お知らせ

\銀河の"最深部"の動きをX線で追う!/ ブラックホール時空に振り回される物質たち ― 一般相対性理論が予言するガス円盤の歳差運動の兆候を掴む ―

研究成果のポイント

● 日本のX線分光撮像衛星XRISM(注1)と、NASAのX線天文衛星NuSTAR(注2)を用いて、ブラックホール近傍のガス円盤(注3)の構造が時間進化していく様子を明らかに。

● 観測データを時間ごとに分けて解析することで、鉄の特性X線(注4)の形状が刻々と変化し、円盤の内側が徐々にブラックホールに近づいていること、円盤の傾きが約2.4日の周期で変化し続けていることがわかった。

● 一般相対性理論が予言するブラックホールの自転が周囲の時空を引きずり、傾いた円盤を首振り運動するコマのように振り回す「レンズ・ティリング歳差(注5)」で説明できることがわかり、特性X線の時間変化から時空の引きずりによる歳差運動を、世界で初めて捉えた可能性を示した。



概要

大阪大学大学院理学研究科の川室太希助教、東北大学の山田智史助教と野田博文准教授、芝浦工業大学の井上芳幸教授(研究開始当時:大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻 准教授)、東京理科大学の小川翔司助教、福岡教育大学の水本岬希准教授らの研究グループは、日本主導で打ち上げたX線分光撮像衛星XRISMと、NASAのX線天文衛星NuSTARを用いて、ブラックホール近傍のガス円盤の構造が時間進化していく様子を明らかにし、一般相対性理論の予言の一つ「レンズ・ティリング歳差」として説明できることを明らかにしました。

本研究では、りょうけん座方向にある銀河NGC4395の中心にあるブラックホールを約5日間観測しました。ブラックホールそのものは光を出さないため、直接見ることはできません。しかし、ブラックホールへ落ち込むガスは非常に高温になり、X線を放ちます。さらにこのX線が周囲を照らし、照らされた鉄原子から決まったエネルギーを持つ光(特性X線)が放たれます。しかし、この鉄原子からの特性X線のエネルギーは、ブラックホールの強い重力やガスが高速で回転することによるドップラー効果の影響を受けて変化します。逆に考えると、その変化を高い精度で捉えることで、ブラックホール周辺の構造や運動、さらには時空をも調べることができます。

今回、研究グループはX線天文衛星XRISMに搭載の検出器Resolve(注6)の非常に高いエネルギー分解能を活かし、NGC4395のブラックホール周りの鉄原子からの特性X線を詳しく調べました。その結果、遠方で比較的ゆっくり回転する物質から出る成分と、ブラックホールの近くで強い重力を受けながら高速回転する円盤状のガスから出た成分を精度よく分離することに成功しました(図1)。さらに、観測データを時間ごとに分けて解析したところ、特性X線の形状が刻々と変化していることがわかりました(図2)。ここから円盤の内側が徐々にブラックホールに近づいていること、さらには円盤の傾きが約2.4日の周期で変化し続けていることがわかりました(図3)。

本研究は、一般相対性理論が予言する「時空の引きずり」により、ブラックホール近傍のガス円盤が歳差運動し揺れ動く様子を、円盤からのX線放射の観測から世界で初めて捉えた可能性を示す成果です。また、ブラックホール近くの物質の動きの時間変化を調べることで、強い重力場における一般相対性理論の予言を検証する新しい道を開くものです。今後、同様の観測を他のブラックホールにも広げることで、ブラックホールがどのように物質を飲み込み、どのように成長してきたのかを理解する重要な手がかりになると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「The Astrophysical Journal Letters」に、7月9日(木)午前1時(日本時間)に公開されました。



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図1. Resolveと過去のX線天文衛星「すざく」のX線スペクトル(それぞれ、黒と灰色のクロスで表されている。)。エネルギー6keVあたりで、遠く比較的ゆっくりと動いているガスからの細い特性X線(線)に加え、ブラックホール近くの円盤からの広がった成分(オレンジ線)が、Resolveによって綺麗に見分けられていることがわかる。右上では、ブラックホール近傍から出たX線が円盤や遠方のガスに当たり、特性X線が出るパスを示している。



用語説明

注1. XRISM(クリズム):日本が中心となって開発したX線分光撮像衛星。宇宙から届くX線のエネルギーを精密に測ることで、高温ガスやブラックホール周辺の物理状態を調べることができる。
注2. NuSTAR(ニュースター):NASAのX線天文衛星。比較的高いエネルギーのX線を観測できる。XRISMと組み合わせることで、ブラックホール周辺から出るX線の全体像をより正確に調べられる。
注3. ガス円盤:ブラックホールなどの重い天体の周りを回りながら落ち込んでいくガスが作る円盤。ガスは高温になり、紫外線やX線などを放つ。
注4. 鉄の特性X線:鉄原子から放たれる特徴的なX線。ブラックホール近くで放たれると、強い重力や高速運動の影響で形がゆがむため、ブラックホール近傍の構造を調べる手がかりになる。
注5. レンズ・ティリング歳差:Lense-Thirring歳差のドイツ語の発音を参考。回転するブラックホールの周りで、傾いた円盤などがブラックホールの自転に引きずられて首振り運動をする現象。一般相対性理論から予言される効果の一つ。
注6. Resolve:XRISMに搭載されたX線分光装置。X線のエネルギーを非常に細かく測ることができるため、特性X線のような細い構造や、わずかな形の変化を調べるのに適している。



論文情報

タイトル:XRISM Time-resolved Fe Kα Spectroscopy of NGC 4395: Time Variable Inner-disk Emission
著者:Taiki Kawamuro, Satoshi Yamada, Hirofumi Noda, Yoshiyuki Inoue, Shoji Ogawa, and Misaki Mizumoto
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
DOI:10.3847/2041-8213/ae796e



詳細

プレスリリース本文:東北大学ウェブサイトPDF



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 天文学専攻[web]
准教授 野田 博文(のだ ひろふみ)
電話:022-795-6535
Email:hirofumi.noda[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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