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植物の受精卵は力学を活用して成長する 〜成長と力学のフィードバックによって植物の上下ができる〜
発表のポイント
● 植物の受精卵の先端をバンド状に取り囲む微小管が力学的な「枠」となり、受精卵が横方向に成長するのを阻止していることを明らかにしました。
● 受精卵が縦方向に成長するとその部分の表面張力が高まり、そこに微小管が集まることで新しい微小管バンドが作られました。
● この微小管バンドと細胞成長の力学的なフィードバックによって受精卵は縦に伸び続け、植物の上下軸が作られます。
概要
多くの植物では、まず受精卵が上下非対称に細胞分裂することで、将来の花と根を結ぶ体軸(上下軸)が作られます。しかし、受精卵がどうやって上下を作るのかはほとんど分かっていませんでした。
東北大学の植田美那子教授と北海道大学の津川暁准教授の共同研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナにおいて、受精卵が成長する様子をライブイメージングし、その変化を正確に再現したシミュレーションモデルを作りました。その結果、受精卵が上方向(縦)に成長すると細胞表面の張力が増加し、そこに微小管がバンド状に集まって細胞を締め付ける「枠」となることで、受精卵の横への成長が阻まれて縦への成長が続く、という相互に影響し合うフィードバック制御を発見しました。
この研究によって、受精卵が力学的な仕組みを活用することで自動的に成長を続けるという、精緻な戦略が明らかになりました。この発見により、植物のかたち作りの理解が進むと期待されます。
本研究成果は科学誌Nature Communicationsに2026年5月22日付でEarly Access版として掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
植物には、花や葉、根や茎など、さまざまな器官があります。それらのかたち作りの基礎となっているのは、上下・左右・前後の方向性を決める「体軸」です。多くの植物において、まず受精卵が上下非対称に細胞分裂して将来の花と根を結ぶ体軸(上下軸)が作られますが、受精卵がどのように上下を作るか、ほとんど分かっていませんでした。
今回の取り組み
東北大学大学院生命科学研究科の中川朔未氏(大学院生)、松本光梨助教、花木優河氏(研究当時:大学院生)、植田美那子教授、北海道大学大学院工学研究院機械・宇宙航空工学部門の康子辰博士研究員(研究当時:秋田県立大学)、津川暁准教授(研究当時:秋田県立大学)、神戸大学工学研究科の野々山朋信研究員(研究当時:秋田県立大学)、佐賀大学理工学部の石本志高教授らの研究グループは、実験に適したモデル植物であるシロイヌナズナを使って、受精卵が成長して上下分裂するまでの動態を精緻にライブイメージングし、上下軸が作られる仕組みを探りました。
受精すると、受精卵は上方向(縦)に成長し始め、その成長領域を取り囲むように微小管が集まり、微小管バンドを作ります。この微小管バンドが集まる仕組みを探るために、受精卵が成長する様子を正確に再現した力学シミュレーションモデル(弾塑性変形モデル)を作ったところ、細胞が成長した場所で表面張力が増えることが推定されました。この場所が微小管バンドの集まる部位と一致したことや、細胞の成長を止めて表面張力が増加しないようにすると微小管バンドが集まらなくなったことなどから、細胞成長によって表面張力が増えるという自然な力学変化によって、微小管のバンドが作られることが明らかになりました。逆に、微小管バンドを壊すと受精卵が横方向に広がったことから、微小管は力学的な「枠」として受精卵の先端を締め付けることで、受精卵の縦方向への成長を誘導することも分かりました。つまり、受精卵の縦成長と微小管バンドの形成が相互に依存し合うという力学的なフィードバックが働くことで、受精卵は自動的に縦に伸び続けることができることを発見しました。さらに、この微小管バンドは受精卵が分裂する位置にも影響することで、上下非対称な分裂、つまり上下軸の形成にも繋がることが見えてきました。
今後の展開
本研究によって、受精卵が縦に伸びることで自ら力学的な変化を誘導し、それを微小管が感知することで、自律的に成長と分裂が制御されるという、精緻かつシンプルな戦略が明らかになりました。今後、微小管がどうやって表面張力を感知できるのかや、受精卵が最初に縦に伸び始めるきっかけが何かを特定することで、かたち作りの仕組みの理解がさらに進むと期待されます。
図1. (A)本研究で行った解析の流れ。(B)本研究で見出した細胞成長と微小管による力学フィードバックの模式図。
謝辞
本研究は、文部科学省・日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業研究活動スタート支援(JP21K20650)、若手研究(JP22K15135・JP20K15832)、学術変革領域研究(A)(JP19H05670・JP19H05676)、基盤研究(B)(JP23H02494)、特別研究員奨励費(JP25KJ0540)、国際先導研究「植物生殖の鍵分子ネットワーク」(JP22K21352)、新学術領域「先端バイオイメージング支援」(JP16H06280)、科学技術振興機構(JST)CREST(JPMJCR2121)、サントリー生命科学財団(SunRiSE)東レ科学振興会(20-6102)の支援を受けて行われました。掲載論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。
論文情報
タイトル:Temporal changes in surface tension guide microtubule organization and accurate asymmetric division of Arabidopsis zygotes
著者:Zichen Kang†, Sakumi Nakagawa†, Hikari Matsumoto, Yukitaka Ishimoto, Tomonobu Nonoyama, Yuga Hanaki, Satoru Tsugawa* and Minako Ueda*
*共同責任著者:
北海道大学大学院工学研究院機械・宇宙航空工学部門 准教授 津川暁
東北大学大学院生命科学研究科 教授 植田美那子
†共同筆頭著者:
北海道大学大学院工学研究院機械・宇宙航空工学部門 博士研究員 康子辰
東北大学大学院生命科学研究科 大学院生 中川朔未
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-72280-4
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科、兼担 理学部生物学科[web]
教授 植田 美那子(うえだ みなこ)
TEL: 022-795-6713
Email: minako.ueda.e7[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL:022-217-6193
Email:lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年5月26日