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植物の成長ホルモン「ブラシノステロイド」が糖新生を促進する新たなメカニズムを解明 ―酵素の立体構造変化を介した精緻な代謝調節―
発表のポイント
● 植物の成長を促進するホルモン、ブラシノステロイド(BR)(注1) が、「糖新生(注2)」を活性化する新たな仕組みを解明しました。
● BRシグナルの抑制因子であるBIN2キナーゼ(注3)が、糖新生の鍵酵素PCK1(注4)の特定部位をリン酸化し、酵素の立体構造を6量体から12量体へ変化させることで、その働きを強く阻害することを発見しました。
● この制御機構は、発芽直後の実生定着における糖新生だけでなく、トウモロコシやソルガムなどC4植物(注5)の特殊な光合成においても重要な役割を果たしており、将来的な作物のバイオマス生産向上に向けた新たな標的として期待されます。
概要
植物の糖供給は、葉で行われる光合成(二酸化炭素の固定)だけでなく、有機酸やアミノ酸、脂質などを糖に変換する「糖新生」という過程にも大きく依存しています。特に発芽直後の葉が未発達な時期には、この糖新生が不可欠です。また、C4植物は、糖新生で中心的な役割を果たすPCK1酵素を応用した特殊な光合成回路を持ち、効率的な糖生産を行っています。
東北大学大学院生命科学研究科の別所--上原奏子助教とカーネギー研究所のZhiyong Wang教授らの国際共同研究チームは、植物の成長を促進するホルモン、ブラシノステロイドに着目しました。研究の結果、ブラシノステロイド存在下ではPCK1が脱リン酸化され、活性を維持することで、植物の成長に必要な糖の供給を制御していることを発見しました。緻密なエネルギー制御の分子機構が明らかになったことで、将来的により早く、より大きく育つ作物の開発につながる可能性があります。本研究成果は2026年8月28日に国際誌Nature Plantsに掲載されました。
図1. ブラシノステロイドによりPCK酵素活性が変化する。(A)ブラシノステロイド生合成阻害剤 PPZを投与すると濃度依存的にPCK酵素の活性が低下する。 (B) PPZを与えるとリン酸化されたPCK1(P-PCK1)が増えるが、活性型ブラシノステロイドBLを与えると脱リン酸化される。
用語説明
注1. ブラシノステロイド(BR):植物の細胞伸長、分裂、分化など、成長全般を強力に促進する植物ステロイドホルモンの一種。
注2. 糖新生:糖質以外の物質(脂質やアミノ酸など)からグルコースなどの糖を合成する代謝経路。
注3. BIN2(BRASSINOSTEROID-INSENSITIVE 2):GSK3(グリコーゲン合成酵素キナーゼ3)に似た構造を持つキナーゼ(リン酸化酵素)で、BRシグナル伝達経路において負の制御因子として働く。
注4. ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PCK1):オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸に変換する酵素。種子発芽時の脂質から糖への変換する糖新生や、C4植物の光合成において二酸化炭素を放出する重要な役割を担う。
注5. C4植物:効率のよいC4光合成を行う植物の総称。一般的な植物(C3植物)に比べ、二酸化炭素を細胞内に濃縮する仕組みを持つため、乾燥や高温、強光下といった過酷な環境でも水分を節約しながら旺盛に生育できる。
論文情報
タイトル:Brassinosteroids promote sugar synthesis by inhibiting BIN2 phosphorylation of phosphoenolpyruvate carboxykinase
著者:Hongliang Zhang#, Yalikunjiang Aizezi#, Kanako Bessho-Uehara, Ajeet Chaudhary, Cao Son Trinh, Shou-Ling Xu, Zhi-Yong Wang* (#共同筆頭著者、*責任著者)
*責任著者:Carnegie Institution for Science, Zhi-Yong Wang
掲載誌:Nature Plants
DOI:10.1038/s41477-026-02379-5
詳細
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科 兼担 理学部生物学科[web]
助教 別所-上原奏子
TEL: 022-795-3543
Email: kanako.bessho.b3[at]tohoku.ac.jp
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL:022-217-6193
Email:lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年8月31日