特徴により、リトル・レッド・ドットは光では見えにくい一方でニュートリノを放出する「隠れたニュートリノ源」として働く可能性があります。

宇宙からは、非常に高いエネルギーを持つニュートリノが地球へ飛来していることが、南極のIceCube(アイスキューブ)実験などにより明らかになっています。しかし、宇宙全体から届く「全天高エネルギーニュートリノ背景放射(注5)」が、どのような天体によって作られているのかは、現在も大きな未解決問題です。高エネルギーニュートリノを作る天体では一般にガンマ線も同時に作られるため、観測されているガンマ線背景放射との整合性を考えると、これらニュートリノの起源天体としてガンマ線が外へ出にくい「隠れた天体」が有力な候補となります。本研究では、リトル・レッド・ドットがそのような隠れたニュートリノ源として、宇宙から届くニュートリノの一部を担いうるかを調べました。



2. 研究手法・成果

本研究では、ブラックホール近傍からジェットまたはアウトフローが放出され、その内部で陽子などの高エネルギー粒子が加速されると考えます。ただし、リトル・レッド・ドットでは、このようなジェットまたはアウトフローからの放射はほとんど観測されていないため、ジェットがガス外層を突き破って外へ出るのではなく、外層の内部で埋もれた状態を扱いました。

加速された陽子が周囲の強い光子場と衝突すると、パイ中間子が作られ、その崩壊によって高エネルギーニュートリノが生成されます。重要な点は、リトル・レッド・ドットの環境が「高エネルギーニュートリノは逃がすが、ガンマ線は閉じ込める」構造になりうることです。特に、高密度のガス外層は、発生したニュートリノは外へ逃げる一方で高エネルギーの光を外へ出にくくします。

研究グループはまず、リトル・レッド・ドットの典型的な明るさや数密度を用いて、これらの天体が全天高エネルギーニュートリノ背景放射にどの程度寄与しうるかを解析的に見積もりました。その結果、リトル・レッド・ドットは宇宙から届く高エネルギーニュートリノの起源候補として十分検討に値することが分かりました。さらに研究グループは、単純なエネルギー見積もりだけでなく、粒子加速、冷却、ニュートリノ生成を含む数値計算も行いました。この数値計算では、加速された陽子、そこから生じる二次粒子、さらにそれらの冷却過程を取り入れ、リトル・レッド・ドットから期待されるニュートリノスペクトルを評価しました。その結果、リトル・レッド・ドットは条件によっては観測されている全天高エネルギーニュートリノ背景放射の一部を担いうることが分かりました。特に、本成果の意義は、特定の寄与率そのものではなく、近年発見されたリトル・レッド・ドットという新しい天体種族が、宇宙ニュートリノの起源候補になりうることを初めて具体的に示した点にあります。



3. 波及効果、今後の予定

本研究は、リトル・レッド・ドットを高赤方偏移宇宙に存在する新しい「隠れたニュートリノ源」候補として位置づけるものです。個々のリトル・レッド・ドットからのニュートリノを直接検出することは難しくても、これらの天体が多数存在すれば、宇宙全体から届く全天高エネルギーニュートリノ背景放射の一部に寄与しうる可能性があることを示しました。

今後の重要な課題の一つは、ニュートリノの「フレーバー」と呼ばれる種類の比率を調べることです。本研究で考えた高密度環境では、ニュートリノを作る過程で生じる二次ミュー粒子が効率よくエネルギーを失い、地球で観測されるニュートリノの種類の比率が変わる可能性があります。このような特徴が将来観測されれば、リトル・レッド・ドットが隠れたニュートリノ源として有力であるかを検証する手がかりになります。

また、最近では電波やX線を示すリトル・レッド・ドットも報告されています。これは、一部の天体ではジェットやアウトフローがガス外層を突き破って外へ現れている可能性を示しています。そのため今後は、どのような条件でジェットが外層内に埋もれ、どのような条件で外へ抜け出すのかを詳しく調べることが重要です。こうした研究により、ガス外層の性質をより詳しく制限し、リトル・レッド・ドットからのニュートリノ放射をより高精度に予測できるようになると期待されます。



4.研究プロジェクトについて

本研究は、京都大学基礎物理学研究所、ペンシルベニア州立大学、東北大学、北京大学の研究者による国際共同研究として実施されました。本研究は、京都大学湯川記念財団、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23H01172、JP23H05430、JP23H04900、JP22H00130, JP22K14028, JP21H04487, JP23H04899)、文部科学省世界で活躍できる研究者戦略育成事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」、 米国 National Science Foundation(AST-2108466、AST-2108467、2308021)、中国国家自然科学基金(12573015、W2532003、1251101148、12233001)、北京市自然科学基金(S25003)、および中国有人宇宙飛行計画(CMS-CSST-2025-A09)の支援を受けて実施されました。



用語解説

注1. リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD):ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により初期宇宙で多数見つかっている、コンパクトで赤い銀河です。中心に成長中の巨大ブラックホールを持つ可能性があります。
注2. ニュートリノ:電気を持たず、物質とほとんど反応しない素粒子です。天体の内部で作られても吸収されにくいため、光では見えない高エネルギー現象を調べる手がかりになります。
注3. ジェット・アウトフロー:ブラックホール近くからほぼ光速で噴き出すプラズマの流れです。この中で粒子が高エネルギーまで加速される可能性があります。

注4. 隠れたニュートリノ源:ニュートリノは放出する一方で、同時に作られるガンマ線が周囲の光や物質によって外に出にくく、ガンマ線では暗く見える天体のことです。
注5. 全天高エネルギーニュートリノ背景放射:宇宙の多数の天体から来る高エネルギーニュートリノが重なり合って観測される成分です。個々の天体に分解することが難しく、その起源は未解明です。


研究者のコメント

「リトル・レッド・ドットは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって初めて見えた初期宇宙の新しい天体です。本研究では、それらが高エネルギーのニュートリノを放射している可能性に着目しました。個々の天体をニュートリノで直接見ることは難しくても、宇宙に多数存在することで、観測されている高エネルギーニュートリノの一部を担いうることを示した点に大きな意義があると考えています。」(久世 陸)



論文タイトルと著者

タイトル:Little Red Dots as Hidden Neutrino Sources
著者:Riku Kuze, Kunihito Ioka, Kohta Murase, Shigeo S. Kimura, Kohei Inayoshi
掲載誌:Physical Review D, 113, 083048
DOI:10.1103/vbfz-ncxd



参考図

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リトル・レッド・ドットから期待される宇宙ニュートリノの強度。太線は本研究で予測されるニュートリノ強度を示し、細線はアイスキューブで観測されている宇宙ニュートリノを説明するために必要な強度の目安を示す。赤線は観測されたリトル・レッド・ドットの数から推定された分布モデルを用いた予測、青線は理論モデルに基づいて推定された分布モデルを用いた予測、オレンジ線は単純な分布を仮定した比較モデルを表す。黒点と灰色点はアイスキューブによる観測データを示す。
(クレジット:Kuze et al., Physical Review D 113, 083048(2026)の図を改変)



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所 兼務 理学研究科天文学専攻[web
准教授 木村 成生(きむら しげお)
TEL:022-795-6523
Email:shigeo[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学 学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 波田野 悠夏(はたの ゆか)
E-mail:fris-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
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